Ubuntu Weekly Recipe

第355回Ubuntu 10周年記念オフライン・ミーティング(兼14.10リリースパーティ)レポート

ごあいさつ

以前もイベントレポートを書かせて頂きました小知和です。今回のイベントに参加出来なかった方がこのレポートをお読みになり、気になったプレゼンがありましたら是非、Ustreamでそのプレゼンをご覧いただければ幸いです。正直、普段使いのディストリビューションがDebianなので若干場違い感がありますが、ファイルサーバーとしてUbuntuを運用しておりますので勘弁していただければと考えております。

では以下よりUbuntu10周年記念イベントパーティーのレポートを開始します。よろしくお願いします。

会場入口の様子
会場入口の様子

Ubuntu上にVine Linux環境を構築する(not VL)

プレゼンターはVine Linuxの開発に関わっている、くどうとしはる(toshi_kd)氏だ。

入りは艦隊これくしょん、大鯨からDockerのロゴへ話を繋ぐ。言われてみれば鯨繋がりであった。鯨で会場を暖めた氏は、Ubuntu上にDockerを用いたVine Linux環境構築方法の説明を始める。

今回はchrootを利用した方法を紹介するらしい。詳しい説明を始める前に氏は今回のプレゼンを開始するきっかけをおもむろに語る。どうやら件の方からのUbuntu Weekly Recipe執筆勧誘ツイートが始まりだと氏は苦笑を交え話す。これを読んでいるIT技術屋家業の方々は、うかうかしていられないだろう。

氏の発表は本題に戻りvbuilderについて説明を始める。端的に言うとvbuilderとはVine Linux上でパッケージをビルドする機能である。しかしvbuilderをUbuntu上で動かそうとするとうまく動かなかったらしい。

ご存知の方も多いと思うがUbuntuのパッケージ管理方法はapt。Vine Linuxのパッケージ管理方法はapt-rpm。似ているようで違っていたのだ。この互換性のない状況でどのようにビルドをするのかが課題であったと氏は説明を続ける。

氏はパッケージのビルドを行うのにapt-rpmのパッケージ依存関係を解消するため、人力で36個のパッケージをインストールすることにした。そしてターミナルを起動し必要なパッケージをインストールする様子を実演する。

プレゼンの最後に氏は「まだまだ最適化出来るはず」と語り今後の展望を述べた。

くどうとしはる(toshi_kd)
くどうとしはる(toshi_kd)氏

Ubuntu10周年を迎えて

プレゼンターはUbuntu Japanese Teamのリーダーである小林準氏だ。

氏は早速、今年5月に行われたUbuntu 14.04リリースパーティーで「4.10~14.10オーバービュー」を披露したことなどを、個性的な調子で語りだす。スライドが進み氏の紡ぎだす言葉により聴衆に笑いが起こる。

会場が暖まってきたところで本題である「Ubuntu 10周年を迎えて」のプレゼンが始まる。氏は「10年に1回だから何を話しても許されるよね」と前置きを入れてスライドを進める。

前回のイベントで、複数のプレゼンテーションに「萌えキャラ」が登場していたことに触れた後、スライドに現れたのは……。

2005年6月、Ubuntuたん誕生。

スライド上に褐色の少女が映る。

どうやらスライド上に表示されている少女は氏のかつての同僚[1]に描いてもらったそうだ。マルチな才能を持つ氏の元同僚の方は、素直にスゴイと筆者は思う。

なお、Ubuntuフォーラム(当時は日本語のフォーラムはなかったので英語のほう)のアートギャラリーにて、しばらくの間アクセス数1位を維持してたらしい。

筆者は萌え擬人化の波に戦慄し、ふと気がつく。Vimも擬人化される世の中である[2]のに今更驚く必要もないのではないかと。萌え化の波はOSS界隈にも着実に進行を進めているのであった。

Ubuntuたん誕生当初、匿名掲示板に「Ubuntuを萌えディストリにするな!」と言った書き込みもあったようだが、今やオープンソースカンファレンスでも多くの萌えキャラが見られることが紹介される。

