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2018年,電子出版ビジネスはいよいよ普及のフェーズへ~高まる運用保守の意識

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普及期における課題と対応

以上,2017年の電子出版市場と技術動向について振り返りながら,これからについて考察しました。最後に,それらをふまえて,普及期に入ってきた電子出版市場において,筆者が考える課題と対応についてまとめます。

日本の直近の電子出版元年から6年~端末やOSは何世代変わったのか?

電子出版市場の成長は先に書いたとおりです。市場の成長とともに拡大するのが利用者,すなわちユーザ数です。先ほどは,形態としての紙と電子について必要以上に意識・比較をする必要がないと書きましたが,1点だけ,意識・比較する必要があります。

それは,電子書籍・雑誌を読む端末の進化です。紙の書籍・雑誌に関しては,⁠紙の劣化はあるものの)紙の仕様が変わることはありません。しかし,電子書籍・雑誌に関しては,フォーマットであるEPUBのバージョンアップに加えて,そのコンテンツを閲覧するデバイスの進化がつねにつきまといます。

たとえば,1つの例として,日本の(直近の)電子出版元年と言われている楽天KoboやAmazon Kindleがリリースされた2012年の冬と,昨年2017年の冬のiPhoneについて比較してみましょう。

2012年冬のiPhoneの最新バージョンはiPhone 5(2012年9月21日発売)です。この端末の画面サイズは4インチ,解像度は1,136×640ピクセル,326ppiになります。2017年冬,直近のiPhoneの最新バージョンはiPhone X(2017年11月3日)です。この端末の画面サイズは5.8インチ,2,436×1,125ピクセル,458ppiになります。この解像度でタテ・ヨコそれぞれ倍に,ppiは1.5倍に大きくなっています。これは,電子書籍・雑誌制作時に,コンテンツの画像サイズに大きな影響を与える数字です。

OSのメジャーバージョンについては,前者はiOS 6.0,後者はiOS 11.0となっており,さまざまな機能拡張や改善が行われています。また,この間,2014年には開発言語がSwiftへ変化したことも付け加えておきます。

このように,電子書籍・雑誌の場合,コンテンツそのもののフォーマット,あるいは,それを閲覧する端末が,読者が購入したタイミングによって異なるケースがあるのです。その結果,とくに最新端末で古いコンテンツを閲覧する際に,⁠コンテンツリリース時の仕様に合わせた結果)画質が荒くなったり,あるいは,電子書店が提供するアプリのバージョンアップで,旧バージョンで制作したコンテンツが崩れるといったトラブルも起こりえます。

実際,技術評論社の電子書籍に関して,EPUBの仕様に則って制作しているコンテンツ(2013年発売)であるにも関わらず,最新の端末・電子書籍リーダーで閲覧した際,レイアウト崩れが起きたというケースもありました。結論としてはコンテンツの不備ではなく,電子書店リーダーのバグだったのですが,こういった問題に対して,電子出版の流通に関わる電子書店や電子取次には,より一層注意しきちんと対応してもらいたいところです。

進む技術,対応に追われる法整備

今の例に限らず,年々技術が進化していくことは避けて通れない道です。デジタル技術を活用する電子出版においては,技術進化から目を背けることはできない,不可避な流れと筆者は考えています。ですから,電子出版市場が成長していることをただ受け入れるのではなく,技術進化によって起こりうるトラブルに対応することはもちろんのこと,トラブルが起きる可能性を意識していくことが大事でしょう。

あくまで筆者の主観ですが,日本の電子書店や電子取次はこの部分が非常に弱いと感じており,トラブル=コンテンツの不備とするケースを何度も見てきました。コストの面からは下位互換が難しいのはわかりますが,そうであれば,どのタイミングで下位互換を放棄するのか,そういった部分のケアはもっとしてほしいところです。

また,電子化において避けられない問題として,海賊版対策もあります。2017年は,⁠はるか夢の址」「フリーブックス」など,非常に悪質で大規模な海賊版あるいは海賊版誘導サイトが多数顕在化し,多くのニュースで取り上げられました。今挙げた2つについて,前者は著作権侵害容疑で逮捕となり,後者もサイト封鎖となっていますが,複製がしやすい電子書籍・雑誌ではこれからもイタチごっこが続くことが想定されます。

このほか,仕様面だけではなく,法律面でもまだまだデジタル技術に追いつていない部分があるでしょう。とくに日本の著作権についてはインターネットができる前から整備されてきたため,後追いで整備されている部分があるのも事実です。

繰り返しになりますが,デジタル技術やインターネットにはさまざまなメリットがある一方で,これまでには想定できなかったトラブルの危険性も抱えています。メリットをきちんと享受するためには,それらのトラブルを回避すべく技術動向をきちんと追い続け,また,ビジネスを健全に成長させるための法整備,そして,それに紐づく契約などへの意識を高める必要があるでしょう。

改めて技術の進化ありきで電子出版を考えてみる

最後に,改めて技術の進化ありきで電子出版を考えてみます。

この記事もそうですが,電子出版についてさまざまな情報を伝える場合,どうしても,提供する側の目線が強くなりがちです。しかし,技術の進化は提供側に影響があるだけではなく,利用者側(電子出版で言えば読者側)にも多大な影響を与えます。ときに,これまでのルールが通用しなくなるかもしれないのです。コンテンツを提供する側は,まずその点を改めて意識しなおす必要があるでしょう。

筆者は,今,電子出版が普及期に入ってきたと感じています。と同時に,2018年以降のさらなる電子出版市場の成長に向けて,これまでの読者・今の読者・これからの読者の皆さまに,技術が進化していくことを前提に良質なコンテンツを提供することが求められています。これは月日が経てば経つほど重要になり,ときにコストが大きくなる場合があります。

2018年は,過去数年の電子出版業界にあったような目新しさだけではなく,環境を整備する意識,他のWebサービスと同様,電子出版事業でも運用保守,それに伴う取捨選択の重要性が高まる1年になると予想します。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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