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次の10年に向け,持続する電子出版ビジネスを~2020年の先の電子出版ビジネスを考える

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電子出版ビジネス,2020年の期待と課題

次に電子出版ビジネスとその周辺の話題について取り上げます。

日本でオーディオブック市場が花開くか

まず,昨年の本コラムでも取り上げたオーディオブックです。ここ日本では,オーディオブックプラットフォームの先駆者,オトバンクの「audiobook.jp」がさまざま取り組みを進め,普及・浸透が進んでいます。

2019年10月には会員数が100万人を超え,絵本ナビとの連携による読み聞かせサービスの提供や京セラコミュニケーションシステム株式会社が提供する公共図書館システム「ELCIELO」と連携した,図書館向け「オーディオブック配信サービス」を2020年2月からスタートすることを発表するなど,サービスの多様化とコンテンツの増加が見えています。

また,オーディオブックが先行する欧米では,アメリカ国内でのオーディオブック普及率は50%を超えた米国オーディオブック協会調査(2019年4月29日発表PDF)よりという発表が行われるなど,日本よりも早くオーディオブック普及が進んでいます。

日本の場合,生活スタイルの違いなどから,単純に欧米と比較して動向を探るのは難しいですが,今後どのような市場になっていくのか,継続して注目したいです。

ブロックチェーンを活用した電子出版エコシステムはどうなる?

2019年,技術的観点から筆者が注目したのが,電子出版ビジネスにおけるブロックチェーン技術の活用です。

1つは,アソビモ株式会社がリリースした,デジタルコンテンツリサイクルマーケットDiSELです。ブロックチェーンを活用し,コンテンツの所有権の管理を行うサービスです。

また,具体的なサービスは出ていませんが,電子出版取次などを行う株式会社メディアドゥは2019年7月にブロックチェーン技術を活用した新たな電子書籍流通プラットフォームの構築に関する方針・およびエンジニアの採用強化についてという発表を行っています。リリースによれば,コンソーシアム型ブロックチェーン「Hyperledger Fabric」を利用した,電子出版流通プラットフォームの構築と運用を目指しているとのこと。

電子コンテンツのような,インターネット上における権利の扱いはこれからのインターネットビジネスで非常に重要です。筆者としては,まだ様子見というのが正直な感想ではありますが,2020年以降の動向に注目します。

コンテンツ特性やライフスタイルを"より一層”意識したサブスクリプション型電子出版サービス

最後に,日本のコンテンツ配信において一般化したサブスクリプションについてです。電子出版ビジネスでは,2014年のdマガジンの登場,2016年のKindle Unlimitedの登場で,読み放題という言葉が一般化し,月額・定額で,電子コンテンツの読書を楽しむ読者が増えています。

もともとは,雑誌(情報誌)やマンガ,文芸,小説といったジャンルを対象にしたものが多く,出版社も幅広い読者層を対象としたタイトルの提供が中心となっていました。

2019年に入り,サブスクリプションで提供されるコンテンツ群に変化が見えてきました。その1つがスタディプラス株式会社が開発した学習参考書を対象とした読み放題サービスポルトです。

スタディプラスは,学習管理アプリ「Studyplus」を提供し,スマートフォンでの学習体験の提供に実績がある会社です。ポルトは,その実績に基づいた特徴を活かしたサブスクリプションサービスで,全12社の学習参考書を刊行する出版社が参画し,⁠スマートフォンを参考書に学ぶ」という学習スタイルを提供することを目的にリリースされています。⁠スマートフォンでの学習体験提供」×「デジタル版学習参考書」の組み合わせは,スマートフォンに慣れた学生たちにとっては非常に魅力的なサービスと言えるのではないでしょうか。

今後,サブスクリプションに慣れた読者が増えると予想される中,次に読者が求めるのは,⁠目的に合ったコンテンツを効率的かつ納得できる料金体系で読む(体験する⁠⁠」ことです。ポルトのように,コンテンツの特性が近い出版社が連携することで,ターゲットに向けて豊富なコンテンツを提供できる特化型サブスクリプションサービスはこれからの主流の1つになるのではと筆者は考えています。

また,今紹介しているサブスクリプションの概念とは少し異なりますが,全国大学生活強度組合連合会(大学生協)が運営し,今後,強化を進めているDECKSでは,大学および大学院在学中の4年間での利用や継続利用を選択可能な電子教科書配信サービスに取り組んでいます。

スマートフォンやインターネットがあたりまえとなった今,このような読者の時間により密接となった,もう少し大げさに言えば人生のタイムラインに合わせた提供方法も,これからの電子コンテンツ配信には求められていくと考えます。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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