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次のフェーズに進むには?~2015年の電子書籍と電子出版ビジネス

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誰が読んでいるのか?~ジャンル別の電子書籍の動き

続いて,いくつかの電子書店が行ったアンケート結果から,現在の日本の電子書籍読者の動きについて考察してみます。

≪20~50代に聞いた電子書籍の利用実態調査≫電子書籍ユーザー、紙と電子の"使い分け派"は9割以上!
URL:http://booklive.co.jp/release/2014/11/260952.html
『スキマ時間に読む書籍は「小説」、20代の6割以上が「スマートフォン」で電子書籍を利用』~読書に関する調査
URL:http://research.rakuten.co.jp/report/20140829/

まず,約33万冊の電子書籍を取り扱う電子書店BookLive!が実施した全国の20~50代の男女(2,189人)を対象に実施した「電子書籍の利用実態調査」の結果からトピックを抜粋してみると,

  • 電子書籍利用者の91.2%は、紙の本との電子書籍を併用
  • 併用派の68%が電子書籍で「マンガ」を読む
  • 「手軽さ」⁠60.9%⁠⁠、⁠省スペース」⁠47.5%)を重視し電子書籍を優先
  • 7人に1人(14.5%)は紙の本より電子書籍を多く読む

とのことです。

とくに注目したいのは,電子書籍利用者の91.2%もの方たちが紙と電子を併用しているという点。これは,たとえばリアル書店に足を運んだときに,読みたい本がない場合は電子書籍を買うといった,消去法の要因だけではなく,⁠すぐに買って読みたい」⁠ネットで見つけて購入した」など,スマートフォン&インターネットの特性に当てはまった結果の1つではないかと筆者は思います。

また,読まれるジャンルに関して併用派のトップにマンガが挙げられていますが(68%⁠⁠,その他,小説(50.3%⁠⁠,ビジネス書(29.8%⁠⁠,趣味・実用書(42.0%)と,平均してさまざまなジャンルが読まれている点から,現状は「このジャンルは電子書籍でなければダメ」という状況にはなっていないようです。一方で,マンガとビジネス書に関しては,読む本のジャンル全体の比率よりも高いことから,いずれはこうしたものは電子版だけでも成立する可能性が考えられます。

続いて,楽天リサーチ株式会社が全国の20代~60代の男女1,000人を対象に実施した「読書に関するインターネット調査」の結果からトピックを抜粋してみます。

電子書籍関するトピックとしては,

  • スキマ時間に読む書籍ジャンルは「小説」がトップ
  • 20代の6割以上は「スマートフォン⁠⁠,60代の5割以上は「パソコン」で電子書籍を利用

といったあたりに注目したいです。

とくにスキマ時間に読むジャンルというのは,出版業界のコンテンツ以外に,ソーシャルゲームやソーシャルメディアなど,他のジャンルとの競合が考えられるため,今後,このジャンルで電子出版ビジネスを検討する上では,こうしたジャンルとどう差別化するか,あるいは,どのように融合していくのかがますます求められると考えられます。

電子書店はこれからどうなる?~ネットとリアルの融合

現在の電子出版業界を考えると,当面は紙の書籍をどのように電子化し,販売していくか,それが最優先に考えられていくと思います。これは,ビジネスとして考えれば当然なことでもあり,これまで蓄積してきたノウハウ,また,紙の出版で構築されたビジネスモデルを活用する意味ではさらに整備していかなければなりません。

そこで重要になるのが,売り場,リアル書店と電子書籍との連動です。すでに,日本の書店各所では,リアル書店へ電子書籍購入・利用の導線をつくる動きが出始めています。

たとえば,TSUTAYAとBookLive!がスタートした総合書籍プラットフォームです。2014年11月27日,両者が協力して新読書サービス「Airbook」をリリースしました。

これは,全国のTSUTAYA対象店舗で,Tカードを提示して書籍を購入すると,自動的に購入した書籍の電子版がTカードに登録されたアカウントにダウンロードされ,無料で電子版を楽しめるというもの。

TSUTAYA Airbookサービス
URL:http://booklive.jp/landing/page/airbook-tsutaya/

また,株式会社トゥ・ディファクトが提供するハイブリッド書店サービス「honto」では,2014年12月16日から,丸善,ジュンク堂書店,文教堂に訪問したhontoユーザに対して,⁠リアル書店内の書籍検索」⁠マイ本棚などのリスト機能」⁠欲しい本の在庫確認」⁠リアル書店にはない商品情報の提供」など,電子書店サービスとリアル書店のサービスを融合したアプリの提供を開始しています。

スマートフォン向けアプリ『honto with(ホントウィズ)』を本日配信 honto with(ホントウィズ)』を本日配信!!(PDFへのリンク)
URL:http://www.2dfacto.co.jp/pdf/141216_1.pdf

Airbookは見方によっては単なる電子書籍の無料提供サービスですが,まず書店に足を運んでもらうという観点で見れば有用なサービスと言えます。また,無料版の次を読んでもらうような仕組みができれば,読者の囲い込みにもつなげられるでしょう。

また,honto withのように,電子書店もサービスの1つと考えたリアル書店が生まれてくることは,紙・電子の枠を越えた書籍販売サービスの拡充につながっていくのではないかと筆者は考えています。

また,もう1つ横断型の売り場として注目を集め,今後の展開に期待したいのが株式会社JTBパブリッシングが提供する「たびのたね」です。

たびのたね
URL:http://tabitane.com/

「旅」をテーマに,同社が提供する旅行ガイドに加えて,他社の旅行ガイドや現地情報誌の電子版などを横断的に購入し,さらにユーザ自身が自分だけのガイドブックとして電子書籍を発行できるサービスとなっています。また,雑誌の中から欲しい特集だけを選ぶなど,コンテンツ単位でカスタマイズできる特徴があります。

