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2018年,電子出版ビジネスはいよいよ普及のフェーズへ~高まる運用保守の意識

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書店減,EC市場規模拡大に伴う紙と電子の選択

先ほど,電子化の波という表現を使い,出版市場の拡大と減少について触れました。筆者は,⁠電子化の波」に関して言うと,コンテンツそのものの電子化(紙→電子)よりも,流通の電子化の波が,今後,より一層大きな影響を与えてくると感じています。

電子出版の前に紙の出版流通,書店について見てみると……

まずはじめに,日本出版販売株式会社(日販)が刊行する出版物販売額の実態 2017の数字を紐解いてみると,2006年度には1万4,000店舗以上あった書店が2016年度には1万店舗(10,583)ほどと約30%減少しています。この数字については,日本著者販促センターでは2006年(17,582店舗)から2017年(12,526店舗,5月1日時点)という,異なる数値ではあるものの,ほぼ同じ割合の減少が起きていることが発表されています。

先ほど,出版市場の減少に別の要因があると書いた点の1つとして,この書店減少が挙げられるのではないでしょうか。

上記の数字だけで見ると,書籍や雑誌の売り場が減っているだけです。しかし,一方で,EC(電子商取引)市場については年々拡大し続けています。

対象が(出版刊行物より)大きくなりますが,経済産業省が2017年4月に発表した平成28年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 ⁠電子商取引に関する市場調査)によれば,2016年のBtoCでのEC市場規模は15兆1,358億円(前年比9.9%増⁠⁠,EC化率は5.43%(対前年比 0.68ポイント増)となっています。これは出版物のEC以外も含まれるため,あくまで参考値ではありますが,日本国内でのEC利用者数の増加を裏付ける数字と言えるでしょう。

ECでの選択とポイントの影響力,購読者の環境への配慮

そして,ECが増えることで,電子出版にはどのような影響があるかというと,以下の点が挙げられます。

  • 購入経路の選択肢増
  • 購入時間の24時間365日化
  • EC上における紙と電子の選択

上の2つについては,出版刊行物に限らない,ECの特徴であるので省きますが,3つ目はまさに紙と電子の選択にほかなりません。Amazon Kindleをはじめ,楽天Kobo,hontoなど,各種電子書店の多くが,1つの書誌ページ(書籍や雑誌の紹介・購入ページ)で,紙と電子が選択できるデザインとなっています。

読者にとっては,自分が読みたいスタイルや時間に合わせて,紙と電子の選択ができる環境がほぼ整ったと言えるでしょう。筆者としては,今後,ECにおける販売の施策が,電子出版を含めた出版市場の成長に対して,大きな鍵を握っていると考えます。

さらに,電子出版には再販制度が適用されないことで,販売価格の自由化があり,今では多くの電子書店で価格を落とすキャンペーンを実施するようになっています。最近ではそういった価格変動を自動的に検知し,報告するまとめサイトなども多数生まれており,読者にとっての価格の概念が大きく変わっている最中です。

また,2017年は,電子書籍・雑誌だけではなく,紙の書籍・雑誌でも販売施策での変化が見られた年でもありました。それが,ポイントバックです。ポイントバックとは,本体価格は変えず(再販制度適用内⁠⁠,代わりに購入したタイトルや金額に応じてさまざまな場所で使える金銭的価値のあるポイントを読者に還元する仕組みで,これまでも書籍や雑誌以外ではあたりまえに行われていたものが,2017年は紙の出版物にも適用するネット書店が増えたのです。

また,直接ECで購入するだけではなく,書店への動線としてのWeb/インターネットの価値が改めて評価されています。たとえば,2017年の電子出版アワード大賞を受賞した絵本ナビはその一例です。絵本ナビは,絵本購入をサポートするためのカタログ的な意味合いを持っているのですが,ここからECへの導線をつなぐだけではなく,実際にオンラインで試し読みができることで,絵本の中身を,自分だけの空間で吟味できるという価値があります。絵本の主購読者である保護者にとって,ゆっくりとあるいは子供と一緒に選ぶ時間がインターネットを通じていつでもどこでも用意される,その結果,購入までつながることも,流通の電子化がもたらした恩恵の1つと言えるのではないでしょうか。

このように,コンテンツ以外の,流通のさまざまな部分での電子化と,それを選ぶユーザの環境がこれからの電子出版にとって非常に重要な要素になるはずです。

シェアリングエコノミーの拡大はどう影響するか

最後に,こちらも2017年にはあたりまえになってきた「シェアリングエコノミー」の存在もこれから注視する必要があると考えています。日本発のユニコーン企業(非上場で10億ドルの価値がある企業)でもある「メルカリ」を筆頭に,さまざまなフリマアプリ・サービスが登場しました。これまでは購入から所有までが,読者(ユーザ)の体験だったものが,シェアリングエコノミーの存在から,購入~所有~共有のサイクルが,読者の体験になってきています。

Amazon Kindle Unlimitedやdマガジンなどの読み放題サービスなどもその一貫と言えるでしょう。

そして,このメルカリが2017年5月にリリースしたメルカリ カウルは,書籍に加えて,CD/DVD,ゲームなど,エンタメジャンルを主対象としたシェアリングサービスで,今後,こういったサービス群が出版市場にどのような影響が出てくるのか,筆者も気になるサービスの1つです。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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