教科書には載っていない ネットワークエンジニアの実践技術

第6回 QoS論議で長引く会議をまとめる方法

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ネットワークの仕事をしていると,技術論をしていたつもりが,いつのまにか「哲学」のような話になってしまうことがあります。

そういった話題のひとつがQoSです。

顧客の要件を満たすためにQoSが必要な不要か?必要だとしたら,どこまでやるのか?

このような議論になると,全員一致の結論が出ることは滅多にありません。

なぜそうなってしまうのかと考えてみると,原因のひとつはQoSの歴史的な背景にありそうです。

QoSをめぐる今昔

90年代のIPネットワークにおけるQoSは,ほとんどの場合,VoIP通信の音声品質確保のために利用されていました。

一般的にVoIPでは20ミリ秒間隔のRTPパケットとして音声情報を送りますが,相手先へ到達するまでに,この20ミリ秒の間隔が大きく揺らいでしまうと,音声品質が悪くなります。たとえば,64kbpsのWAN回線で1500バイトの情報を送るには,単純計算で

(1500×8)÷64,000=187.5ミリ秒

が必要です。

したがって,データ通信とVoIP通信が混在する場合には,RTPパケットの間にデータ通信が使う1500バイトのパケットが割り込むことによって,20ミリ秒の間隔が大きく乱れてしまうのです。

図1 低速回線でVoIP(RTPパケット)に通常のデータが割り込むと大きな遅延に

図1 低速回線でVoIP(RTPパケット)に通常のデータが割り込むと大きな遅延に

だから,長いパケットを分割(フラグメント)することや,VoIP通信を優先して送信(キューイング)することが必要であり,これが90年代に利用されていたQoS機能の典型です。

しかし最近では,WAN回線がブロードバンド化しているため,状況は大きく変わってきています。たとえば1MbpsのWANの場合はどうでしょうか? 先ほどと同じように単純計算をすると

(1500×8)÷1,000,000=12ミリ秒

であり,RTPパケットの間に割り込んでも大きな影響を与えません。

QoSは現代において不要か?

ポイントを整理すると以下のとおりです。

  • 昔(90年代)は,音声品質を確保するためにQoSが必須だった
  • ブロードバンドが普及した現代においてQoSは必須ではなくなった

ここの認識が合っていないために,議論が噛み合わなくなることが多いのです。

では,本当にQoSは不要なのでしょうか?

この点については,QoSの議論をする際に私がいつも問いかける2つの質問を見ながら,説明したいと思います。

質問1:健康なら保険は不要ですか?

ズバリ,現代のQoSは「保険」だと思います。

多くの場合,QoSの無いネットワークでVoIP通信を行っても,帯域が十分に確保されていれば満足できる品質で通話が可能です。だからQoSは必須ではないのです。

しかし,明日も今日と同じ品質で通話できることを誰が保証してくれるのでしょうか?

前述のようにWAN回線のブロードバンド化によって,RTPパケットの「揺らぎ」についてはあまり心配する必要がなくなりましたが,それは回線の帯域に余裕がある場合に限った話です。多量のトラフィックによって回線が輻輳(ふくそう)しているような状況では,当然ながら適正な品質を確保することができなくなります。そして,作業ミスや機器の故障など不慮の事故によっても,想定外のトラフィックが発生するリスクは常にあるのです。

だから,重要な通信に対してQoSという「保険」をかけるのです。

ルータのQoS機能やWANサービスのQoSオプションが重要なビジネス通信に保証を与えてくれると言えます。

●質問2:保険に入っていれば健康ですか?

DiffserveやRSVPなど小難しい技術論が得意なエンジニアは,さまざまなQoSを駆使して完璧なネットワークを作ろうとします。あらゆる通信を識別して10種類以上の優先順位をつけたクラスに分類し,どんな事態が発生しても決められた遅延時間やジッタが守られるように設計したがります。このようなエンジニアが作成する要求仕様書によると,LANスイッチの優劣は出力インターフェースに搭載されるキューの数で決まってしまいます。

しかし,

「どんなに高度なQoS技術を使っても,インターフェースの帯域幅を超える通信は不可能である」

という単純な事実を忘れないでください。1GbpsのEthernetで1Gbps以上のトラフィックを転送することはできないのです。

ですから一番重要なことは,インタフェースの帯域幅を超えるような通信が連続して発生することのないよう,注意深く設計・運用することであり,それが「健康なネットワーク」です(つまり,適切な収容設計をするとか,トラフィック量をモニタリングして適宜に回線を増速するということ)

ただ,どんなに気をつけていても,作業ミスや機器の故障など不慮の事故によって想定外のトラフィックが発生するリスクを完全にゼロには出来ないので,重要な通信に対してQoSという「保険」をかけるのです。

このような考え方に基づけば,LANスイッチのキューの数は「重要」⁠普通」⁠非優先」の3種類くらいあれば,通常は十分でしょう。

「本末転倒」にならないために

重要なことをもう一度整理します。

  • ブロードバンドが普及した現代において,QoSは保険のような意味合いで利用すべき
  • QoSよりも,回線の帯域利用率やルータのCPU負荷などを随時モニタし,過負荷になる前に対策することが大事

要するに,ネットワークの健康を維持するためには,高度な「機能」を駆使するよりも,あたりまえの「運用」をしっかりやることのほうが重要で,それでも突発的な事故は起こりえるからQoSという「保険」をかける,というふうに考えるとQoS論議で会議が長引くことも少なくなると思います。

なお,本来の「QoS」という言葉には非常に幅広い概念が含まれますので,今回の話に当てはまらない利用方法もあると思いますが,ここでは私の経験からIPネットワークで一般的に利用されているQoS機能に限った話をしました。

著者プロフィール

高木圭一(たかぎけいいち)

ネットワーク業界でSEとして22年間の業務を経験した後,現在は独立。IPイノベーションズの専属コンサルタント・インストラクターとして活躍中。ネットワークを活用した新しいライフスタイルを確立し,浸透させることを目標として活動中であり,栃木県に在住。

  • 1986年 富士通ネットワークエンジニアリング(現FNETS)入社
  • 2000年 シスコシステムズへ転職
  • 2007年 独立・IPイノベーションズ専属コンサルタント・インストラクター

URLhttp://www.gogonetpro.com/

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