アクセス探偵IHARA リターンズ

エピソード1 はじめての浮気調査[後編]

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真相は写真の中に

⁠…そうですか。では,今の話は聞かなかったことにしてください。あ,依頼人の秘密は絶対漏らしませんのでどうぞご安心を」⁠

「待ってください!」

堪えかねたように皆井氏が伊波羅を呼び止めた。

⁠…い,妹はまだ,何も知りません」⁠

⁠そうですか。でもデータは渡されたんですよね?」⁠

⁠ええ。でもまだあのデータに何かが入っているということは言ってません。妹には……,わたしが逃げてから知らせるつもりでした」⁠

内部告発ですか?」⁠

⁠ええ,実はウチの会社の製品に欠陥が見つかったんですが,その調査報告データの不正操作に偶然気づいてしまったんです。その証拠となるようなデータを集めて,何かあったときのために保管しておいたのですが,欠陥のせいで被害に遭われた方のことを考えるといたたまれなくなりまして,それで告発しようと……」⁠

⁠なるほど。……もしかして,結婚式を挙げようというのも,逃げる前にせめて,ということなんですか?」⁠

皆井氏は黙って頷いた。

⁠妻には苦労かけっぱなしでしたし,わたしが居なくなるとその後もつらいことになりそうですので,離婚を考えていました。その前に思い出だけでも,と思いまして…」⁠

皆井氏を見る伊波羅の視線は柔らかい。

⁠しかし,内部告発するのなら,リークしたデータから身元がわからないようにしないと危ないですね。皆井さんが告発したと誰にも知られないようにする方法が……」⁠

⁠えっ!そんなやり方があるんですか……」⁠

--だんだん音声が遠くなって,会話の最後は聞き取れない。同時に二人から視点も遠ざかっていく。まるでヒッチコックである(笑)⁠

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エピローグ

数ヶ月後。

今日香と健二,そして伊波羅は例によって喫茶ハニーポットでお茶していた。結婚式帰りである。

⁠ステキな結婚式だったわねえ」⁠

⁠いやほんと。ご飯も美味しかったしなあ」⁠

⁠ウェディングドレス,綺麗だったわあ」⁠

⁠デザートも最高だったよね」⁠

⁠……あんたはもー,食べ物のことしか言えないの?」⁠

健二の相変わらずの食い意地に今日香は「台無し」気分である。まったく,この食い意地はウチの妹と良い勝負だわ……

⁠そういえばこないだ,あのダンナさんの会社の調査データ不正操作が新聞に出てましたよね」健二は最近,かわすワザも上手くなってきた。

⁠そうそう。あれどう見ても内部告発っぽいんだけど,結局誰が告発したのかわからないみたいね」⁠

伊波羅はゆっくりティーカップを置いた。

⁠まあ,今は告発のやり方を間違えなければ,ちゃんと保護されますしねえ」⁠

⁠そうなんですか?」⁠

⁠あーでも,前に告発制度というか告発した先が会社からの問い合わせに応じちゃったとか,そういうどうしようもない例もありましたよね」⁠

健二は意外なところで物知りだったりする。

⁠それって「告発制度」とは言えないわよね」⁠

⁠少なくとも,内部告発者を「保護」はできてないですかねえ」⁠

⁠……でも,皆井さんは全然関係なさそうでしたよね。部署とか違う話なのかな?」⁠

⁠会社は痛手でしょうけどねえ」⁠

今日香はそっとカップを置いた。

⁠……そういえば,あんたさっき真由さんにさかんに話しかけてたよね?何の用事だったの?」⁠

ギクリとなる健二。実にわかりやすい。

⁠……電話番号とかメアドとか,聞 い て ど う す る の ?」⁠

⁠い,いやあのその…」さすがの健二も,このド直球はかわしきれないようだ。

⁠ごめん!」と言い捨てると,ぴゅっと逃げ出す健二。⁠くおら!」それを追いかける今日香。

伊波羅は黙って新聞を読んでいる。どこかのどかな,ハニーポットのいつもの光景だった。

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そのうしろ,窓の外では,見覚えのあるスキンヘッドのあの男が…。

⁠覚えていろよ!きっと名前を覚えさせてやるからなー」
というかそもそも名前あったっけ(笑)⁠>スキンヘッド。

著者プロフィール

園田道夫(そのだみちお)

著書訳書多数。最近本人にも本業がわからないくらいだが,どうやら秋ごろからサイバー大学で教えるらしい。趣味というか,事実上の本業はサッカー観戦だというウワサ。詳しくはブログにて。

URLhttp://d.hatena.ne.jp/sonodam/


くりひろし

漫画家。代表作はパソコン雑誌でのレクチャー形式マンガの元祖「パソコン・レクチャー」シリーズ(1985~2003,マイコンBASICマガジンにて最長不倒212回連載)。「アクセス探偵」シリーズで新たな境地を開く。

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