読むウェブ ~本とインタラクション

第10回UGC(User-Generated Content)書物(1)

今回は「読むウェブ」からすこし離れて、UGC(User-Generated Content:一般ユーザーによって生成されるコンテンツ)と仮想世界の書物について書いていきたい。ディスプレイで読むオンラインマガジンのさらに先の話になる。前知識がある程度必要になるので2回に分けて掲載することにし、今回は仮想世界について考えてみたい。話題のきっかけとして取り上げるのは「Second Life」である。

Second LifeとUGC

最近、国内でもSecond Lifeに関するニュースが増えてきた。大半は企業参入のニュースだが、自治体や国会議員が活用するといった例も紹介されている。Second Lifeは、米国リンデン・ラボ社の仮想空間を提供しているサービスである。Webや雑誌などで掲載されている画像をみると3Dゲームのように思えるが、遊びのルールが明確に設定されている「作り込まれたオンラインゲーム」ではない。UGCの場であり、新しいコミュニケーションシステムとして捉えることができる。

Second LifeのWebサイト

Second LifeのWebサイト

Second Lifeを話題にする上である程度の専門用語を知っておく必要がある。まずは基本的なものを抜粋し、簡潔に解説しておこう。

シム(SIM)
シミュレータ (simulator) の略。Second Lifeでは世界をエリアで分割し、任意の数の地域を含む。各エリアは1つのサーバで管理されている
アイランド(island)
Second Life内の島のこと。1つもしくは複数のシムで構成される。面積に応じて土地使用料を支払うメインランド(Mainland)とシム単位で購入するプライベートランド(Privateland)がある。プライベートランドで分譲された土地を購入もしくは賃貸することもできる
オブジェクト(object)
Second Life内に存在する自然、建物、乗り物、衣装、道具などあらゆるもの。オブジェクトは複数のプリムで造られる
プリム(prim)
プリミティブ(primitive)の略。球や円柱、円錐、立方体などの基本形状のこと

Second Life内の土地に建てられた家や小道具、アバターの衣装などは住人が造ったもの(オブジェクト)である。プリムを組み合せ、加工して造り上げていく。これら創作物の著作権は作者に帰属する。サービスを提供しているリンデン・ラボ社に帰属しないというのがSecond Lifeの大きな特徴である。住人は自分が建てた家や製造した乗り物、デザインした衣服などを自由に販売することができる。売買にはSecond Life内の貨幣リンデンダラー(L$)が使われるが、米ドルに換金することも可能だ。つまり、RMT(Real Money Trade:リアルマネートレード)が容認されたサービスなのである。

Second Lifeは企業にとって実証実験の場

Second Lifeは、目的が設定されているゲームではなく、自らの表現行為や人とのコミュニケーションの場を提供する仮想空間である。社会シミュレーションを試みるには絶好のサービスといえるだろう。3DCGによる仮想世界を新しいビジネス・インターフェイスとして研究している企業は多いが、実証実験には莫大な費用がかかる。今からノウハウを蓄積しておきたいが、プロジェクトとして動かすのは大変であった。

Second Lifeの登場はそれら企業に大きなチャンスを与えることになった。実際に稼働している大規模な仮想世界に参加することができるからだ(しかも参入に対する制約がない⁠⁠。Second Lifeのビジネス展開というよりは、3D仮想空間サービスの実証実験の場として活用できることに大きな価値がある。参加することで問題点や可能性を探ることができるのである。たとえば、どんな場面でdeep-think(処理が遅くなりアバターの動作が重くなったり、オブジェクトが欠けてしまう状態)が発生するかなど、傾向を調べることができる。

Second Lifeが日本で流行るかどうか、賛否両論さまざまな意見がある。現在、利用者にとって参加の障害となっているのは次の3点である。

  • 快適動作にはハイエンドなPCが必要
  • 自由度が高すぎる(ゲームのように明確な目的がない)
  • システムやオフィシャル情報が英語

動作環境や言語については時間の経過によって解決していくと思うが、利用者が「楽しみ方を見いだせない」ことについては旅行業界におけるツアーガイドのような仕組みが参考になるかもしれない。同様にライフエキスパートの存在も必要になってくる。いずれにしてもスタートしたばかりの前例のないサービス、企業にとってはSecond Lifeに参入することが貴重な「勉強」になるはずだ。

今後、Second Lifeのようなサービスが続々登場してくると思うが、その源流は「住人の自由度が高く、制限のない社会」を提供したSecond Lifeの運用方針にあったといってよいだろう。

仮想世界の出来事を綴るブログ

YouTubeやFlickrなどの共有サービスを見ると、Second Lifeでおこなわれたイベントや記者会見、コンサートなどのレポートがアップされている。その多くは仮想世界の住人としての目線で記録されており、リアル世界と交差する部分が少ない。仮想世界の生活を綴る日記もある。実生活と明確に分けているのが興味深いところ。国内でも同様のコミュニティが登場している。最近の事例を紹介しておこう。

