不定点観測所

第8回いま電子書籍フォーマットを統一すべきか

官庁も動き出した

電子出版の課題や制度について検討する総務省と経済産業省、文部科学省の3省合同検討会が報告書を発表した。この報告書によると電子書籍のフォーマット統一へ向けた「電子出版日本語フォーマット統一規格会議(仮称⁠⁠」が立ち上がることが決まった。

ここでいう電子書籍の統一規格とは、KindleやiPadといった個々のデバイスに最適化された閲覧(最終)フォーマットではなく、その手前の中間(交換)フォーマットだという。この中間フォーマットからデバイスの特性に合わせて最適化された最終フォーマットを吐き出すことが想定されている。

フォーマットを統一するメリット

たしかに携帯電話、スマートフォン、電子ブックリーダーなどによって解像度が異なるだけでなく、プラットフォームによってフォーマットやDRM(DigitalRights Management;デジタル著作権管理)が異なり、出版社がそれぞれ別々に入稿するには手間が多い。ひとつの決まったフォーマットでさまざまなデバイス向けに配信できれば出版社の手間が減ってコンテンツが増えることが期待される。

フォーマットは統一すべきか

一方で電子書籍市場が世界的に立ち上がって活発な競争と技術革新が続く中、政府が特定の中間フォーマットに肩入れすることのリスクも無視できない。

組版のワンソース・マルチユースでさまざまな技術手法が考えられるところ、特定の技術手法にロックインされてしまう恐れがある。さらに、将来的に端末側で優れた表現力や機能が追加されても、中間フォーマットの規定を超える表現力が活用されない可能性も考えられる。

国際的な標準化にむけた議論

電子書籍を巡る議論は国際的にも盛り上がっており、電子書籍のEPUBであれ、Web標準のHTML5やCSS3であれ、国際的な標準化へ向けた議論が進展している段階にある。

これから国内で標準化の議論をはじめ、日本人だけで議論した規格を国際的に持ち出そうにも、時期を逸してしまいかねない。

利用者視点

そもそも往年のVHS対ベータの時のように、電子書籍でフォーマットが重要かどうか定かではない。

XMLベースの記述言語であれば簡便に相互変換できるし、フォーマットだけを標準化しても複製管理や端末管理については手つかずで、利用者から見た相互運用性を担保する見通しは立たない。

競争環境の整備も重要

これまで日本は世界に先駆けて電子ブックリーダーが商用化されたにも関わらず、普及や国際展開でAmazonやAppleに出遅れた。コンテンツの不足は大きな要因のひとつではあるが、それ以外にも販路や利便性などさまざまな要因があったと考えられる。

国内で足並みを揃えることもさることながら、利用者視点で競い合って便利なサービスを提案できる競争環境の整備も重要ではないか。コンテンツやフォーマットは電子書籍が普及しない理由の一部でしかない。

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