インタレストグラフの可能性とビジュアライゼーションの魅力――Pinterest日本代表、定国直樹氏に訊く

日本支社が設立された画像投稿共有サービス「Pinterest(ピンタレスト⁠⁠」の日本代表、定国直樹氏に今後の動向をお伺いしてきました。

定国直樹氏

定国直樹氏

2013年10月、Pinterest Japan株式会社 代表取締役に就任。

Pinterestの日本における責任者として、日本のPinterestコミュニティをサポートすると同時にファッション、インテリア、フードなどのカテゴリにおけるパートナー及びブランドとの連携を担当。

Pinterest Japan入社以前は、スクエア・ジャパンCo-Leaderを務め、また、2009年から2013年1月までグーグル株式会社でプロダクトマーケティング統括部長を務められていました。

Pinterestとは

Pinterestとは雑誌やカタログを見る感覚で直感的に遷移ができる、画像に重点を置いたSNSで、投稿された画像をクリックしてその情報を詳しく見たり、新しい発想を得ることができ、商品画像や風景画像を投稿することで、自分に合った商品やサービスを探しているユーザに認知してもらう事が可能です。

Pinterest
Pinterest

「Board(ボード⁠⁠カテゴリ分けした写真の収集場所)を作り、インターネット上で見つけた画像や、自分で撮った写真など、自分が興味関心のある物の画像を投稿・共有することができます。

使い方は部屋のボードに写真を貼り付けるように、自分のボードへ画像を貼りつけていくだけ(これを「Pin(ピン⁠⁠」と言います)と、いたってシンプル。ボードは「赤色の物」「お菓子」のように自由にテーマを決めることができ、自分と同じ趣向をもったユーザと共有したり、Twitterのように自分のアカウントでフォローしておくと、自分のボード上で、 そのユーザがPinした画像を閲覧できます。

また、他人のPinを自分のボードに集める(これを「Repin(リピン⁠⁠」と言います⁠⁠、⁠お気に入り」として画像をキープしておきたい場合は、⁠like(ライク⁠⁠」を使います。

Pinterestページを作った後は自分でお気に入りの画像を集めてもいいですし、他のユーザのPinterestページを見て楽しむこともできます。Pinterestに画像を投稿していくことで自分の「潜在的な興味」に気付いたり、他のユーザが投稿した画像から「新たな自分の興味」を発見できたり、楽しみ方は多岐にわたります。

また、画像をボードに収集することで自分の興味・関心を視覚的に表現でき、それをきっかけにユーザ同士がつながり、お互いのお気に入りをオススメし合ったりとコミュニケーションをとることもできます。

Pinterestの具体的な使用例としては、将来のためのウェディングプランを探したり、部屋のインテリアグッズを見つけたり、レシピアルバムとして利用していたり、ビジネス面では、プロジェクトの進行などにも使われます。

誕生のきっかけは「コレクションのサポート」から

PinterestのアイデアはCEOであるベン・シルバーマン氏自身が幼少期から「コレクター」で、蝶の標本などを所有しており、作品をどんな人が作ったか、何処で作られたかを記憶できるシステムがなかったことから、整理可能な場所を作ろうと思い立ちPinterestが生まれました。

日本ではピンボードを利用する文化はあまりありませんでしたが、海外では好きなモノ、興味があるもの、思い出にしたいものなどにピンボードを利用する文化がありました。ピンボードがあると自分のアイデアを簡単にまとめられ、他の人のピンボードから新たな発想やヒントを得たりすることができます。

「コレクションをサポートしよう」という発想から生まれたPinterestですが、運営を続けるうちに、⁠人は興味があるものでつながっていく傾向がある」と気づきました。この気づきを裏付けるように、Pinterest は2010年のリリースから2年経たないうちに、世界中で5,330万人(コムスコア発表)ものユーザを持つサービスへと成長しました。

コンセプトは「興味関心でつながる」

まず、Pinterestと、Twitter、Facebook、mixiなど国内で利用されている多くのソーシャルネット・ソーシャルメディア、との違いは何なのでしょうか。