現在,北海道・沖縄エリアが対象で,将来的に対象地域は拡大していくとのことで,このように,ユーザ自身が欲しい情報を自分でまとめられるというのも,電子書籍ならではの魅力を活かした販売スタイルと言えます。⁠たびのたね」は旅行がテーマですが,このスタイルは他のジャンルに適用できる可能性があります。今後の展開に注目したいところです。

次のフェーズに向けて

購入・決済システムの多様化

最後に,2015年の展望について考察します。昨年のコラムで,2014年は「コンテンツの数と発売タイミングが大切になる1年」としてまとめ,実際,その動きになったように思います。

今年は,そのコンテンツをどのように買うのか,購入の仕組みにさらに踏み込んだ動きが見えてくると考えています。

その1つが購入・決済システムの多様化です。

Amazon Kindleや楽天Koboのように,すでにポイントやサービスを用意し,ユーザが繰り返し購入したくなる仕組みを用意することで,独自の経済圏をつくっています。今後,さらにこの動きを強化するのではないでしょうか。たとえば,アカウントの連動やポイントサービスの共通化といった動きです。

コンテンツを提供する側としては,とにかく読者がたくさん訪れる電子書店で販売を行いたいもの。そのために,読者を集める施策を行ってくれる電子書店は魅力的です。

また,日本独自の存在とも言える電子取次に関しても,ただ電子書店に配信する作業を代行するだけではなく,読者を拡張するための仕組みや読者の利便性を高める施策を電子書店とともに積極的に取り組んで,考えて市場拡大につなげていってもらいたいと考えています。

すでにユーザ(潜在読者)がいるサービスへのコンテンツ配信

この他,たとえば,先に紹介したLINEマンガのように,電子出版ではない,ネットサービスの既存ユーザに向けてコンテンツを配信してくれる存在や,3キャリアが提供するサービスへのコンテンツ配信など,コンテンツホルダーである出版社が意識していかなければいけないところでしょう。

電子出版物には再販制が適用されない

これら一連の流れで忘れてはいけないのが,現在の日本の電子書籍・電子雑誌は,再販制(再販売価格維持)が適用される既存の出版物とは異なると言うことです。つまり,電子出版物は,紙の本や雑誌のように定価が固定されて販売していくものとは異なり,たとえば,日によって値段を変えるキャンペーンを行ったり,先ほど紹介したAirbookのように紙のオプションとしてコンテンツを配信することが行えます。

もちろん,ただ安くするキャンペーンを行えば良いというものではないですが使い方次第で,電子出版ビジネスの強みになるでしょう。これは本当に大きなビジネスモデルの変化でもあり,出版社だけではなく,電子書店や著者など,利益を享受する側が意識しなければいけない変化だと考えています。

その中でも,ジャンルによる向き・不向きはあるものの,サブスクリプションモデルを適用した電子出版ビジネスが,これから数年先の課題の1つだと筆者は考えています。

電子出版ビジネスの未来

現在の日本の電子出版は,さまざまな変化と成長をしながらも,まだ,紙に依存する点はまだまだ多いことを感じています。次のフェーズに向けてこの点はより一層強化し,整備しなければなりません。まずは,引き続き紙の出版物の電子化の整備です。現在,多くの出版物はInDesignというDTPソフトを使って制作されています。このInDesignで制作したデータを,早く,そしてきちんとした形でEPUBなりPDFなりに変えて電子化する体制を整えなければならないでしょう。とくに,現在はリフロー型と呼ばれるEPUBを制作できる企業・制作者はまだまだ少ないと筆者は感じています(ここで言うEPUBとはIDPFが制定している標準のものを指します⁠⁠。この点は2015年意識して強化し,EPUBをきちんとつくれる環境整備に取り組む必要があるでしょう。

加えて,さらに市場を拡大するには,やはり,電子出版だけで考えられるコンテンツや仕組みが必要ではないかと思っています。たとえば,現在の電子書籍・雑誌の多くは,紙で制作したものを電子化する流れで,これはまだまだ無駄な部分もあります。そこで,たとえば,あらかじめ電子で制作することを前提としたコンテンツおよび制作フローの確立に関してはまだまだ検討の余地があるでしょう。業界ではよく言われる「ワンソースマルチ配信」です。つまり,1つのコンテンツから,紙のもの,電子のものもつくりやすくするというものです。

また,電子出版物の強みの1つである制作のスピード感というのも,これからますます重要になるのではないでしょうか。たとえば,弊社が昨年発売した『Docker入門』⁠先取り!Swift』のように,新技術の解説書は,技術が発表された直後,注目された直後に情報を編集し,出版できれば,紙では実現できないスピード感で発売できます。

それから,弊社ではまだ実現できていませんが,たとえば,新しい技術に関する電子出版物に対してサブスクリプションモデルを提供すれば,その期間内には,つねに最新のバージョンに対応したものを読者に提供するといった形も考えられますし,このあたりは,引き続き検討し,実現に向けて取り組んでいきたいテーマです。

今紹介したものはあくまで一例ですが,こうした⁠電子出版ならではの強み⁠というのを改めて意識して,展開していくことが大事だと考えています。

筆者が電子出版元年としてコラムを始めた2010年から5年が経ち,日本独自の電子出版市場がようやく立ち上がったと考えています。2015年は,この市場をさらに拡大して,より良い,成熟したものにしていけるよう業界全体で取り組んで行ければと考えています。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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