価値を生むために知っておくべき,フルフラッシュサイト制作のあらすじ

最終回 フルフラッシュサイトの未来 ― 新しい価値を生むために ―

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Webサイトの目的に立ち返る

『価値を生むために知っておくべき,フルフラッシュサイト制作のあらすじ』と題して9回にわたりお送りしてきた本連載も,今回を以って最終章を迎えました。本連載ではこれまで,企画から運用・更新に到る一連の制作フェーズに沿った形で,フルフラッシュサイトの質向上に不可欠と著者が考える手法についてひと通り言及してきたつもりです。最終章となる今回はその総括を兼ね,各章でたびたび触れてきたWebサイトの目的という命題に立ち返り,これをさらに掘り下げてみます。同時に今回は,日々変化するWebサイト制作業界で力を発揮し続けるため,著者が大切だと感じているいくつかのマインドにも触れたいと思います。今回のメッセージが,ディレクター,デザイナー,Flashオーサーなど,職種を問わずフルフラッシュサイト制作現場で活躍中,または今後活躍したいと願う皆様へのエールになれば幸いです。

フルフラッシュサイトは広がっていく

本題に入る前に,まずは少しだけ現在のWebサイト業界をとりまく流れを俯瞰してみましょう。株式会社電通が毎年発表している統計『日本の広告費』によれば,2007年の国内広告市場は全体では前年比プラスとなったにも関わらず,テレビ,新聞,雑誌,ラジオというマスメディア4媒体の広告市場は軒並み同マイナスとなりました。一方,インターネット広告の市場規模はここ数年前年比2桁で成長し,2007年にはついに雑誌広告の市場規模をも抜き去るという結果が出ています。数年後には新聞広告,さらには遠からずテレビCMの市場規模にも迫る可能性すらあるのではないでしょうか。各メディアにはそれぞれ特長や役割がありますから,ここ数年にわたる各々の市場推移とネット広告市場を単純に比べてもあまり意味はありません。ただ,現在も続くブロードバンド化や各種デバイスの高性能化を考えると,成長の速度はさておき今後数年間にわたるネット広告市場の伸長そのものには一定の期待感を持ち続けても良さそうです。その流れに乗ってフルフラッシュサイトという手法もさらにその採用を広めていくでしょう。ブランディングやキャンペーンといったWebサイトの目的次第では,クライアントからもある程度一般的な選択肢として認識されていくのではないかと,著者は考えています。

フルオーダーこそ価値を生む

一部でフルフラッシュサイトが一般的な選択肢になっていくという流れは,その制作関係者にとっては喜ばしいことと言えます。しかしそのぶん,モーションやインタラクティブ性といったFlash独特の表現手法もユーザーにとっては珍しくなくなっていくわけです。そのような環境変化のなかでも技術や手法に偏った制作スタイルから抜け出せないでいると,本来なら個別に存在する商材の世界観までもがますますユーザーから見えにくくなるケースも増えていくのではないかと,著者は懸念しています。その結果としてWebサイト本来の目的が達成しづらくなってしまうようであれば,フルフラッシュサイトの採用そのものがWebサイトの価値に繋がっていないことになってしまうでしょう。

真に価値あるWebサイトとは,いわばフルオーダー・スーツのようなものです。フルオーダー・スーツの作り手は制作にあたり,まずはフォーマルなビジネスシーン向けかカジュアルなパーティー向けかといった着用シーンから考慮していくでしょう。Webサイト制作も同様に,まずは「販売を促進させる」,「ブランドを浸透させる」といった目的を念頭に置かなければ出発点に立ったことにもなりません。

また,フルオーダー・スーツの寸法などが着用する個人の体型に応じて細かく調整されるのと同じように,商材の差別化要素,優位性,世界観といったあらゆるポイントを徹底的に検証する作業も真に価値あるWebサイト制作には欠かせません。たとえ世の中に少々似通ったものがあったとしても,完全に同じ商材は原則として世の中に存在しないためです。そのようなポイントを踏まえずに,たとえば同じカテゴリに属するというだけで別の商品にも適用できてしまうWebサイトが完成してしまうのであれば,やはりフルオーダーとは言えません。仮にクライアントの担当者レベルで了承を得られたとしても,個別の商品やサービスを求める立場にあるユーザーには満足を提供できたことにならないと言えるでしょう。

そのような状況に陥らないためにも技術や手法から自由になり,常にWebサイトの目的を見据えて商材の特長を的確に捉えようとする姿勢が,そのままフルフラッシュサイトの真価にも表れると考えています。

「言うは易し,行うは難し」でも

ただ,「そうはいっても実際の制作現場に身を投じるとそんな訳には……」と悩むクリエイターの皆様は少なからずいらっしゃると思います。たとえばWebサイトの目的を鋭く見据えた"真の価値に繋がる提案"であってもクライアントやエージェンシーには理解を得られないなど,プロジェクト次第ではある種のジレンマが付きまとう場面が数多く生まれるためです。ましてや大きなプロジェクトになればなるほど,関わるクリエイターの数や予算の制約といった考慮すべき要素は増えていきます。企画,デザイン,オーサリングといった一連のフェーズを進行させるうえでクリアしなければならない要素はおのずと複雑になり,そのコントロールにも手間がかかっていくことでしょう。