  • 定国氏「PinterestはFacebook、Twitter、mixiなどとまったく違うものだと思っています。これらは人と人とがつながるというソーシャルグラフですが、Pinterestは人の興味関心でつながる、インタレストグラフがコンセプトとして存在するからです。好きなブランドなのでフォローするというよりも、Pin画像を見ていて、興味関心を持てたPin画像を多く含むボードをフォローしていく傾向が強いですね。」

インタレストグラフとはある人の趣味嗜好、興味を軸としたつながりを表した物で、今までは、人を軸にして、つながることをしていましたが、人にはそれぞれ興味のあるものが異なります。自分もつながる人も興味のあるものだと、会話やコミュニケーションが深まり、結果として、楽しめるのではというところが観点となっています。

著作権について

画像を取り扱う上で重要なポイントである「著作権問題」についてのお考えを伺ってみました。

  • 定国氏「大きく2点あると思っています。

    1点目は「貢献」です。Pinterestは投稿された画像が共有されても、その基となる画像が添付されているサイトにリンクされるので、そのサイトの露出度があがります。基となる画像が添付されているサイトを運営しているユーザの認知度があがりますので、貢献していると思っています。

    2点目は共有されたくないという方には「No Pinタグ[1]⁠」を用意しています。自分の画像が共有されたくないと思っている人はこの「No Pinタグ」を利用して公開制限をかけられます」

収益化の前にまずは「改善」から

日本語版がリリースされ国内での活動が本格的になったPinterestですが収益化についてはお考えなのでしょうか。

  • 定国氏「いいえ。今はユーザに楽しく使ってもらえるように改善していくことに力をいれていて、収益面においてとくに働きかけていることはありません。

    唯一ある言えるのが「プロモーテッドPin[2]⁠」です。まだ検証段階で、どのような動向か様子を見ています。収益化は、ユーザの動きを基に今後の展開を考えようと思っています」

まずはユーザありきということですね。

Pinterestをビジネス活用していく上でやはり気になる、楽天との今後のやり取りはどういったものになりそうですか。

  • 定国氏「一言でいうと、これからです。楽天は商品購入の場として存在しているが、Pinterestはコミュニティの場である。お互いがWIN WINになるやり方にはなると思います」

今後の発展のために、他社の買収を行われる予定なのかも伺ってみました。

  • 定国氏「一部買収をしているところがありますが、買収の目的は、人材確保です。優れた人を雇用する事でサービスの改善に力をいれていく事を主眼においています」

ユーザ獲得施策

日本語版がスタートしたPinterestですが、ユーザ獲得面において具体的にはどのようなことを行う予定なのでしょうか。

  • 定国氏「1つ目は、ヘビーユーザが良さをクチコミていくことを想定しています。メールマーケティング、Facebookなどでエンゲージメントを上げるということももちろんありますが、アナログですがミートアップをしていくことがいいのではないかと思っております。

    2つ目は、パートナーシップデベロップメントを考えています。クオリティの高いビジネスアカウントができることによって国内ユーザの興味度合いがあがりますし、自社サイトに「Pin It(ピンイット)ボタン」をおいてもらうことによってユーザが容易に自分のPinterestページに画像を投稿できるようになるからです」

「画像重視」のインターフェースのこだわり

TwitterやFacebookのタイムラインでは表示されるコンテンツは1つで、続きを見るために下へ下へとスクロールを行い、時系列を重視されたインターフェース(フロー型)となっていますが、Pinterestではファーストプレビューで多くの画像が見えるインターフェースとなっており、自分の知識が増え、また知識が蓄積されるよう(ストック型)になっています。インターフェースのデザインも美しく、Pinterestの「見て楽しむ」という趣旨に合っていますね。

過去を振り返るのではなく、知識を蓄積し未来を考案することにこだわったプラットフォームとも言え、⁠文字」ではなく「画像」を重視しているインターフェースとなっています。

では、なぜ「文字」「動画」でなく、⁠画像」を重視しているインターフェースとなっているのかお伺いしました。

  • 定国氏「文字や動画だとビジュアルでの訴求が弱いために画像となっています。Pinterestはビジュアルがすべてです。蓄積するコレクションをビジュアルで訴求するために画像を用いています。

