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ITバブルを振り返ってみませんか?

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Windows 95のリリースは,一般消費者にインターネットの世界を導き,コンピュータ市場の拡大を導いた発端となる出来事でした。その流れはいっきに社会の隅々に広がり,ハードウェアの低価格化,MS Officeなどのソフトウェアの大衆化を引き起こし,さらには2000年代初頭のITバブルで頂点に達しました。

ビジネスの現場でもインターネットを使うことが当たり前になり,それは企業の情報システムを根本から変え,たくさんのITシステム需要を生み出しました。それがITバブルの実態でした。

急激な需要のせいで,たくさんのひずみも出てきました。企業の現場で起きてきたことを俯瞰すると,ユーザ側では「システム管理者」へのシステム導入と管理・運用のプレッシャーです。一方,システムを作り・提供するインテグレータ側では,旧来のシステム構築のしきたりを継承したゼネコン型のシステム構築のひずみが表出してきたと言えるでしょう。

ふとしたきっかけで,⁠システム管理者の眠れない夜』⁠暗黒のシステムインテグレーション』というITバブル時代の混乱と破天荒な毎日を描いた技術エッセイを読み,これらの本が絶版になっているのは惜しいと思いました。どんなにクラウドコンピューティングやらソーシャルウェブだと喧伝されても,システムを支える現場の状況はもしかしたら変わってないのかもしれないのです。当社からこれら2冊を復刊を企画した理由がそこにあります。

ITバブルが崩壊し,システムの運用や構築の情報を提供してきたIT系雑誌がその使命を終え,次々に休刊している昨今,さまざまな状況の変化がありますが,ここでITバブルを振り返り,新しい知見を考えてみるのはいかがでしょうか。


※以下の対談は,Windows Server World誌にて2004年に掲載されたものです。

目次

 暗黒の「IT産業」――自分で判断する力を身につけよ

プログラマーにはおもしろくない時代……パッケージで創意工夫の余地が少ない

――今日は『暗黒のシステムインテグレーション』の筆者の森さんと『システム管理者の眠れない夜』の柳原さんの対談ですが,ウィンドウズ・サーバ・ワールド誌でこの2つの連載は読者の人気の1位,2位を常に争っています。したがって,ライバル対談ということになりますね。

森:いや,そんなことはないですよ。大先輩にお会いできて光栄でございます。

柳原:こちらこそ。このたびは第2巻の刊行,おめでとうございます。

――お二人とも今やIT業界の重鎮ですが,柳原さんは,この業界に入るきっかけは何だったのですか。

柳原:僕の場合,もともとは工場なんかの生産管理システムとかをオフコンでやっていました。一方で,NECのPC98とかもいじっていたら,パソコンのお守りのほうをやらされることになりました。最初のころはずっと一人でしたよ。

――そうやって,システム管理者は誕生していくんですね。

柳原:当時はシステム管理者って,表に出てこなかったもんね。企業の中の情報システム部門は,そこで何やっているかというのはほとんどやみの中(笑⁠⁠。業界の中の飲み友達なんかに話を聞いたら,みんな苦労しているんだけど,それがあまり知られていないんですよ。雑誌や書籍なんかの情報もないし,みんなストレスを抱えていました。

――そして「システム管理者の眠れない夜」という連載が始まり,世間にシステム管理者なるものの実態が明らかにされた。実際,あの記事の影響は大きかったですよ。⁠システム管理者」という職業が一般に認知されるようになったのは,連載の単行本がベストセラーになったからだという人もいます。

森:すごいですねえ。日が当たらないところに,日を当てた。しかも,ぎんぎんのお日様を,ですね(笑⁠

――今や,システム管理者というのは立派な職種として認められていますよ。

柳原:職種としては認識されているけど,僕らの親の世代の人にしてみたら,息子や娘には絶対にやらせたくないでしょう,こんな仕事(笑)

森:「やめとけ」って言いますよね(笑)

――森さんのほうは,この業界に入ったきっかけは?

