デジタルブランドマネジメント

第58回 テレビCMが効かない時代にマスブランドがすべきこと

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あなたの最近のお気に入りはなんでしょうか? 自分の趣味やテイストだけでなく,生活スタイルにもぴったりマッチしたモノはありますか? それは少しこだわりのあるガジェットや,化粧品,コンビニの食品などかもしれません。決して誰もが知るマスブランドではなく,自分と周りの知人の間だけで流行っている,所謂マイブームです。しかし,このような商品が広告を打たずに突然広く流行りだすことがあります。むしろ最近のヒット商品の大半は市場全体に向けたマスマーケティングではなく,小さなセグメントからの支持によって生まれているのです。

テレビ広告が効かない断片化市場

この現象は,メディアと生活スタイルの多様化から生まれています。現代の消費者はいつでもほしい情報にアクセスできるようになり,フィルターバブルという自分に最適化された情報空間に囚われています。興味のある情報は一瞬にして伝達するにもかかわらず,他の情報は届きにくくなります。こうしてソーシャルメディアやモバイルテクノロジーの普及とともに,市場は共通する興味だけでつながった無数の細かいセグメントに分解されていくのです。

個々のセグメントは少しずつ異なるニーズを持っており,市場は一見,たくさんのニッチマーケットの集合体のようにも見えます。企業はこれらのニーズを満たすために多くのブランドエクステンションや商品バリエーションを展開します。もちろん,競合もシェアを奪われないために同様に商品を展開します。そして,より高い認知を獲得するためにテレビCMを打つのです。しかし,ニーズの異なる無数のセグメントに一つのメッセージを投げかけても,受け入れられる訳がありません。⁠テレビCMはもう効かない」と言われるのは,単にテレビのリアルタイム視聴が減ったからではなく,市場の断片化によってマスマーケティング自体が通用しなくなってしまったからなのです。

バリアラダーとクチコミの特性

消費者が特定の商品を買わない理由を6段階に分けた,バリアラダーというフレームワークがあります。下に行くほど重大な問題であり,マーケティングで解決すべき課題がわかるようになっています。断片化市場では,一定量の消費者から3段目の「共感(レレバンス)⁠を得ることがとても難しくなっています。マスマーケティングに依存するブランドにとって死活問題です。しかし,小さなセグメントの支持から生まれるヒット商品は「共感」だけでなく,さらに上の「信頼」「優位性」をも一気に超え,広く受け入れられていきます。その理由はクチコミという情報の特性にあります。

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あなたは会ったばかりの人に大切な仕事を任せますか? そんなことはしない,と答える人がほとんどでしょう。しかし,これが信頼する人物からの紹介ならどうでしょう? 紹介者への信頼がそのまま被紹介者に移り,試しに何かの仕事を任せてしまうかもしれません。直接的なクチコミは「認知」から「信頼」までのバリアを一気にクリアしてしまいます。そして,その時点でより良い選択肢がなければ,人は勧められたものをそのまま受け入れてしまうのです。

クチコミへの依存度を高める情報氾濫

無数の商品の選択肢とそのマーケティング,そして消費者間で発信・共有される情報。私たちが日々接触する情報量は爆発的に増えています。あなたはあまりの情報の多さに,Amazonや楽天での買い物を諦めたことはないでしょうか? 特にスマートフォンの小さな画面で様々な商品スペックやレビューを比較し,最適な商品を選ぶことには誰もがストレスを感じるはずです。私たちの情報認識能力には限界値があり,それを超えると思考停止に陥ってしまいます。情報の氾濫は,合理的な購買判断の妨げとなり,私たちが他人の意見に耳を傾け,盲目的な信頼を寄せてしまう原因となっているのではないでしょうか。

さらにデジタルメディアの接触時間が増えるほど,企業からの直接的なメッセージは届きにくくなります。オンラインはブランドではなく消費者が情報の選択と伝達を行う,広告主にとって最も過酷な環境です。Webやソーシャルメディアは広告を見せるためではなく,人と人がつながるために進化してきました。私たちはコンテンツが見たいだけではなく,その体験を共有したいのです。情報の共有が中心であるオンライン環境では,ほぼすべての広告が無視されてしまいます。企業がデジタル広告で劇的に露出を高めても,間接的な消費者間の対話を引き起こすことができなければ大したマーケティング効果は得られないでしょう。

著者プロフィール

荻野英希(おぎのひでき)

デジタルマーケティングエージェンシー,FICC inc. 代表取締役社長。
デジタルがブランドをどのように強化し,その役割はブランド毎にどう異なるのか? デジタルブランドマネジメントの仕組みを検証する。

URLhttp://www.ficc.jp/

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