    Pinterestで目指しているのは、発見して実現してもらう事なので、まずは発見されやすい仕様になっている必要があります。⁠文字」だと流し読みされてしまい、高い確率で理解してもらうのが難しい。⁠動画」では的確に伝わりやすいけど、理解するのに時間がかかってしまう難点があります。

    その点、画像は伝えたい内容をすぐ理解してもらいやすく、好き・嫌いの判断も迅速にできるんです。なお、Pinをクリックすれば情報ソースのサイトにナビゲートされるので、その画像の背景にあるストーリー等々を理解できます」

定国氏の話をお伺いしていると、画像に対するこだわりがよくわかりました。Pinterestでは、ヘアースタイル、ファッション、友人へのプレゼント、行きたい旅行先など日常生活に役立つ画像が収集されており、文章では伝えにくいことも一目で分かるようになっています。

現代は、活字離れが進んでおり、好き・嫌いの判断を迅速にできるモノを好む傾向があります。そのような現代社会に合ったインターフェースだと感じました。

メッセージ

日本語版がリリースされ、今注目のPinterest。

日本の個人ユーザに対してのメッセージを伺ってみました。

  • 定国氏「Pinterestの使い方を理解し発見し、実体験をしてもらいたい。新しいことを発見し実現してほしいですね。そうすることでPinterestを楽しめると思います。Pinterestを楽しむポイントは、⁠人のフォロー」ではなく「ボードのフォロー」をすることです。

    つながるユーザ同士が必ずしもまったく同じものばかりに興味を持つわけではないからです。友人と同じ興味のものもあれば、異なる興味のものもある。興味のある「ボードのフォロー」をすることで、オリジナルのPinterestページをつくることができるのです」

人間関係でつながるのではなく、興味があるもの同士でつながることで、自分でも気づかなかった新しい発見を生み出す事ができます。Pinterestの楽しさはそこにあるのではないかと思います。

個人ユーザ以外に、ビジネスユーザとして消費者とのコミュニケーションツールの利用を考えている方もいると思います。最期に、日本のビジネスユーザに対してのメッセージを伺ってみました。

  • 定国氏「Pinterestはサイト誘導数が多く、第三者のデータによるとYouTubeやGoogle+はすでに抜いています。これは、Pinterestの投稿画像を見ていて、いいなと思ってクリックすると直接サイトに誘導させることができるからです。個人ユーザがあちこちサイトを調べなくても、即座にサイトにアクセスできるこの仕組みがビジネス面でも貢献しています。

    Pinterestを正しく理解し、今からでも着手してほしいと思っています」

以上、大変興味深いお話を伺いました。Pinterestは、サイト誘導面以外にも、ビジネス活用面で魅力があります。⁠第三者のデータによると)PinterestユーザはFacebookユーザと比較してSNSでのコンテンツをきっかけに商品購入する傾向がありますし、ECでの客単価が高くなっていることもデータとして明らかになっています。これはPinterestユーザは、元々「ここに行きたい⁠⁠、⁠これが欲しい⁠⁠、⁠これが食べたい」と自分が興味関心のあるものを求めて利用しているからだと考えられます。

また、SNS内での滞在時間の長さも魅力の1つであり、Pinterestユーザは滞在する時間がFacebookに次いでおり、LinkedInやTwitterの滞在時間をすでに抜いています。これは、Pinterestユーザは自分が興味関心のあるものを求めて利用しているおり、夢中になって長時間アクセスしている結果によるものだと考えられます。

その他、News Classicのデータによると、ソーシャルメディアのアクセスランキングもLinkedInやGoogle+のアクセス数を抜いて2位となっています。これは、識読率が下がってきているからだと考えられ、Pinterestは、ビジュアルコンテンツ時代にマッチしていることを表していると考えられるでしょう。

このように、個人ユーザとしても、ビジネスユーザとしても魅力が多い、Pinterestを正しく理解して、新しいつながりを生み出すきっかけとして期待できます。

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