プロジェクト化が進むWebの現場 企業と制作会社をつなぐヒントを探る

この記事を読むのに必要な時間:およそ 7.5 分

今,Webサイトに関わるプロジェクト,企業サイト制作やWeb システム構築でプロジェクトの失敗を耳にするケースが数多く,企業側も制作側もプロジェクトマネジメントの重要性を意識し始めてきました。一方,プロジェクトマネジメントと言えばPMBOKのような体系化されたテキストもありますが,そう簡単に導入できるものでもありません。

プロジェクトマネジメントに興味はあるけど……どこから始めようか。どうすればWeb・プロジェクトに取り入れることができるのか?

今回の座談会では,そういったプロジェクトマネジメントの実態や可能性について,企業・制作・コンサルティングというそれぞれの立場から,お話を伺いました。

写真:武田康宏

写真:武田康宏

※)
本記事はWebプロジェクトマネジメント標準に掲載されている内容を再編集して掲載したものです。

自己紹介から

まず,今回の座談会に参加していただいた4名に,自己紹介をしていただきました。

林:まず私が取締役をしているロフトワークという組織を説明するところから始めさせてください。ロフトワークは2000年に「クリエイティブを流通させる」ことを目指して作られた会社です。特徴的なのは日本最大のクリエイターコミュニティ「ロフトワークドットコム」を運営していることです。一方,クリエイティブに特化した数十人のプロジェクト・マネジャーがいる「クリエイティブディレクター集団」でもあります。1万人を超えるクリエイターコミュニティの中から最適なチームを選び,ディレクターがチームを率いてWebから映像,印刷から携帯コンテンツまで何でもつくる,ちょっと変わった会社です。年間数百のクリエイティブプロジェクトを運営しながら,社内には1人もデザイナーがいない。これを実現するにはプロジェクトマネジメントの徹底が欠かせません。

古賀:私は日経BPコンサルティングでWebの活用や運営コンサルティングをやっています。もともと日経BPでインターネットの視聴率を調べる部署にいたのですが,Webサイトを企業がどうやって活用していくかのお手伝いをするようになりました。

最近私どもがよく相談を受けるのは,Webサイトをどう効率的に活用すればいいのか,ということ。昔はユーザビリティとか,いわゆる枠のところを一生懸命やっていたのですが,最近は何の目的で何をやるのか,効果を狙っていくということを企業さんと一緒に考えさせていただいています。

棗田::私は味の素に入社して,ずっと家庭用の営業をしていました。Webとの関わりが始まったのは'95年のことで,他社がWebサイトを立上げてきたので,そろそろ何か作らなければと有志が集まっていたところに私も入りました。そして,'96年の4月に味の素のホームページを立ち上げました。

業務外のこととして一緒に仲間としていろいろやっていたのですが,'99年に当時の広報部に異動して正式に仕事として始めました。ただ,Web業界は長いだけで,本人には何のノウハウもない(笑)。

今,味の素の国内・グローバルサイトを含めてトータルの管理をしているのですが,私はマンションの大家さんと言っています。

高橋:私は,富士通のWebサイトの全体統括をしています。国内だけでなく富士通の海外主要拠点35ヵ国・地域のポータルサイトも管理しています。

実は,富士通の企業サイトは,'94年,アジアで最初にできた企業サイトです。私がWebの仕事に参画した当時の'98年は,多くの企業サイトは,画像も少なくテキスト中心のシンプルなページでした。それが2000年以降,日本ではADSLが一般的に普及しインターネットが身近になってきたことや,IT技術が進化したことで,当時の会社の方針により,Webをグローバルに展開しろということになりました。しかしながら,当時,日本ではグローバルでマネジメントを任せられるコンサルティング会社や制作会社はありませんでした。海外のコンサルティング会社を使っていた時期もありましたが,あまり良い結果が出せず,結局自らですべてを考えて決めていかないと何も進まないことがわかりました。それで自力でグローバルプロジェクトを運営することになりました。

でも,海外に行き異文化コミュニケーションの壁に何度もぶち当たり,合意形成もままならないといった修羅場を経験した上で感じたことは,ちゃんとした基準とルールをつくり,客観的な判断で仕事を進めないといけないということでした。

体系的な基準とルールに基づいて仕事をするという考え方が身についてからは仕事がうまく運べるようになったと感じています。

Webはどのようにプロジェクト化していったのか?

