デジタルブランドマネジメント

第55回 SXSW2016に見るストーリーテリングへの回帰

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テキサス州オースティンで毎年開催されるアイデア・セントリック・カンファレンス,SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)⁠ここでは様々な業界リーダーや著名人がインタラクティブ,フィルム,ミュージックの分野でプレゼンテーションやディスカッションを主催し,新しい,革新的なアイディアに発表の場を与えています。インタラクティブ部門は,最先端技術やデジタル・クリエイティブを育む場となっており,明日のテクノロジーに関する大局的な分析や,実験的な実施に今日触れることができます。オースティンで受けたインスピレーションを基に,世界各地の専門家が新しいことにチャレンジすることで,SXSWは業界全体の発展に貢献しているのです。

今年発表された数々のマーケティング関連のトピックからは,ある共通点を見ることができます。それは,ブランドがインターネットに溢れる情報の喧騒を打破(Break through the clutter)し,消費者との繋がりを生むためにはストーリーテリングが欠かせないというものです。今回は先月のSXSWで発表された内容を,以下の4つのトレンドにまとめます。

  1. 消費者との繋がりを生むブランドストーリー
  2. 感情トリガーの重要性
  3. ブランドストーリーを代弁するインフルエンサー
  4. コンテンツコントリビューターの台頭

消費者とのつながりを生むブランドストーリー

テクノロジーで消費者体験を拡張することはできます。しかし,オーディエンスとの密な関係を創るためには,依然として人間的な要素を含むブランドストーリーが欠かせません。どんなプラットフォームにおいても,人がコンテンツに期待するのは,何かを売ることだけではありません。人を楽しませたり,役に立ったりするストーリーがなければ,それは一方的な宣伝に過ぎないのです。

質の高いストーリーテリングは,もはやオーディエンスに驚きを与えるものではなく,当り前に求められるものです。優れたストーリーは,広告や店頭,PR,ソーシャルメディアなど,様々なブランドとのタッチポイントで活用できます。そしてテクノロジーによって,ブランドはこのストーリーを広く,簡単に消費者に届けられるようになりました。しかし,ストーリーの開発にかける時間やクリエイティブなプロセスを省略することはできません。テクノロジーは所詮ストーリーの伝達方法に過ぎず,ターゲットに共感されるブランドストーリーがなければ,ただ需要を刈り取るだけの宣伝になってしまうのです。

ノートンのドキュメンタリー:インターネット上で最も危険な街を求めて

デジタルセキュリティのカテゴリーをリードするノートンは,⁠In Search of the Most Dangerous Town on the Internet(インターネットで最も危険な街を求めて)⁠というドキュメンタリーシリーズで,サイバー犯罪の暗く,かつ魅力的な世界を明らかにしました。ルーマニア中部の人里離れたリムニク・ヴィルチャの街は,世界中で最もサイバー犯罪が多い都市の1つです。映像は都市部を中心としていますが,その内容からは,共産主義の崩壊,コンピューターアクセス,高い水準の教育を受けている人口,そして国内のビジネスチャンスの少なさなどの複合的な理由で,ルーマニアの国全体がハッキングの温床となっていることがわかります。

ペルーの貧しい子供たちに空の旅を

ペルーの航空会社LANは,企業のCSRプログラムとして,僻地の経済的に恵まれない子供たちに,首都のリマへの無料旅行を提供するプログラムを実施しています。5年間にわたり,⁠Kids That Dream, Kids That Fly(夢みる子供,空飛ぶ子供)⁠と題されたこのキャンペーンで,国内でもとくに貧しい子供たち350人に飛行機旅行の初体験をプレゼントしてきました。

ウェンディーズがレタスの旅で食材の新鮮さをアピール

ウェンディーズは「Wendy's Romaine Lettuce Journey(ウェンディーズのロメインレタスの旅)⁠というオンライン動画で食材の新鮮さをアピールしました。レタスに装着されたヘッドマウントカメラの主観的な映像で,農場からレストランまでのレタスの旅を追いかけています。

今も昔も,ストーリーテリングには時間と労力がかかります。テクノロジーにそのギャップを埋めることはできないのです。

―― J.J. エイブラムス
セッション:「The Eyes of Robots and Murderers(ロボットと殺人者の目)⁠
2016.3.14

著者プロフィール

荻野英希(おぎのひでき)

デジタルマーケティングエージェンシー,FICC inc. 代表取締役社長。
デジタルがブランドをどのように強化し,その役割はブランド毎にどう異なるのか? デジタルブランドマネジメントの仕組みを検証する。

URLhttp://www.ficc.jp/

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