ドラゴンクエストXを支える技術 ── 大規模オンラインRPGの舞台裏

はじめに

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『ドラゴンクエストX オンライン』⁠以下,ドラゴンクエストX)は,国民的RPGとも呼ばれるドラゴンクエストシリーズの10番目のナンバリングタイトルで,シリーズ初のオンラインRPGです。本書発売時点でサービス開始から6年以上が経過しており,アクティブユーザー数は数十万人です。

筆者は,ドラゴンクエストXの開発チーム発足初期から技術責任者として関わり,現在はドラゴンクエストX全体の責任者であるプロデューサーを務めています。

開発初期は,ドラゴンクエストシリーズをどのようにオンライン化するかがポイントでした。ドラゴンクエストらしさを重視して開発を進め,他プレイヤーとゆるくつながるようにオンライン化して,2012年8月2日にサービスを開始しました。

オンラインゲームは,サービス開始後が重要です。ドラゴンクエストXのサービス開始直後は,緊急メンテナンスなどの対応に追われました。現在は安定していますが,ちょっとした失敗が大きな問題につながるため注意が必要です。その中で,既存コンテンツを保守しつつ,新規コンテンツを追加し続けています。

本書は,ドラゴンクエストXの開発・運営の舞台裏および,その過程で得られたノウハウを解説します。序盤は,ドラゴンクエストXがどのような経緯で開発・運営されているかを説明します。中盤は,技術的な視点での解説を行います。ゲームの基本的なしくみから,家庭用ゲーム機でMMORPG(大規模多人数参加型オンラインRPG)を実現するための工夫,ドラゴンクエストXに特徴的なワールド間の自由移動や戦闘中の押し合いを実現するための技術を紹介します。終盤は,オンラインゲームでは開発と並んで重要な運営と運用について,安易に不具合を修正して大問題になった失敗事例なども含め,恥を忍んで解説します。

筆者のこだわりで,プログラミングやドラゴンクエストX関係の用語は,原則としてすべて初出時に意味を解説しました。複数箇所に登場する用語は索引にも載せています。そのため,将来ゲーム業界に進みたいと考えている学生の方,ゲーム開発について知りたい方から,現在オンラインゲームの開発・運営をしているプロの方まで,幅広い方々に参考にしていただけるはずです。

本書を読んで興味を持たれた方がゲーム業界を目指したり,ドラゴンクエストXを始めていただければ,筆者としては望外の喜びです。もちろん,いつも支えてくださっている多くのドラゴンクエストXの冒険者のみなさんにも,ぜひ読んでいただきたいです!

2018年10月 青山 公士