最近のWeb制作は,体系立てて進められるようになりましたが,そもそも,どうしてWebはプロジェクト化していったのでしょうか。

林:Webって,ものすごいスピードで変化しています。Yahoo!ができたのが'95年。2000年のころは制作ツールもほとんどない状況でした。それからblog,SNS,SaaS,企業システムへの進出と機能や役割はどんどん広がっています。同時に社会的な役割でも重要になる一方ですし,企業をはじめ組織が発信する情報は飛躍的に増えてます。

2000年初期,企業サイトは会社案内のオマケ程度に思われてました。トップページに気がきいたFlashと地図さえあれば良かったのです。それが今やWebサイトで企業のブランドと信頼性は決まり,採用やIRにも欠かせない「社会と対話する」中心のツールとなりました。携帯や他のデバイスへの進出など,今後もますます重要性は上がる一方です。

決して大企業とは言えない数百人程度の企業であっても,期待に応えられるサイトを作ろうと思うと,今や1人2人のデザイナーでは不可能です。コンサルティングを行う能力や機能も必要になってくるし,デザイナー,blogやCMSに組み込む技術者,コーダー,SEOに特化した組織……。各分野の専門家とのコラボレーションによって,常に新しいクリエイティブな作業が求められる。スケジュールの管理やコミュニケーションの問題,予算管理もあればプロジェクトのリスクもある。プロジェクト以外の何ものでもありません。

一方で,求められる役割と重要性は増す一方ですから,より高度な目標が求められる。制作側としては,プロジェクトが高度化されているということをすごく感じます。

高橋:2001年にADSL が出てきましたよね。そしてPCにLANポートが付けられたのですが,うちの会社はそれを「ブロードバンドポート」と言って売っていた。そのころからデータ量が増えて,テキストじゃないWebサイトがあたりまえになっていきました。

林:もう1つ,blogの存在がすごく大きいんじゃないかな,と思います。それまでは,イメージや印象がどれだけきれいか,ということが重要だったのに,いかに情報発信してコミュニケーションしていくかが大事になった。blogやCMSによって,サイトの規模が飛躍的に大きくなりプロジェクトの規模が大きくなったと言えると思います。

棗田:私が企業のホームページをつくっていた'90年代半ばは,採用のために会社概要を載せようという動きが目立ちました。やがて,物を売るのに使えるんじゃないか,とEC サイトの走りが始まった。'90年代後半になるとキャンペーンに使えるよね,となっていきました。それで企業サイトは賑やかになってきたけど,2000年ぐらいに「待てよ,企業のホームページって目的は何なんだ?」となりました。今までは考えなしにもっていたけれど,それを真剣に考えようじゃないか,ということに。

私が参加していたWeb広告研究会などでは,テクニカルな話ばかりしていたけど,でも企業はそれを何に使ったらいいんだろう,ついていけないというのがありました。「自分たちは何をやりたいんだ?」と。

弊社のコンテンツは,各セクションの中で作っているのですが,それを寄せ集めて集合体として見ると,まだまだ伝えたいことに幅があります。先ほど私はマンションの大家さんと表現したけれど,マンションを建ててエントランスを整備し,中はお任せします,というスタイルできた。すると,入口の見た目はきれいなんだけど,お客さんは,中に入ってから迷ってしまう。そういう意味で,各セクションの独自性は汲みつつも,全体としてはきちんと管理をしないとダメだな,という方向に向かっています。

基本的にうちの会社のコンテンツホルダーは,Webのことがよくわかっていません。これは企業の特色だけど,3~4年に一度人事異動があって,全然関係ない仕事をやっている人に,ある日突然プロジェクトとして任されるのです。すると,基本的に知らないわけですよ。

我々のところも,そんなに知見があるわけじゃないけど,少なくとも彼らよりはあるということで「こういうコンテンツを作りたい」「広告代理店からこんな提案がきたぞ」という段階から,「一緒に考えていこう」という働きかけをし始めたところ。企業によって違うと思うけど,弊社は今そういう状況です。

古賀:私も高橋さんと,Webの統括的な管理について話をしていたことがあります。

棗田さんが仰るような,コーポレートブランドをきちんと通そうという考え。目的をきちんと設定して,そこに向かってWebサイトを作っていきましょうというのは,まさに今の企業ならではの悩みです。担当者が異動で変わってしまうということがあるので,それをちゃんと伝えていくために,たとえば,RFPみたいなものをきちんとまとめましょうよ,ということを,最近はお勧めしているんですよ。そういう形にしていけば,目的はぶれずに伝わっていく。

Webを担当するのは,棗田さんが仰ったように素人に近い人がやりますから,企業としてやりたい目的はあるけれども,技術はわからない,ということになります。制作側に技術は任せるけれど,何をやりたいかというのは,当然企業側が考えないといけないし,きちんと伝えないといけない。

それと,Webの変曲点ということでは,ここ数年,blogの登場で双方向性の意味がすっかり変わっていると思うんですよ。以前は企業がいろんな意見を集約できるだけだったけど,それがいわゆるCGMで,いろいろなエリアでコミュニケーションが起きてしまう。それをコントロールするため,または,より良い影響を与えるためには,企業サイトをどうしたら良いのか。そこが大きなポイントになっているのかなという気がします。単なるSEOではなく,「ターゲットとする市場もきちんと考えましょう」ということでSMOと言われる考え方も出てきています。

「Webサイトで何をやりたいんだ?」という目的をきちんと考えて,かつグループでやっていく。かつ,棗田さんが大家さんであるようなマンションの部屋のイメージに近いような作りも考えていく。そういう必要性が出てきました。

バックナンバー

Webディレクション

  • プロジェクト化が進むWebの現場 企業と制作会社をつなぐヒントを探る

コメント

コメントの記入