とは言え、UbuntuたんをUbuntu Japanese Teamの公式マスコットにはしないそうだ。10年前から、Ubuntuのブランドイメージと大幅に異なるものを前面に出すつもりはないとのこと。ただし、活動内容は週に一度のIRCミーティングで決定しているので、そこでネタとして萌えキャラを活用する提案があれば、議論のうえ決定することになるらしい。

次は「Ubuntuで電波を受信する」というテーマに移り、航空機が発信している現在位置などの情報の受信について語り始める。実際に氏が自作したアンテナを介してADS-B信号が受信された。すると現在飛んでいる東京周辺の飛行機の様子がスクリーン上に映し出されたではないか。楽しそうなので就活が終わり次第、筆者も挑戦してみようと思う。

氏のプレゼンも終盤に近づくとUbuntu誕生からこれまでに変化したことをユーモアを交えながら語りだす。

たとえば、Ubuntuはデスクトップ向けディストリビューションとして誕生したが、現在はサーバー用途でも活躍していること。世界的には、Webサーバーとしての稼働数はCentOSを越えており、Debianに次いで2位だそうだ。

最後に、今でも「古いPCにUbuntuを入れて動きますか?」と言った質問が寄せられることが紹介される。

しかし、初期のWindows XP搭載PCよりも、今やスティック型端末のほう性能が良くなっていると言う。そして、今回のプレゼンもスティック型端末のAndroidをUbuntuに入れ替えたもので行われていたことが明かされる。先ほどの航空機からの電波受信も含めて、スティック型端末で行われていたのだ。

氏は次のように語りプレゼンを終えた。

「Ubuntuを快適に使いたいなら古いPCを捨てて新しいのを買え!」

小林準氏
小林準氏

UbuntuとOpenNebulaでクラウド環境を構築してみよう(発動編)

プレゼンターは大田晃彦氏だ。氏は過去にUbuntu Weekly Recipe第345回第346回で今回のプレゼンの内容を詳しく書いている。クラウド環境構築に興味のある方はUbuntu Weekly Recipeの第345回を読むことを勧める。

Ubuntuでクラウド環境構築といえばOpenStackが有名である。多くの方がOpenStackに一度は触れたことがあるだろう。しかしクラウド環境構築の選択肢はOpneStackだけではないのである。それが今回、氏がプレゼンするOpenNebulaである。OpenNebulaはイメージとして多数の物理マシンでの仮想マシン管理等に利用することを想定していると氏は語る。

氏はスライドから実際に動かしているOpenNebulaで構築した環境を披露する。OpenNebulaはコマンドラインでの管理はもちろん、GUIでの管理も用意してある。sshで接続し実際に動かしている仮想マシン「aoi」へ接続する。氏が仮想マシン「aoi」注3へ接続した際に会場の何処から名前の由来について質問が飛ぶ。しかし、氏は名前の由来について暈しプレゼンを続ける。

実際に動かしながら、OpenNebulaは特定グループの誰かに限定的な権限を与えることも可能と説明を続ける。アカウンティング機能を利用し各ユーザーが動かした履歴をスクリーン上に映す。

Virtual NetWorkの説明を始める。これは様々なネットワークを使える機能らしい。そして筆者が聞き覚えのある「cocona」注4というがユーザー出てくる。⁠cocona」を交えながら説明は続く。仮想マシン側にCONTEXTスクリプトを入れることで仮想マシン起動時にSSH公開鍵をインストールしたり、OneFlowという機能で仮想マシンをグループ化、階層化して管理可能することができるらしい。家に帰って実際にやってみたくなる。

氏がおすすめするOpenNebulaの使用感について。

  1. 既存のインフラに合わせて仮想環境を管理することが可能。
  2. GUIでもコマンドラインからも管理が可能。
  3. 物理マシンのローカルストレージが普通に使える。SSDを積んだマシンを有効活用できる。
  4. 外で作成したディスクイメージを持ち込みやすい。
  5. リソースの割り当てが見やすい。
  6. どのホストにどのアドレスが割り当てられてるか。欲しい情報にたどり着く手間が少ない。
  7. 仮想マシンが稼働中にメンテが可能。
  8. ログ出力が適度なサイズで十分な内容が得られる。
  9. シンプルで学習コストが少ない。
  10. 致命的な不具合や原因が定かでない不具合に遭遇することが少ない。
  11. アップデートパスが用意されてるので環境を保存しつつ簡単にメジャーアップグレード可能。