Second Lifeに特化したブログの
ポータルサイトSLMaMe(ソラマメ)
Second Lifeに特化したブログのポータルサイト「SLMaMe(ソラマメ)」

SLMame(ソラマメ)は、Second Life専用のブログポータルサイトである。SLMameとは、Second Life Map and Memoryの略。今年の3月、株式会社メタバーズと株式会社シーポイント、ジェイ・ライン株式会社が共同でオープンした。利用者はSecond Life内で体験したことや気に入ったスポット、ショッピングの感想などを書き、他の利用者と情報を共有する。訪れた場所のスナップショットを掲載したり、地図をブログに表示させることができ、Second Lifeで開催されるイベントや発表会などの情報はカレンダー機能で知ることができる。

その他、Second Lifeに関連したサービスを2つ紹介する。まずは、Second Lifeの専門マガジンとして公開されているMagSL.NET(マグスル)だ。最新ニュースやイベント情報の他、海外SL事情、リンデンブログ和訳などの情報もあり、参考になる。日本人居住区の分譲やリンデンドルの売買などをおこなっている株式会社ジップサービスが運営している。土地をレンタルしたい人はチェックしておくとよいだろう。

セカンドライフ日本語マガジンMagSL.NET(マグスル)⁠左図⁠⁠。
国内最大のセカンドライフ専用SNSSLnavi⁠右図)

セカンドライフ日本語マガジン「MagSL.NET(マグスル)」 国内最大のセカンドライフ専用SNS「SLnavi」

SLnaviは、Second Life専用のSNSである。6月現在で会員数が8,200名を超えており、日本では最大のコミュニティとなっている。⁠mixi(ミクシィ⁠⁠」のフォーマットに近いものを採用しているため、SNSに慣れている人はすぐに活用できる。インワールド・イベント(SL内)やリアル・イベント(オフ会⁠⁠、お店、ファッション、観光、企業、Second Life障害情報などのコミュニティがある。

仮想空間のオンラインイベントと他メディアとの連携が重要

Second Lifeに関連したブログやSNSを見ると、アバターファッションについての情報が多いことに気付く。コミュニティなどで頻繁にやり取りされているのは、アバターを着飾る衣服やアクセサリー、靴、小道具、そしてヘアースタイルやスキン、タトゥーなどの話題である。アバター(avatar)というのは、利用者の分身、化身のこと。一見すると着せ替え遊びのようだが、仮想世界のサービスにおいて欠くことのできない重要な要素だ。⁠オンラインイベント(仮想世界でおこなわれるイベント⁠⁠」が他メディアにはない新しい機能として注目されており、アバターはイベントのインターフェイスとして必須のものとなっている。

アバターはオンラインイベントへの参加動機を高め、仮想世界の魅力を創出する重要な要素として捉える必要がある
アバターはオンラインイベントへの参加動機を高め、仮想世界の魅力を創出する重要な要素として捉える必要がある

Second Lifeで開催される数々のオンラインイベントを見て、人工現実感がビジネスになると感じた人は多い。SNSやブログとの連携だけではなく、テレビ(バラエティ番組内で仮想世界との中継など)やラジオといったマスメディアとのタイアップも注目されている。特に国内では著名人(タレント、スポーツ選手など)の使い方が重要になるだろう。また、AmazonやeBayとの強力な連携を持つことで相互テレポートによる新たな相乗効果を狙えるかもしれない。

いずれにしても、オンラインゲームのように仮想空間サービス内だけで完結するのではなく、他メディアとの強い連携が重要になってくる。最も機能しやすいのがオンラインイベントだといえる。Second Lifeに参入する企業の多くは、自社ビルを建設するなど環境整備を優先しているが、今後はいかに訴求力の高いオンラインイベントを仕掛けることができるかを競うことになる。現在は、1つのシムにおよそ50人が限界という技術的な問題があるため、リアルな場に中継したり、プロモーション映像として流用するなど、さまざまな工夫が必要だが、実証実験を兼ねていると考えれば得ることの方が大きい。

前述したとおり、今までは大規模な実証実験が困難だった。国内でもVR(Virtual Reality:バーチャルリアリティ)関連の研究施設でさまざまな実証実験が進められているが、設備にかかる費用や時間、制約などで一般ユーザーが参加できるような仮想世界の構築は難しい。

Second Lifeの登録者は597万人(4月末現在⁠⁠、仮想通貨取引額は月間29億円(2月時点)である。また、これから増えてくる可能性の高い仮想世界の犯罪(マネーロンダリング、詐欺、非合法な施設運営、著作権侵害など)にどう対処していくか等、あらゆる社会シミュレーションが可能な場になっている。まずは小規模かつ複合的なタイアップを積極的におこない、仮想世界における商用ノウハウを蓄積していくことが重要ではないだろうか。


次回は、仮想世界の図書館、および書物に絞って書いていきたい。雑誌のデジタル化が進むと、今まで不可能だった表現や使い方が実現する。既存フォーマットを模したページ画面をディスプレイで読むだけではない、まったく新しい本の登場について取り上げてみたいと思う。

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