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2018年,電子出版ビジネスはいよいよ普及のフェーズへ~高まる運用保守の意識

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2017年の電子出版動向~技術的観点から

ここまでは電子出版および出版市場のこの数年の流れと展望についてまとめてきました。これからは,2017年に起きた技術面から見た電子出版動向と2018年の展望について考察します。

IDPFがW3Cへ統合,EPUB3.1のRS公開

昨年の本コラムでも取り上げたように,2017年1月31日,IDPFが正式にW3Cに統合されました。今後は,電子書籍フォーマットであるEPUBの仕様策定は,W3C配下のプロジェクト「PUBLISHING@W3C」で進んでいきます。

これに先立ち,2017年1月5日に,EPUBの最新バージョンであるEPUB3.1のRS(Recommended Specification)が公開されています。

もともとEPUB自体はXHTMLとCSSというWeb技術をベースに生まれたものであり,今後,Web標準を司るW3Cにおいてどのように開発が進んでいくのか,個人的にも興味深いところです。

また,日本国内に関して言うと,2017年6月27日に,慶応技術大学SFC研究所を筆頭に,株式会社KADOKAWA,株式会社講談社,株式会社小学館,株式会社集英社,株式会社出版デジタル機構によるAdvanced Publishing Laboratory(APL)が設立されました。

APLは,日本の出版業界を対象に,新しい技術,新しい時代に対応するために,出版とデジタル技術を融合させることを目的に設立された研究所です。前述のEPUBに関する話題を含め,日本国内のこれからの出版において大きな役割を果たすのではないでしょうか。

ブラウザベースの電子書籍リーダーは普及するか?

2017年の電子出版にまつわる技術動向でとくに注目したいのが,Microsoft EdgeへのEPUBリーダー機能の標準実装です。Microsoft Edgeは,Microsoftが開発するOS,Windows 10に搭載されるWebブラウザで,2017年4月11日にリリースされた「Windows 10 Creators Update」において,EPUBリーダー機能が標準実装されたのです。

さらに同年10月リリースの「Windows 10 Fall Creators Update」では,テキストコピーおよびCortanaへの質問機能やインクノート,注釈などの機能が追加実装された他,米国内でのWindowsストアにて,EPUBの販売が行えるようになりました。

Microsoft EdgeへのEPUBリーダー機能標準実装は,今まで弱いとされていたPC(デスクトップ・ノート)での電子書籍(EPUBフォーマット)の閲覧が強化・改善される可能性があります。

また,現在米国限定となっているWindowsストアでのEPUB販売が,米国外にも適用されれば,今まで以上に販路が広がる可能性があります。読者にとっては選択肢の幅が増えることは,必ずしもメリットではないかもしれませんが,コンテンツを提供する出版社としては,販路に関して1社独占ではなく市場内で適正な競争が行われることは,ビジネスメリットとして非常に大きいと,筆者は考えています。

ここではMicrosoft Edgeをとくに取り上げましたが,それ以外のWebブラウザベースの電子書籍リーダーが,今後さらに普及する可能性があります。その理由はGoogleが推進しているPWA(Progressive Web Apps)の進化です。

PWAは,その名のとおりWebベースの技術で,Webブラウザ上で実行できるアプリ環境になります。2017年4月にはTwitterがPWA対応の「Twitter Lite」を発表するなど,各種サービスのアプリにおいて,PWA対応が進んできました。

これまでも,電子書籍リーダーの多くは,iOSあるいはAndroid向けのアプリとして展開されることが多い状況ではありましたが,先のMicrosoft Edge,そして,今後のPWAの普及度合いによっては,Webブラウザベースの電子書籍(EPUB)リーダーが改めて見直され,今まで以上に普及するかもしれません。

スマートスピーカーと電子書籍

最後に,2017年の技術動向で取り上げたいのが,スマートスピーカーの登場です。日本国内においては,2017年10月5日に,LINEの「Clova」Googleの「Google Home」⁠Google Home mini」が発表され,あとを追う形で,Amazon Echoが同年11月15日に発売されました。まさに2017年の秋は,日本国内でスマートスピーカーの競争が始まった時期でした。

一方で,スマートスピーカーの機能としては,まだまだこれからな部分が多く,現在は,対応しているアプリに対して自動応答する他,サービスと連動した音楽スピーカーとして利用されるシーンが多いようです。

しかし,今後,スマートスピーカーのメディアである「音声」とコンテンツがマッチすれば,新しいコンテンツの姿が見えてくるでしょう。電子出版に関して言えば,たとえば,文芸やビジネス書などのテキスト主体の読み物,あるいは,子ども向け文学作品などの読み聞かせのツールとして活躍するシーンは想像に難くありません。

さらに,室内のディスプレイやスマートフォンのスクリーンと連携させることで,音声+αのコンテンツの開発も可能となるでしょう。

筆者が所属する企業のような専門出版物ではまだ直接的な関わりが少ないかもしれませんが,出版物において,スマートスピーカーが持つ可能性は小さくないと筆者は考えています。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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