上記の使用感から氏は「実際にクラウド環境を運用する際にOpenNebulaをお勧めします」とプレゼンを締めくくる。

大田晃彦氏
大田晃彦氏

Raspberry Pi物理互換ボード、HummingBoardを使ってみた

プレゼンターは上野氏だ。

まず初めに上野氏が紹介するHummingBoardとは何だったのか。表題にもあるようにRaspberry Pi[5]ケースと互換性を持つシングルボードコンピューターである。Ubuntu Weekly Topics2014年7月11日号に今回紹介したHummingBoardについて吉田史氏が書いているので興味がある方は一度記事を読むことを勧める。

ちなみにこのHummingBoardはイスラエルのSolidRun社が開発している。そのため、購入する際は送料約3,000円と本体価格約7,000円[6]⁠、合計1万円前後で購入することができる。ヘブライ語で書かれたがっちがちのテープで巻かれた物が届くらしい。運が悪くなければ英語で書かれた領収書が届くので問題は無いはず。

CPU:1GHz Dual Core、メモリ:1Gバイト[7]と同じ性能で比較すると、HummingBoardはコストパフォーマンスが優秀。ただし、ヒートシンクがIdle状態でも熱くなるので注意が必要。また、物理互換を保っているのでRaspberry Piのケースが使用可能だが、CPUで穴が塞がったりするので、同様に注意が必要。そもそもRaspberry Piのケースが流通してないので、入手しづらいという点も考慮する必要がある。

さて、Ubuntu 10周年記念ということで、HummingBoardにUbuntuがインストール可能か否かについてだ。結論から言うと氏はUbuntuをインストールするのは厳しいとのことだ。一応Ubuntu 14.04が用意されているらしいが、うまく行かなかったらしい。

氏は自作した小型録画アプライアンスの写真をスライド上に映した。結果として氏が自作した小型録画アプライアンスは機能しなかったとのことだ。主にハードウェアをいじり始めると出くわす謎のパラメーター。上野氏が学生時代に体験したロボットのトラウマが蘇ったらしい。

録画環境構築に興味がある方は「うぶんちゅ! まがじん ざっぱ~ん」注8に詳しく書いてあるらしいので購入をお勧めする。

上野氏
上野氏

シェル芸人

プレゼンターはsatoh_fumiyasu氏。

氏は⁠No Twitter No Life No Twitter No Development⁠を掲げ⁠TDD⁠⁠Twitter Driven Development⁠を地で行く人物だ。satoh_fumiyasu氏は他にも⁠シェル芸人⁠⁠、⁠シェル魔王⁠とも呼ばれている。

氏はTwitterで流行した「突然の死」をシェルスクリプトで再現したことから上記の異名と共に有名になったらしい。

この「突然の死」をシェルスクリプトで再現するにあたって氏は、外部コマンドを使わずに再現しようと決めシェルスクリプトを書き始める。後に様々なオプションを作成し追加して行った。そして今、⁠echo-sd⁠と言うコマンドにブームが起きたのであった。

しかし、⁠echo-sd⁠が真の意味で素晴らしいところはスクリプトの書き方である。やってることはネタだが、スクリプトは仕事で使えるような書き方で記述している。GitHubにこのスクリプトが公開されているらしいので、興味がある方はスクリプトを読んでみるのも楽しいだろう。中身を読んでも楽しめる。氏は技術者の鑑である。

話題は今でも記憶に新しいShellShockの話になる。あの事件の原因はどうやらマイナーな機能から発生したとsatoh_fumiyasu氏は話す。セキュリティとして大丈夫だろうと思っていた箇所こそ割と穴があるらしいので、実際に確認するのがShellShockのような事態に対応する方法だとsatoh_fumiyasu氏は話す。

