Ubuntu Weekly Recipe

第601回デスクトップ環境の2019-2020年

新しい年の始めに、Ubuntuで使用できるさまざまなデスクトップ環境について2019年に起こったことと2020年に起こりそうなことを紹介します。

新年のご挨拶

新年明けましておめでとうございます。本連載も12周年を迎えました。

月並みですが、12年という年月は干支が一周し、生まれた子供が小学校を卒業します。当初からのUbuntu Japanese Teamメンバーも編集さんも読者さんも等しく12歳増えました。天台宗の最も厳しい修行は、12年間の山ごもりだそうです。

もちろん長期間何かのことを続けるのは並大抵のことではないのですが、このように12年というのは一つの区切りに使われる期間なので、特別の感慨をもって紹介しました。

本連載の話をすると、ここまでの長期連載になって個人的には果たして毎週紹介することがあるのかと今から戦々恐々としています。第600回でも語られているように現在は主として2人で回しているような状態なので、ほかのメンバーや近しい人たちによる執筆も増えていかないと回数をこなすのが難しいのではないかというのが現在の見立てです。また読者さんとしても今までにない視点の記事が読めるため、執筆者の多様化はメリットしかありません。

そのようなわけで、いろいろな意味で本年もよろしくお願いいたします。

2020年のデスクトップ環境

それでは、各デスクトップ環境を見ていきましょう。昨年第552回でお届けした内容の今年版になりますが、昨年の内容と今年の内容はリンクしません。

今年はCinnamonも復活し、デスクトップ環境のみの紹介となります。昨年は翻訳状況に関しても紹介しましたが、今年は統一的ではなく必要に応じて紹介していくことにします。

GNOME

昨年のGNOME最大最悪の出来事は、パテント・トロール狙われたことでしょう。GNOMEによる最初のアナウンスでは、Ubuntuにもインストールされている写真管理アプリケーションのShotwellが対象であると言及されましたが、その後対象が増えたとのことです。

パテント・トロールとの戦いの舞台は法廷で、すなわち弁護士などに費用がかかります。そのためGNOME Patent Troll Defense Fundで訴訟のための募金を行い、本記事の公開時点で目標の125,000ドルを大幅に超える150,000ドル以上を集めています。なお目標額を大幅に上回ったといっても盤石ではなく、現在も継続して集めている上、もし訴訟に使われなかったとしてもGNOMEの改善に使われるということなので、今から寄付をするのも遅くはありませんのでご一考ください。

リリースは3.323.34で、あくまで主観ではありますがあまり大きな変更点はありませんでした。

GNOMEはUbuntuと同じく(時系列的には逆ですが)タイムベースリリースで、今年も3.36と3.38がリリースされる予定です。3.38の次は3.40になるため、そのあたりのタイミングで4.0になるかも知れません。少なくともGTK 4.0[1]はGNOME 3.38と同じタイミングでリリースされるとのことです。

GNOMEの翻訳は、昨年新しいメンテナーが就任して積極的に行われるようになりました。

KDE

何度となく述べていますが、現在KDEというデスクトップ環境はリリースされていません。KDE Frameworks、KDE Plasma、KDE Applicationsに分かれてリリースされています。

それぞれが分かれてリリースされている上に、リリース頻度も高いため、昨年だけで多数のリリースがあります。それを以下の表に示します。

リリース日 コンポーネント バージョン
1/8 Plasma 5.14.5
1/10 Applications 18.12.1
1/12 Frameworks 5.54.0
2/7 Applications 18.12.2
2/9 Frameworks 5.50.0
2/12 Plasma 5.15.0
2/19 Plasma 5.15.1
2/26 Plasma 5.15.2
3/5 Plasma 5.12.8
3/7 Applications 18.12.3
3/9 Frameworks 5.56.0
3/12 Plasma 5.15.3
4/2 Plasma 5.15.4
4/13 Frameworks 5.57.0
4/19 Applications 19.04
5/7 Plasma 5.15.5
5/9 Applications 19.04.1
5/13 Frameworks 5.58.0
6/6 Applications 19.04.2
6/8 Frameworks 5.59.0
6/11 Plasma 5.16.0
6/18 Plasma 5.16.1
リリース日 コンポーネント バージョン
6/25 Plasma 5.16.2
7/9 Plasma 5.16.3
7/11 Applications 19.04.3
7/13 Frameworks 5.60.0
7/30 Plasma 5.16.4
8/10 Frameworks 5.61.0
8/15 Applications 19.08.0
9/3 Plasma 5.16.5
9/5 Applications 19.08.1
9/10 Plasma 5.12.9
9/14 Frameworks 5.62.0
10/10 Applications 19.08.2
10/12 Frameworks 5.63.0
10/15 Plasma 5.17.0
10/22 Plasma 5.17.1
10/29 Plasma 5.17.2
11/7 Applications 19.08.3
11/10 Frameworks 5.64.0
11/12 Plasma 5.17.3
12/3 Plasma 5.17.4
12/12 Applications 19.12.0

