ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第7回 保護期間延長論争の陰にある現実

この記事を読むのに必要な時間:およそ 5 分

見えない起算点(2)~法改正の狭間で

「公表された映画の著作物」のような,いわゆる⁠メジャーな著作物⁠の場合,多少年代を遡っても,著作権保護期間の判別は容易であるように思えます。

しかし,最近になって,そんなメジャーな著作物でも保護期間をめぐって混乱することがある,ということを証明するかのような事案がいくつか登場してきています。

例えば,昨年から今年にかけて相次いで出された,故・黒澤明監督の映画DVD販売をめぐる東京地裁,知財高裁の判決では,

「本件映画の著作権の存続期間は,旧著作権法(注:1971年改正前の著作権法)によれば,⁠略)⁠少なくとも著作者の1人である黒澤監督の死亡した年の翌年である平成11年から起算して38年間(注:旧著作権法に基づく保護期間)存続する」

(知財高裁平成20年7月30日判決)

として,公表後の一定年数経過(公表時基準)により著作権の保護期間が満了した」という廉価DVD販売会社側の主張が退けられました。

映画の著作物の保護期間に「公表時」基準が適用されるようになったのは1971年の著作権法改正以降で,旧著作権法下では「著作者」基準が採用されていましたし,監督個人を映画の著作物の著作者とする解釈も従来から唱えられていたものです。

そして,経過規定により,旧法に基づく著作権の存続期間が改正後のルールによる期間よりも長いときは旧法に基づく期間が適用される,とされていますから,法解釈としては上記のような判断は決して不自然なものではない,ということになります。

しかし,これら一連の判決が出されるのと相前後して,1953年公開の映画(⁠ローマの休日」⁠⁠シェーン」⁠について,⁠保護期間が満了し,著作権が消滅している」という裁判所の判断が示されていました。そのこととあわせて考えると,1953年以前に公開された「黒澤映画」の著作権が保護されたという事実に違和感を抱く人も決して少なくないのではないでしょうか。

これらの事案が結論を違えた背景に,映画の著作者が法人と認定されたか(⁠ローマの休日」⁠⁠シェーン」⁠それとも監督個人と認定されたか(⁠黒澤映画」⁠という違いがある,というのは判決の中でも指摘されていることですが,⁠ローマの休日」「シェーン」における「監督」の地位と,ほぼ同時代に大手映画会社の配給作品として製作された「黒澤映画」における「監督」の地位にそこまで大きな違いがあったとは思えず,結局,上記の差異は,単に権利を主張しようとする側がどのような主張をしたか,という違いに過ぎないようにも思えます。

そして,裁判所が示した結論の是非はともかく,⁠製作に関わったのが誰か」「公表の経緯」等がはっきりしている⁠メジャーな著作物⁠であっても,法改正等の事情により権利保護期間を容易に判別できなくなる事態が生じうる,ということは,一つの教訓として,今後の法改正を考える際に,頭に入れておく必要があるのではないか,と思われるのです。

翻案を繰り返している著作物の「公表時」の問題や,一部の外国国民が著作者となる著作物に関する「戦時加算」の問題など,過去の著作物の保護期間の算定を困難にしている要素は,他にもいくつか挙げることができます。
結局のところ,権利を管理している側が「権利保護期間が満了した」と宣言でもしてくれない限り(このような宣言を自主的に行う権利者はそうそういないと思いますが…)⁠利用する側としては(権利者との交渉を経ない限り)安心して著作物を利用できないような状況が現に存在している,といわざるを得ません。
ネット上では,⁠某世界的アニメキャラクターの著作権が実は切れている」といった類の情報もよく見かけますが,これにしても,様々な解釈が可能である以上,⁠自由に使うことのできる著作物」として扱うことは躊躇われるのが実情です(後述する「ピーターラビット」の事件もご参照ください)⁠

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。

コメント

  • コメント御礼

    >とおりがかり様

    貴重なご意見ありがとうございました。

    確かに説明不足だったところもございますので、
    疑問をお持ちになられるのも当然のことかと思いますが、
    ご指摘いただいた2点につき、私自身は次のように
    考えております。

    1)写真の著作権について

    ご指摘いただいたとおり、写真の著作物の旧法下での
    保護期間のルールは現在とは異なっているのですが、
    1950年代後半に発行・創作された写真の中には、
    1971年の著作権法改正に合わせて、保護期間が暫定的に
    延長されていたものもありますので、事例(1)に全く意味
    がないとはいえないのではないかと思います。

    参考:「コピライトQ&A」より
    http://www.cric.or.jp/qa/sodan/sodan1_qa.html

    ・旧法(発行又は創作後10年→13年)
    ・新法1(公表後50年)
    ・新法2(著作者の死後50年)


    2)現在の議論状況について

    ご指摘いただいた「中間まとめ」は法制問題小委員会でのものだと思いますが、保護期間に関する議論がなされていたのは、「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の方で、こちらでの議論については、「中間整理」として両論が併記されるにとどまっているのが実情です。

    参考:「中間整理」に対するパブリックコメント募集
    http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=185000344

    保護期間延長論と平行して、利用の円滑化に関する方策や、フェアユースに関する議論が最近出てきているのは重々承知しておりますが、公的な場で「延長しない」という方向で議論がまとまったなどということは、私は寡聞にして存じ上げておりません。

    確かに、一時に比べれば「盛りを過ぎた」感はありますが、
    過ぎ去った問題、とまでは言えないのではないかと思います。


    以上、不正確なところもあるかもしれませんが、
    取り急ぎの回答とさせていただければ幸いです。

    Commented : #2  F-JEY (2008/12/19, 01:42)

  • 内容に対する疑問

    一番最初の事例ですが、1950年代の後半ということなので旧著作権法が適用されると思います。旧著作権法では、写真の保護期間に関して、「発行(公表)後10年、未公表の場合は製作(創作)後10年」と定められていますから、たとえ1959年に撮影された写真であっても1970年には著作権の保護が切れていることになります。この事例で50年規定を持ち出したこと自体が間違いだと考えます。また、著作権保護期間の延長に関しては文化庁の文化審議会で中間まとめとして、早急な延長はせずに、諸々の問題をクリアすることを優先する旨の方向が提示されていますから、導入部での議論が盛というのは全く古い認識です。現在は日本でのフェアユースをどのように定義するかといった問題について、検討の焦点が移っております。以上、老婆心ながら。

    Commented : #1  とおりがかり (2008/12/18, 11:16)

コメントの記入