しかし制作の過程で考慮すべきどのような要素であってもWebサイトの目的を達成するための一手段に過ぎないという点では,前述した技術や手法とさしたる違いはありません。すでに存在する要素に縛られることなく,必要とあれば特定の要素を大胆に省き,場合によっては追加し,さらには調整や変化を加えるなど,柔軟かつ確固たる姿勢で制作にあたる意識が実際の制作現場では強く求められると思います。

もちろんどのような判断を導き出す場合でもクライアントをはじめとする制作関係者の要望を汲み置く姿勢は絶対に欠かせません。ただ,様々な実績をあげてきたクリエイターならばなおさらのこと,たとえばビジュアル表現ひとつについて考えたときでも,客観的に判断して「この表現では意図が伝わりにくいのでは?」と思われる局面に出くわすことは多々あるでしょう。

この課題は,発注者と受注者というビジネス上の立場もあるため,往々にして「言うは易し,行うは難し」的な状況に陥るきらいはあります。しかし,Webサイトの目的達成という本質を考えれば,ときには信念を持って異議を唱えることこそ,何よりパートナーとしてクライアントを支援する責任を果たすことにも繋がります。ときにはユーザーの代弁者となり,Webサイトの目的を達成するために関係各位と徹底的に議論を深めていくというスタンスも,特にフルフラッシュサイトという手法が持つ可能性を模索するうえでは大切な資質になるのではないでしょうか。

インターネットはインフラだ

そのようなフルフラッシュサイトの可能性を考えるとき,著者はつねづね,インターネットがメディアの枠を超えた「インフラ」であると考えることにしています。ユーザーが能動的に参加でき,メディアにもツールにも成り得るというインターネットの仕組み自体,既存メディアと並列で捉えることができないと思えるためです。著者としては,最先端の技術やトレンドに触れることの多いフルフラッシュサイト制作関係者の皆様だからこそ特にその点を意識しながら,ユーザーとの強固な繋がりをWebサイト制作に反映させ続けていただきたいと願っています。

今後Webサイトの制作担当者は,ときにはリアルと連動し,ときにはバイラルを仕掛け,各種既存メディアとも連動するという広告プロジェクト全体でハブのような役割を果たす機会も増えていくでしょう。フルフラッシュサイト制作に携わるクリエイターが生み出せる価値は,決してグラフィックデザインやFlash実装に留まるものではありません。著者はクライアントやエージェンシーの方々とお話しをするとき,「プロジェクトの初期段階から企画に関わり,映像やサウンドといった要素も併せてハンドリングしていくことで強みを発揮したい」というスタンスをとっています。プロジェクト全体に関われば責任は増しますが,そのぶん期待以上の感動や驚きをユーザーに提供できる可能性も高まると確信しているためです。

もちろん最先端の技術やトレンドに触れやすい環境のなかだけに,とてつもない速度で進化を続けるWebサイト業界をフォローアップし続ける体力も必要になります。本連載がスタートした2007年9月から2008年6月現在の間ですら,Webサイトを取り巻く環境は大きく変化・進歩していきました。しかしそんなスピード感にも尻込みせず,新しい技術やトレンドにアクセスしていこうという気概こそWebクリエイターに必要な要素だと思います。そして日々その変化を楽しみつつ,常に新しい価値を開拓するモチベーションを持ち続けていただきたいと考えています。

脱稿に寄せて:温故知新

Webサイトの可能性を開拓して新しい価値を生み出す力とは,言い換えれば常にアンテナを広げ,現在進行形で生み出されていく世の中のあらゆるコトやモノに意味や感動を見出す力でもあります。同時に,あらゆる世界のあらゆるクリエイター達がこれまで生み出してきた価値のなかにも普遍的な目的達成の手段を見出す力と言えるでしょう。結局は温故知新なわけです。変化の激しい時代のなかでも自身や先達が積み上げてきた経験を大切にしながら,感性のアンテナを全開にして新しい可能性を模索するその先にこそ,フルフラッシュサイトの価値を生むあらすじが続いていくと,著者は信じています。

脱稿に寄せて,本連載がこれまでお付き合いいただいたクリエイターの皆様がチャレンジし続ける姿勢を後押しできるような結果に繋がれば,著者としても嬉しい限りです。今後は皆様が生み出すフルフラッシュサイトから,著者自身もひとりのクリエイターとしてインスピレーションを受け続ける立場に戻り,ご一緒に成長していくという気持ちを持ち続けたいと考えています。

最後に,短い期間ではありましたが,ご愛読ありがとうございました。

著者プロフィール

齋藤順一(さいとうじゅんいち)

ARCHETYP代表。キノトロープ,ベースメントファクトリープロダクションを経て2007年5月株式会社アーキタイプを設立。

URLhttp://www.archetyp.jp/

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