開発版を除いてもこれだけのリリースがあります。

すこし解説すると、KDE Frameworksは毎月リリース、KDE PlasmaとKDE Applicationsは4ヶ月毎のリリースですが、KDE Plasmaは18ヶ月サポートのLTSがあるので、古いバージョンが混ざっています。

Kubuntu 19.04ではKDE Plasma 5.15.4、Frameworks 5.56.0、Applicaions 18.12.3を採用しています。Kubuntu 19.10ではKDE Frameworks 5.62.0、KDE Plasma 5.16.5、KDE Applications 19.04.3を採用しています。より最新のコンポーネントを使用したい場合はKDE neonを使用するといいでしょう。

正直なところKDEに関しては昨年の大きな変更点今年のロードマップが公開されているため、あまりここで触れることはありません。Waylandサポートは継続して開発中、KIOでFUSEサポートが追加予定などといったことが記載されています。

Xfce

Xfceは、何といっても、昨年8月12日に4年と5ヶ月振りの新バージョンである4.14がリリースされました図1⁠。主な変更点はGTK+ 3.xへのポーティングです。

図1 燦然と輝く「バージョン4.14」
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ただしXubuntuなどでは随時4.14開発版を採用してきたため、Xubuntu 19.10でXfce 4.14になってもあまりありがたみがないのがなんともいい難いものがあります。

次のバージョンである4.16は、さすがに4年5ヶ月後を予定しているわけではなく、ロードマップによると6月のリリースを目指しているようです。

LXDEがメンテナンスモードになり、LXQtに取って代わられた今となってはGTKを採用した軽量デスクトップ環境の雄なので、今後とも継続的に開発が進むことを祈るばかりです。

LXQt

そんなLXQtは昨年1月に0.14.0が、2月に0.14.1がリリースされましたが、その後のリリースがありません。よってLubuntu 19.04も19.10もLXQtのバージョンは同じです。かといって開発が進んでないわけではないので、リリースされない理由がよくわかりません。

一方、昨年の記事を読んだイトウさんによってLXQtの翻訳が進みました図2⁠。著者冥利に尽きるというものです。

図2 イトウさんによって翻訳された翻訳ファイルを適用したLubuntu 19.10
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MATE

MATEのリリースは最近1年に1度になっており、昨年3月18日に1.22がリリースされました。Ubuntu MATE 19.04ではMATE 1.20のままだったため、19.10で初採用となりました。

おそらく今年も1.24がリリースされるのでしょうが、ロードマップを見ても小規模の変更にとどまるものと思われます。

Cinnamon

昨年はCinnamon(Linux Mint)の開発がスローダウンし、4.2でも4.4でもあまり大きな変更点がありませんでした。開発者の減少があったようです。

それを踏まえると、今年も見通しはあまり明るくないような気がしています。しかしオープンソース開発者の不足は、直接雇用でもしない限りいかんともしがたいものがあります。

Ubuntu Weekly Topicsでも紹介されていますが、Ubuntu Cinnamon Remixがリリースされましたダウンロード⁠。Ubuntu 19.10ベースでCinnamonはすこし古い4.0ですが、現段階でもわりと普通に使えています図3⁠。アプリケーションはMATEのものを中心に採用しているのが特徴といえるでしょうか。Ubuntuユーザーとしては今年のうちに公式フレーバーになるのかどうかが気になります。

図3 Ubuntu Cinnamon Remixのデスクトップ。テーマが黒とオレンジで格好いい
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