読むウェブ ~本とインタラクション

第4回 レイアウト

この記事を読むのに必要な時間:およそ 2.5 分

脱ブラウザ戦略の先陣

柔軟なスタイルで,新聞を読む

The New York TimesのTimes Readerをご存知だろうか?

PCで新聞を読むためのリーダーアプリケーションだが,新聞のレイアウトフォーマットをそのまま採用しているのが特長だ(フォントも紙面と同じものが使用されている)。単に新聞を取り込んだリプレイサブルなサービスのように思えるが,ウィンドウの可変によって段組み数が自動調整されたり,スクロールの概念を排除するなど,ディスプレイで読むための仕様になっている。たとえば,ウィンドウを狭めると2段組みレイアウト,ディスプレイ全面に広げると5段組みレイアウトに調整され,メインで使われている写真などは高解像度で表示される。もちろん,文字サイズだけの変更もスライダーで自由におこなえる。紙メディアの新聞をほぼそのまま取り込んでいながら,利用者ごとに異なる閲覧環境にも対応。柔軟なページレイアウト技術によって可読性を高めている。

なお,The New York Times以外では,ForbesやHearst,Associated Newspapersなども同様のサービスを実験的に始めている。

脱ブラウザを支える新技術

このリーダーアプリケーションはWPF: Windows Presentation Foundationを利用したものだ。WPFとはMicrosoft社が開発した新しいグラフィックサブシステムのこと。Windows Vistaに搭載されている。テキストや画像,ビデオ,3Dグラフィックスなどを「XAML (eXtensible Application Markup Language) 」というXMLベースのマークアップ言語で扱う。開発ツールとしてExpression Blend,Expression Design,Expression Webなどが提供されており,Webアプリケーション開発の環境はすでに整っている。Microsoft社は出版業界などを対象に技術支援をおこない,新聞や雑誌のデジタル化における標準を獲得する狙いがあるようだ。「脱ブラウザ」戦略といえば,Adobe社もApolloプロジェクトを進めており,両者が複数の分野で競合する可能性が高い。

レイアウトに魅了される

「読ませる」オンラインマガジンのレイアウト

前々回から続けて紹介してきた「ディスプレイで読む」スタイルのオンラインマガジンでは,次の特長が挙げられる。

  • 脱ブラウザ
  • スクロールの概念を取り去り,一覧性を向上させる
  • ベクトルグラフィックをベースとしたレンダリング表示
  • 著作権保護機能の搭載

これらに加え,WPFを活用したTimes Readerなどは「ウィンドウ可変に対応したマルチカラムレイアウト」といった特徴が挙げられる。

さて,ここで問題になってくるのがインターネットユーザーの読書スタイルである。紙媒体の方が良いと思っている人は,新聞や雑誌を買う。ネットではストレートニュースを見る程度だと思われる(PCさえ使わず携帯電話でチェックする人も多いだろう)。中級以上のユーザーは,アグリゲーション・スタイルが定着しており,構造化ドキュメントではない作り込まれたコンテンツは「例外」扱いにされてしまう可能性が高い。ソーシャルブックマークやRSSリーダーで受け取れない,活用できない情報は厳しい。そう考えると新聞や情報誌などは,HTMLベースで作成するのが安全かもしれない。

「見せる・魅せる」オンラインマガジンのレイアウト

それでは,嗜好性の高い専門誌はどうだろう? グラフィカルなマガジン,たとえばBRUTUS(マガジンハウス)pen(阪急コミュニケーションズ),STUDIO VOICE(INFASパブリケーションズ)など。これらのWebサイトは,最新号の紹介や次号の予告,バックナンバーの情報などしか掲載しておらず,販促目的で運営されている。もし,Times Readerのようなリーダーアプリケーション用に作り込まれたオンラインマガジンになった場合,読者は興味を示すだろうか。グラフィカルな雑誌の魅力は何といっても,Photographyとグリッドに縛られないコラージュのようなレイアウトデザインである。ダイナミックに広がる美しくかっこいいPhotography,大胆なフラッドカラー,柔軟なレイアウトによる刺激性の高さ,これらの要素はあきらかに「情報を得たい」という欲求とは異なり,CDやレコードのジャケ買いに近いものだといえる。このようなメディアでは「読ませる - リーダビリティー」「見せる・魅せる」は等しく,数百円の雑誌であっても買い捨てされないものだ。これらの雑誌は捨てられず,古本屋などを介して他の読者へと渡っていく。嗜好性の高い専門誌(ストック)と新聞や情報誌(フロー)との差異である。

著者プロフィール

境祐司(さかいゆうじ)

インストラクショナル・デザイナー[Instructional Designer]として学校,企業の講座プラン,教育マネジメント,講演,書籍執筆などの活動をおこなう。2000年より情報デザイン関連のオンライン学習実証実験を始める。現在,教育デザイナー育成を目的としたフォーラムを立ち上げるため準備中。著書に「速習Webデザイン Flash CS4」(技術評論社),「Webデザイン&スタイルシート逆引き実践ガイドブック」(ソシム)などがある。

URLhttp://admn.air-nifty.com/monkeyish_studio/

著書

コメント

コメントの記入