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2013年5月1日欧州自治体のLinux&OSS移行事例がまたひとつ─スペイン・エストレマドゥーラ州が4万台をLinuxに

景気の低迷が続く欧州の中でも、ひときわ厳しい経済危機に直面している国の代表として名前が上がるのがスペインだ。国を挙げてのコスト削減が叫ばれるこの国でいま、とある自治体のITコスト削減事例がちょっとした話題になっている。

スペインの南西部、ポルトガルと国境を接するエストレマドゥーラ州のCIOであるTheodomir Cayetano氏は「4万台のデスクトップPCを、今年中にLinuxとOSSのオフィススイート/メールシステムに切り替える」と4月18日にアナウンスした。この移行により、年間で約3000万ユーロ(約38億5,000万円)ものコストが削減できる見通しだという。

デスクトップPCのLinux/OSSへの移行を検討する欧州自治体や公共機関は少なくないが、1万台を超える大規模マイグレーションはそれほど多くはない。これまで最も大規模な移行はフランス国家憲兵隊の9万台で、今回のエストレマドゥーラ州のケースはこれに続く規模だ。このほか、ドイツ・ミュンヘン市の1万3000台のOSS移行プロジェクトも大規模な成功事例として話題になった

今回、エストレマドゥーラ州がデスクトップOSに採用するのはDebianベースの独自ディストリビューションである「Sysgobex」だ。自治体の業務にあわせてカスタマイズを施し、すでに150台ほどを導入、いくつかの部署において利用を開始しているという。

実はエストレマドゥーラ州はすでにオープンソース導入の実績をもっている。前執行部の下で、州内の中学校に7万台、医療機関に1万5,000台のLinuxデスクトップマシンをそれぞれ導入し、これらは現在も使われている。ここで使われているOSはSysgobexと同じDebianベースの「Linex」だ。医療データの記録を扱いやすいようにカスタマイズしたSysgobexとも連携がしやすいため、各医療機関に保存されている市民の医療データを中央で一元的に管理することも可能になる。直接的なコスト削減だけでなく、こうしたストリームラインの一元化やプロセスの最適化による業務効率の向上、それによるコスト削減効果が大きく期待できるというわけだ。⁠今回のプロジェクトの目的のひとつは、市民に電子政府(e-government)を身近に感じてもらうこと」とCayetano氏は語っているが、医療データの一元管理はその好例だろう。

OSSへの大規模なマイグレーションは成功すればその効果は大きいが、無計画な移行は逆に税金の無駄遣いを招き、非難の対象となりかねない。Cayetano氏はそのことを十分に理解しており、このプロジェクトを「Challenge」と名付け、昨年3月からスペイン政府のOSSセンター「Cenatic」の下、計画の詳細を公開しながら市民の理解を求め、ようやく今回のスタートにこぎつけている。その周到な準備の裏には、背に腹はかえられない経済事情とともに、このITプロジェクトを絶対に成功させるというトップの強い意思が見えてくる。

Microsoftが何年も前から呼びかけているWindows XPのサポート終了について「ITは歴史が浅い業界」⁠突然のサポート終了なんて自治体/中小企業の財政を考慮していない」などとのたまい、惜しげもなく情弱をさらして恥じることのないどこかの国の"IT担当者"(と一部マスコミ)には、エストレマドゥーラ州のプロジェクト名"Challenge"が意味するところはきっと一生理解できないだろう。

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