ShellShockでsatoh_fumiyasu氏が悔やんでいたのは、自身がShellShockの穴を見つけられなかったことであると苦笑を交えながらこの事件を振り返る。見つけた穴の脅威度によって賞金が出るらしい。勿論Shellの穴にも賞金が出たらしく、それを手に入れ損なったのが残念だったらしい。

プレゼンの最後にsatoh_fumiyasu氏は「シェルスクリプトとは詰将棋のような楽しみがある」と語った。

普段、アプリ起動のショートカットを作る程度の存在だと思っていたシェルスクリプトだが、satoh_fumiyasu氏のプレゼンを聞いて奥の深さを知ることができ有意義だったと筆者は感じた。

satoh_fumiyasu氏(画面の文字列は⁠echo-sd⁠を使用して吉田史氏が入出力したもの)
satoh_fumiyasu氏(画面の文字列は“echo-sd”を使用して吉田史氏が入出力したもの)

Orange Box

プレゼンターはCanonicalの村田氏と門河氏。

まず、Orange Boxとは何か。端的に説明すると持ち運べるクラスタ[9]だ。ケースとクラスタ本体の合計30kgの代物を、持ち運べると豪語して良いのか判断に苦しむが、兎に角、持ち運べるクラスタ。それがOrange Boxだ。

このOrange Boxは飛行機に載せて運ぶことが可能とのことだ。⁠Ubuntu Orange Box」でGoogle検索を行うと購入ページが見つかるので、興味がある方は検索し実際の購入ページを覗いてみるのも良いだろう。

Orange Boxの構成は、なんとファン1個で10台を冷却するという、本当に冷却が可能なのかと疑問に思う構成らしい。後ろにLAN PortがあるのでそれでPCに繋げることも可能とのことだ。Orange Boxはそれぞれのノードのスペックは高くないが、トータルで見ると20コア(40スレッド⁠⁠、メモリ160Gバイトのマシンとなる。

Orange BoxのデモンストレーションとしてOpenStackを実際にインストールし動かそうとする。スクリーン上の端末に見慣れた文字列が表示されインストールが開始される。インストールが完了するまでの間、Orange Box等の質疑応答時間が挟まれる。この質疑応答を聞きながら思ったのは、この会場にいるほとんどの方々はコマンドラインで作業を済ましてしまうので、GUIでの操作は不要なのかもしれないと筆者は思った。そもそもだ、インフラ関係の仕事をしている方々がGUIを必要とするのか。コマンドライン恐怖症を患うのか。恐らく筆者が知ることはないだろう。

質疑応答を行っている間に準備が整うと仮想マシンを立ち上げて行く。VPSのサービスセンターのようなイメージで仮想マシンを作成して行く。ちなみにこの様子はGUIで表示して行ったので視覚的に各サービスの繋がりが一目でわかった。俯瞰して状況を見る際にGUI環境があると楽なのかもしれない。

最後にOpenStackの用途について解説を行った。OpenStackは検証環境やWebサービスを行ったり、使う人それぞれの采配で様々な用途で使用することが可能であると村田氏は言う。

そして何よりも色々な意味で熱いマシンであるのもOrange Boxの魅力なのかもしれない、と村田氏は苦笑交じりにOrange Boxについてまとめた。

村田氏(左)と門河氏(中央⁠⁠、Orange Box(右)
村田氏(左)と門河氏(中央)、Orange Box(右)

Ubuntu生誕10周年おめでとうございます

使いやすいLinuxのディストリビューションを目指したUbuntuが、10周年を迎えたことは大変意義のあることだと筆者は考えております。

筆者はファイルサーバー構築のため手を出したのがUbuntu 12.04です。Ubuntuを使用し始めてから約2年と短い期間ですが、ファイルサーバーとして今でも利用しております。

面倒くさがり屋な筆者にとってファイヤーウォール等のソフトウェアがインストールの途中に選択できたのは大変ありがたかったです。面倒が嫌いな方々こそ、お勧めできるディストリビューションだと筆者は考えております。

これからのUbuntuの発展を陰ながら応援して参ります。最後に今回のイベントを運営してくださった上野さんをはじめスタッフの方々や会場を提供してくださったGREEの皆さまに心より感謝をしております。ありがとうございました。

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