新春特別企画

openFrameworksから拡がるメディアアートの世界

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2011年の展望

Natural Interaction (Kinect Hack)

Kinectとは,Microsoft社が開発したコントローラを用いずにジェスチャーや音声認識によって直感的な操作ができるXbox 360向けの体感型のゲームシステムです。昨年11月に発売されて以来大きな反響を呼びましたが,その注目のされ方は一般的なゲームコントローラの枠を越えるものになりました。本来はXbox 360専用だったKinectセンサーなのですが,一般的なUSB接続を使用しているため,PCやMacなどに普通に接続することが可能です。発売から数日で世界中のハッカー達が集中的に解析して,KinectセンサーとXbox本体との通信の仕組みを,PCやMacで使用できるように移植したオープンソースのドライバを開発してしまったのです。このことが「Kinect Hack」という新たなムーブメントを生みだし,発売から数日で様々な環境で簡単に使用できるようになってしまいました。

openFrameworksのコミュニティーも,オープンソースのドライバが開発された初期の段階から,ofxKinectというアドオンとしてopenFrameworksに移植され,Kinect Hackに大きく貢献してきています。ジェスチャー認識をコントローラとして使用した作品,Kinectの深度情報をもったカメラの機能に注目して,様々な不思議な視覚効果を追求した作品など,Kinectを応用した様々な成果がopenFrameworksとKinectの組み合せから生みだされています。

ここで,Kinect Hackの代表的な作品をいくつか紹介します。

openFrameworks開発者の一人,Theo Watsonによる,Kinectのジェスチャー認識を応用した,パペットを操作する作品。

Chris O'Sheaによる,Kinectを活用したエアギター。

深津貴之による,動いている人物を透明にする光学迷彩の実験。

これらの作品はすべて,openFrameworksとKinectの組み合せで開発されています。

2011年もこの潮流は引き続き発展していくと思われます。昨年末には,Kinectの技術を開発したPrimeSense社自身が,ジェスチャー認識を使用した「Natural Interaction (自然なインタラクション⁠⁠」を活用するためのライブラリを,オープンソースなドライバとして公開しました。こうしたサポートもあり,より緻密なジェスチャー認識が可能となり,今後ますます面白い応用例が草の根の開発者たちから生まれてくるでしょう。

デジタル・ファブリケーション,インタラクティブ・ファブリケーション

ここ数年,カッティングマシンや3次元プリンタなどのデジタル工作機械が,価格が安価になってきた影響もあり,急速に普及してきています。以前であれば数千万円もしていたような工作機械が,個人で購入して使用できるような製品が入手できるようになっています。こうしたパーソナルな工作機械とコンピュータを活用した新たなファブリケーション(工作,製造)環境は,2011年の新たな創作のムーブメントとして注目を浴びそうです。

例えば,Karl D.D. Willis,Cheng Xu,Kuan-Ju Wuによる,Interactiove Fabricationプロジェクトは,様々なインタラクティブな入力手段によって,リアルタイムに物体の形態を生成する手法について様々な実験を行っています。Beautiful Modelerでは,iPadを入力デバイスとして,マルチタッチの入力によって,複雑な形態を生成し,それを3次元プリンタで実際に物体として生成します。

同じような手法で,入力デバイスとしてKinectを活用しても面白いものになるでしょう。ジェスチャーの軌跡がそのまま物体の形態として生成されるといった応用がすぐに実現可能となりそうです。入力の手法の発展だけでなく,様々な実世界のデータのビジュアライズしてそれを形態として生成したり,アルゴリズムによるジェネラティブ(生成的)な形態の発生をデジタル・ファブリケーションに応用可能です。こうしたジェネラティブ・ファブリケーションによって,これまでにない複雑な形態による物質表現が2011年は盛んになっていくのではないかと予想されます。

プロジェクションマッピング

プロジェクションの技術やデバイスも,最近になって大きく進化しています。レーザープロジェクタを使用することで,投影面の距離に関係なくフォーカスの合った映像をプロジェクションすることが可能です。そのため,今までのプロジェクターでは難しかった立体の面にくっきりとプロジェクションすることができるようになり,建築物の凹凸に関係なく高品位のプロジェクションが可能となりました。

こうした技術的な進歩を受けて,今後ますますプロジェクションマッピングを利用した表現が発達していくのではないかと考えられます。作品例のところでとりあげた,YesYesNoのNightLightのような,高度なインタラクションを活用したパブリックアートが今後様々なイベントで見られるようになるのではないかと思います。

また,そうした巨大な物体へのプロジェクションだけでなく,よりパーソナルな表現としてのプロジェクションマッピングの可能性も拡がっています。小型のレーザプロジェクターとデジタル・ファブリケーションの技術を応用して,3Dプリンタで成形された複雑な形態の表面にアルゴリズミックな映像を投影して,実世界と仮想世界が複雑に混ざりあったような表現が,個人レベルで可能となるでしょう。

DIWO,みんなで一緒に !

openFrameworksのカルチャーをうまく表現した言葉として,DIY(Do It Yourself) から,DIWO (Do It With Others) というのがあります。これまで何かを生みだすためには,自分自身でやる必要がありました。しかし,インターネットが発達したネットワーク社会では,一人ではなく,みんなで協力してものを生みだすというカルチャーがとても大きな意味を持っています。

Kinect Hackに代表されるように,openFrameworksのネットワークで緩く繋がりあった開発者達によるDIWOコミュニティーはとても活発で,フォーラムを通じて日々情報が交換されています。また,日本でも徐々にopenFrameworksのコミュニティーが生まれつつあります。openFrameworksの日本語フォーラムも,本家ほどではないものの様々な情報を入手することが可能です。

openFrameworksのコミュニティーには,素晴しいアーティストや技術者達が参加しており,openFrameworksを活用して新たな技術や表現手法が日々生みだされています。そして,その技術や表現手法が再びアドオンとしてコミュニティーに還元されるというポジティブなフィードバックループが生まれています。

この記事を読んでopenFrameworksに興味を持った方は,ぜひこの機会にこの世界的なネットワークの輪に加わって,みんなで一緒にこのムーブメントを盛りあげていきましょう。

参考サイト,書籍

最後にopenFrameworkに関するWebサイト,書籍を紹介します。

書籍

Web

著者プロフィール

田所淳(たどころあつし)

多摩美術大学非常勤講師、千葉商科大学非常勤講師。

アルゴリズムを用いた音響合成によるコンピュータ音楽,ラップトップコンピュータを使用した即興演奏などを行っています。最近はopenFrameworksを用いたオーディオとビジュアルの融合に興味を持って取り組んでいます。大学の授業の資料や,近況はすべて個人サイトに掲載しています。