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ネット空間と読書スタイルの変化への対応~2017年の電子出版

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改めて出版ビジネスについて考えてみる~紙と電子の違い

紙と電子が食い合うのは本当なのか?

先ほど紙ありきの電子出版ビジネスの限界について,1つの調査報告書の数字とともに考察してみました。もう一歩踏み込んで,紙と電子の書籍・雑誌ビジネスについて考えてみます。

2010年のiPad登場以降,日本の電子出版市場が立ち上がりはじめたと同時に,⁠電子は紙(の市場)を食う」⁠いわゆる,カニバリズムに関する議論がなされてきました。実際,弊社としてもここは重要なポイントとして見ています。

まったくないとは言い切れませんが,現時点ではビジネス的な観点での食い合いはそれほど大きくないというのが,筆者の意見です。その理由は,紙の書籍・雑誌のビジネスモデルはフロー型,電子書籍・雑誌のビジネスモデルはストック型だからです。

まず,日本の紙の出版ビジネスは,再販売価格維持制度に基いており,また,出版社と書店や読者の間に取次という存在があるため,実際の金銭の流れ方はフロー型となります。

一方,電子出版ビジネスの場合,再販売価格維持制度の対象外であり,また,電子出版に関する取次は,紙のそれとはまったく違う意味を持ちます。こうした背景から,電子出版ビジネスは,インターネットを介し,出版社と書店・読者が直接つながり,結果として,金銭の流れ方はストック型となっています。

これらの理由により,筆者としては電子と紙のコンテンツ間での(販売数上の)大きな食い合いはないと考えています。

売り場の変化,ネット空間への対応

とは言え,食い合う面もあります。いきなり反対のことを言ってしまい恐縮ですが,それは,EC上での販売に関してです。

今,日本で書籍や雑誌を買う場合は,書店を筆頭に,百貨店,最近では家電量販店やコンビニでも購入できます。加えて,Amazonや楽天を筆頭にしたEC上での購入も可能です。

後者のECに関しては,おそらくこれからさらにカニバリズムが増える可能性があります。その理由は,購入希望者がアクセスするページ上で,⁠紙」⁠電子」のいずれかを選べるケースが増えてきたからです。

出版社や流通関係者にとっては,その選択肢によって大きな影響があるのは事実ですが,読者にとっては,自分が読みたい形態のものを選べる,というのは非常に便利です。筆者もこの点については,より推進したいです。

ただ,先ほどお伝えしたように,紙のビジネスモデルがフロー型,電子のモデルがストック型であることは,出版社および関係者は,今まで以上に意識しなければいけないでしょう。

2016年の電子出版の技術動向に見る,これからのEPUB

EPUB3.1

続いて,少し話を変えて,技術的観点から見た電子出版の話題について取り上げてみます。

2016年,電子出版の技術的な話題として押さえておきたいのはEPUB3.1のリリースが間近になったことでしょう。

2011年5月にリリースされた3.0以降,ひさびさの大きなバージョンアップとして,関係者,とくに技術者・制作者の注目を集めていました。ドラフト版が出た当初は,構造の変化なども検討されており,場合によっては3.1対応のEPUBリーダーでは3.0でつくったデータが閲覧できない可能性もあるなど,さまざまな波紋を呼びました。

その後,EPUBの仕様を策定するIDPFに向け,関係者からの意見が寄せられた結果,ドラフト版で予定されていた変更はなくなり,Webの特性に近づけるといった変更のみで仕様が確定しました。筆者としては,基本的にはこれまでと同じ仕様という認識で,コンテンツ制作は行えるのではないかと考えています。

なお,EPUB3.1は当初2016年内の正式リリースという話も聞こえていましたが,作業の遅れにより,日本時間2017年1月6日(現地時間1月5日)にRecommended Specificationとして承認されました。

IDPFがW3Cへ統合

EPUB関連の話題としては,これまでEPUBの仕様策定・管理団体であったIDPFが,Webの各種技術の標準化を進める団体W3Cと統合する動きが2016年5月に発表されました。こちらについては,おそらく予定通り統合するものと見られています。

影響としては,これまでIDPFが行っていた仕様策定のフローではなくW3C準拠の仕様策定フローになるため,従来のリリースよりもアップデートが遅くなるのでは,と筆者は見ています。

つまり,EPUB3/3.1が枯れた技術として普及していくメリットがあるわけです。

最後に技術的な観点で触れておきたいこととして,現状の電子書籍・電子雑誌は,ある程度の標準フォーマットで普及はしているものの,まだまだ,デバイスやリーダーへの依存度が高いということです。

デバイスに関しては日進月歩で進化しており,また,Webと同じ特性として,コンテンツの閲覧環境は読者が選べるため,仕方ない面があります。

一方,リーダーに関しては,各種電子書店ごとに開発を進めており,仮にEPUBの仕様通りにコンテンツを制作しても,リーダー側のバグにより,不具合が生じる可能性があるのです。

ソフトウェアのバグについてはゼロにすることは難しいかもしれませんが,バグが見つかった場合,開発者・制作者は対応する必要があると筆者は考えています。ですから,仮に読者の方が不具合を見つけた場合,出版社あるいは書店へ報告していただくことが,より良い環境整備につながるはずです。

さらに,コンテンツを制作する立場としては,現在の電子書籍制作において,実機検証(各書店ごとのリーダー検証)に関して,とくにコストが肥大化しているのが現状です。理由の1つは,書店ごと・リーダーごとに,EPUBの解釈が異なる点です。ここはぜひ,各書店で横断的に取り組んでもらえたら嬉しい点です。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業部電子出版推進室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部に配属。現在,電子書籍を考える出版社の会の事務局長やWebSig 24/7のモデレーターを務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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