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2020年1月6日号新春特別号 2019-2020年のUbuntu

2020年のUbuntu

2019年のUbuntuは、次の飛躍のための準備を行う年でした。今年4月に最新のLTS、20.04 LTSが控えているというだけでなく、CanonicalがIPOに向かうこと、そして業界内にいろいろな変化が生じていることもあり、変化の予兆が見られました。ここでは、2019年の動向を踏まえつつ、2020年にどのような変化が起きうるかを考えていきます。ちなみに、2019年の予想は2019年中に完了しなかったものも多く、一部は昨年からの持ち越しです。

20.04 LTSに向けての変化と準備

個人ユーザーにとっての2019年に起きた最大の変化は、ESMとLivepatchの無償化でしょう。

登録が必須であること、また、コミュニティユーザーの所有する3マシンまでという制約はあるものの(=企業でこれを利用するのはかなりグレーです⁠⁠、本来有償であるUbuntu Advantageの機能のうち、ESMとLivepatchを無料で利用できるようになります。もちろん、デスクトップ的な用途や最近のWebアプリケーションのような、構成ソフトウェアの更新を要求する目的であれば、10年間使い続ける選択よりはアップグレードしたほうが妥当です。しかし静的WebホスティングやDNSといった、変化の少なさを確信できる用途には適合するはずです。特に、14.04 LTSが残ってしまっている環境では非常に役に立つことになるでしょう。

一方、企業での用途という観点では、クラウド環境で利用できるUbuntu Proという選択肢が登場したことが大きな変化の兆しです。こちらもESMとLivepatchの入手方法として利用でき、また、これまで明確なサポート期間の宣言がなかった一部のアプリケーションについてもmainリポジトリと同じように利用するための手段として利用できます。現時点ではまだAWS上のみという形ではありますが、コードの実装的には今後異なるクラウドでも利用できる状態になっていくことが期待できます(とはいえ、Ubuntu Advantageを後から追加することでESM相当を入手することができたため、ESMとLivepatchだけという観点ではそこまで大きな差異ではありません⁠⁠。

これらの変化は、Ubuntuの利用範囲の拡大のための触媒であるとともに、サブスクリプションビジネスとしての「Ubuntuのサポート」を商業化するための動きと捉えることもできます。OSとしては無償なのでインストールベースを広げることは(クオリティさえ十分なものであれば)一定の範囲まではそこまで困難ではない、しかし、インストールベースから収益を上げることはかなり難しく、有償サポートを購入してくれるユーザー数が一定のラインに達しなくてはいけない、という、Linuxディストリビューションにつきまとう制約を超えるための試みの一つと言えるでしょう。

またこの試みはもうひとつ、CanonicalのIPO(株式公開)に向けた動きであるという捉え方もあります。株式公開をする以上、一定かつ、今後拡大するであろう収益構造を市場に示す必要があります。ある程度典型的なフリーミアムモデルとして提供されるUbuntu AdvantageやUbuntu Proとともに、Canonicalが公開企業として市場にチャレンジする光景は、⁠そこそこ」ありえる未来と言えるはずです。

一方、4月に行われる20.04 LTSのリリースで採用される目玉機能は、今年1月10日までサーベイが行われている段階であり、現時点で「こうだ」と言うことはまだ難しい部分があります。ここまでの流れ、特にIPOに関連した予測としては、⁠Snapを含めたコンテナ技術の進化」「プリインストールマシンのより積極的な拡大」という点がポイントとなるでしょう。また、業界全体のソフトウェアデプロイ技術が(少なくともコンテナについては)おおむねDockerとK8sに収束しつつあるため、それらのプラットフォームの最大多数のひとつであるUbuntuにとっては、大きな飛躍のチャンスになるという見方もできます。

また、日本に限定した話としては、Canonicalの日本語サイトの提供が開始され、Blogを含めた各種記事の翻訳が提供されるようになった点もポイントと言えるでしょう。今年どのような変化が起きるかという予測の材料はないものの、日本国内で有償サポートを利用しながらUbuntuを使う意味では、2019年・2020年は変化の年になるかもしれません。

新時代のデスクトップとWSL

2020年において、デスクトップ関連では「Ubuntuそのもの」には大きな変化はありませんでした。GNOMEの採用、Snapの積極的な利用といった観点では、それまでの流れを引き継ぐものであった、と言えます。しかし、Ubuntuを取り巻く環境はいろいろな面での変化が生じています。

まずハードウェアの観点では、SSDの価格が非常に低下し廉価なPCではSATAやeMMCのSSDが、そしてある程度の(カタログ上の)スペックを重視するPCではHDD+Optaneが、ハイエンドではNVMe SSDが、という構図が実現するようになりました。

この変化により、最新世代のハードウェアではスループットが向上するとともにIOPSが大きく改善され、ストレージまわりに一定のスペックを要求するコンテナを容易に利用できるようになります(コンテナは基本的に各種ライブラリを含めた「足回り」を個別にロードするため、やや大げさに言えば、アプリケーション起動のたびに異なるOSが起動するのと同程度のストレージ負荷を発生させることになります。これをHDDベースの環境で利用すると、かなりのロード時間に耐える能力が利用者に求められます⁠⁠。

もうひとつ、Ubuntuにとって2019年から引き継いだキーポイントとしては、ゲーミングPCへの親和性という観点があります。Linux版Steamに一定の存在感があること、また、マルチプラットフォームのゲームタイトルではLinux上でも動作することから「Ubuntuでも動く」エンターテインメントコンテンツは増えてきつつあるものの、WindowsやMacに比べて見劣りすることは否めません。2019-2020年は各種クラウドゲーミングの実装が登場していくことになるため、Ubuntuではゲームができない、といった問題が解決していくことになるでしょう。

ARMベースのハードウェアの利用範囲が拡大したことも注目すべき点です。ARM版Windows 10を搭載したノートPCが市場に提供されるようになったことで、これらのハードウェアをUbuntuで利用する手段が提供される方向になってきました。また、教育用・個人用という観点ではRaspberry Pi 4用の複数イメージが提供されるようになったことも大きな変化です。さらに、サーバー向けのARM Neoverse N1/Ares Platformを始めとする複数の実装が現れてきているため、サーバー向けのARMの生息範囲も拡大しつつあります。2020年にはこの流れがさらに加速し、省電力が要求される環境ではARMという動きが基本になるかもしれません。

新しい動き

Ubuntuの利用範囲の拡大という観点では、Raspberry Pi 4以外にも多くの注目ポイントがあります。最大の要素はWSLとWSL2であり、すべてのWindows 10環境がそのままUbuntuのインストールベースになりうるはずです。Ubuntu的には、WSL/WSL2の第一選択ディストリビューションの一つであるとともに、wsluパッケージを併用することで他のディストリビューションよりも便利に使えるという立ち位置を狙っていくことになります。

Ubuntuプリインストールマシンが継続的に提供されるようになっている点もポイントです。Dellの⁠Sputnik⁠とWSLにより、⁠開発者向けの環境」となることを狙っていき、⁠開発ならMac」という構図にチャレンジしていくことになります。

同様の2019年から引き継がれる変化として、OptaneをはじめとするNVDIMMに向かう流れも継続するでしょう。

2020年以降の大きな流れとしては、車載Roboticsデジタルサイネージといった、広義のIoT(Internet of Things)に分類される領域も注目対象です。2019-2020年は5Gにとっての黎明期にあたり、⁠使う」ことにフォーカスしているUbuntuにとっては有利な市場となりえるはずです。

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