森:きっかけですか,きっかけは流されて(笑⁠⁠。いや,わたしは高校,大学とずっとベタな文系ですから,もともとコンピュータをやりたい,好きでって入ったわけでは全然ない。ただ,コンピュータって,わたしが高校・大学のころに盛り上がっていて,何やるんだろう,何か新しそうでおもしろそうだとは思っていました。

――おもしろそうだから,SIベンダーに就職した?

森:そういうわけじゃないです。当時,バブル経済で華やいでいた銀行や保険なんかには就職したくなかった。親には公務員になれと言われましたけど,公務員もなぁと。学歴に関係なくできるところってどこだろうと探したらこの業界で,人もいっぱい採っていてたまたま入ったんです。不思議なもので,入ってからほんとうにおもしろいと感じるようになりました。

柳原:往々にして,おもしろさってあとからついてくるよね。

森:仕事ですからおもしろいだけではだめなので,自分がいったいどのくらいどういったことができるのか,自分のやっていることが独りよがりではないのかということなんかを常にチェックしていたつもりです。

柳原:この業界って,そういうのをちゃんと指導してくれる人が少ない。

森:僕がいた会社は,その辺りは進んでいました。教育にすごく金をかけていましたね。そこで学んできたので,フォートランの⁠フォ⁠の字も知らないわたしがここまでやってこれた。感謝しています。

柳原:かなり体系的な教育だったのですか。

森:もうすごいですね。それこそOSIから,X.25から,OSの中身から,メールシステムやらデータベースやら,とにかく全部みっちりやらされました。それがあったので,この「暗黒のシステムインテグレーション」も執筆できているのかな(笑)

柳原:基本的な教育だけをちょこっとやって,あとはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)だとかいって現場に出すところも多いじゃないですか。森さんは,いい会社に入られたのですね。

森:いや,同じ会社でも開発をやっている部隊のほうは,CとかFORTRANを3カ月教えてすぐ現場に放り込んで,⁠おまえ,これ書け」なんですよ。

――そう言えば,森さんはプログラマー批判も書かれたことがありましたね。

森:批判しましたが,僕にできないことをやっているので,すごく尊敬しているんですよ。⁠そこまで知っていてできるのに,何でこういうことを見ないのかな。もったいないじゃない」という思いがあるのです。

柳原:「こんな枠に閉じこもるな」ということですね。

森:プログラマーの人たちは「何でこういうふうに動かないんだ」とかよく文句をたれる。それに対して「それはこのOSがこうなっているからだ」と言っても,⁠こんなのできてあたりまえなのに,バクだ!」と騒ぐ。⁠お前がバグだろ」なんて返して,よくけんかをしました(笑)

――光景が目に浮かびます(笑)

森:プログラムって,何でもできちゃうじゃないですか。美しいかどうかは別にして,とにかく書けちゃう。でも,出来上ったプログラムは,そのプログラマーでないといじれないというケースがよくある。⁠あなたは天才,すばらしい。でもさ,あなた辞めたらどうするの」ということですね。

柳原:たった今のこれはいいけど,それがユーザーの手に渡って,例えばそれが2年たったときに,あなたは同じようにそこに座っているの,という疑問はあるよね。

――プログラマーには,ある意味,作ったら終わり,みたいなところが多分にあるということですね。

森:ただ,プログラマーの方にとっても,今はつまらない時代だと思いますよ。みんなパッケージ,パッケージになっちゃって,自分が創意工夫する部分が少なくなっている。

柳原:パッケージ管理って,とにかくプログラマーさんの自由度が低い。規約ガチガチになっていて変数を1つ変えるのも自分の思うようにならない世界でやっているから,きっとおもしろくないでしょう。

森:おもしろくないから,⁠死んだサバ⁠のような目をした人もいる。

柳原:確かに,パッケージ系をやっているプログラマーさんが生き生きしたところって,あんまり見たことないですね。

森:「いったい,おれは何やっているんだろう。あと何カ月で終わるのかな」という感じですね。