Hosting Department:ホスティングを活用するための基礎知識

第13回クラウド時代のホスティングサービス(その1)

今回から3回にわたり、クラウドコンピューティング時代のホスティングサービスの価値について取り上げます。第1回目はクラウドのIaaSと比較したVPSのメリット・デメリットを紹介します。

VPSとは?

VPSとは、ホスティング事業者のサーバをレンタルして利用するサービスの一種で、⁠仮想専用サーバ(Virtual Private Server⁠⁠」と呼ばれます。1台の物理サーバ上に複数の仮想サーバを構築し、その1つを専用サーバのように利用できるというものです。ハードウェアは複数のユーザで共用することになりますが、ユーザ個別に管理者権限(root権限)が与えられるため、専用サーバのように、OSレベルの設定から、サーバソフトの設定、アクセス制限、CGIの設定、アプリケーションソフトのインストールなどが自由に行えます。

VPSは、物理サーバを複数で共用して使う側面から見ると共用サーバの一種であり、専用サーバより低価格で利用できます。また、物理サーバの管理やOSレベルのアップデートはホスティング事業者によって行われるため、専用サーバほど高いスキルは求められません。VPSは共用サーバと専用サーバのメリットをあわせ持ったサービスと言えるでしょう。

一方でデメリットもあります。VPSは共用サーバと同様、物理サーバを複数のユーザと共用するため、同居する他のユーザのサイトにアクセスが集中すると、自分のサイトの表示速度が遅くなる可能性があります。自由度が高い分、サーバソフトや各種モジュールのアップデート、バックアップ作業なども自分で行わなければなりません。1台丸ごと使えて、インターフェースにボトルネックもない専用サーバと比べると、パフォーマンスで劣ることも明らかです。

しかし、そんなデメリットを解消するため、ユーザごとに割り当てるCPUやメモリなどのリソースを事業者側で管理し、リソース割当量を保証するサービスもあります。

また最近は、専用サーバの中に仮想サーバを構築する「専用サーバのVPS」といった利用方法も登場しています。この方法を使えば、サーバのアップグレードが簡単にできます。

VPSとクラウドのIaaSの比較

クラウドコンピューティングとは

まず、クラウドコンピューティングの特徴からおさらいしておきましょう。クラウドコンピューティングとは、ネットワークに接続されているサーバやストレージなどを意識することなく利用できるシステム形態のことです。

クラウドコンピューティングには、サービスの提供形態によって3つのタイプがあることを知っている人も多いでしょう。1つはネットワーク上でソフトウェアやアプリケーションを利用するSaaS(Software as a Service)で、2つ目は、SaaSを利用するためのプラットフォーム(OS、ミドルウェア、データベース等)を提供するPaaS(Platformas a Service)です。そして3つ目が、情報システムの基盤となるサーバ、ストレージ、ネットワークなどのリソースを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)になります。

IaaSとVPSの違いとは?

IaaSとは、仮想化技術を利用してサーバやストレージなどのインフラ環境をインターネット経由で提供するサービスです。VPSもネットワーク経由で仮想化されたハードウェアやインフラを利用することから考えれば、IaaSとほぼ同じものと見ることができます。それでは違いはどこにあるのでしょうか。

IaaSとVPSの最大の違いは、CPUやメモリ容量などのリソースが柔軟に変更できるかできないかです。クラウドサービスのIaaSは、サーバへのアクセスが急増してサーバに大きな負荷がかかった場合でも、CPUやメモリを短時間に増強したり、サーバの構成を変えたりすることで柔軟に対応できます。

VPSでもサーバリソースの増強はできますが、IaaSほど俊敏かつ柔軟に対応できません。VPSではまず、ホスティング事業者にサービスプランの変更を申し込む必要があります。事業者によっては、物理サーバの移転が発生する場合もあるでしょう。一時期的な負荷に耐えるためにリソースを増強したとしても、日常の運用においてリソースを余らせてしまうのはコストの無駄です。

その点IaaSは、Webサイトへのアクセスが急増した時は、他のサーバからリソースを調達し、少ない時は減らすというように、必要な時に使いたい分だけ使うことができます。複数台のサーバのリソースを1台のサーバに仮想的に集約することで、自在にサーバリソースを増強する運用方法は、VPSにないIaaS独自の特徴です。

料金についても、VPSは月額定額料金が一般的ですが、IaaSは利用したリソース分だけ支払う従量制が基本です。また、VPSはホスティング事業者に申し込んでもすぐに使えませんが、IaaSは申し込んだその日から利用可能です。代表的なIaaSには、⁠Amazon EC2」⁠ニフティクラウド」があります。

一方でIaaSは、セキュリティ面や運用面に不安があることも確かです。IaaSを含むクラウドサービス全体の特性として、利用者からは内部のリソース配置や、利用しているサーバ、運用されている国などが見えにくくなっています。運用しているデータセンタが海外にある場合、サーバダウン時の復旧時間がかかる可能性もあります。また、情報漏洩や不正アクセスに対する不安も完全に払拭することはできません。海外にデータセンタがあると、ネットワーク遅延によるアクセス速度の低下も懸念されます。また、IaaSはサポートがメールだけであったり、コミュニティだけであったりと不十分なサービスもあります。

その点VPSの運用サーバは、24時間365日の安定した監視体制を備え、耐震・耐火設備と厳重なセキュリティ環境が整った国内有数のデータセンタに設置されています。ホスティング事業者が提供しているマネージドサービスを利用すれば、障害対応、OSのアップデートやセキュリティ対策などもすべて任せることができます。サーバへの接続には、暗号化されたSSL通信を利用し、ウイルス除去サービスやフィルタリングサービスなども提供されているので、安全な環境で運用できるメリットは大きいと言えます。

VPSに適しているサイト、サービス適していないサイト、サービス

VPSに適していないサイト

VPSとIaaSの違いを見てわかったように、VPSはサーバのCPUやメモリを短時間に増強したり、サーバの構成を変えたりすることは苦手です。

そのため、短期間に集中的にアクセスが急増するキャンペーンサイトや、特定の曜日だけ通常の何倍、何十倍ものアクセスが集中するサービスサイト、最初の立ち上げで会員数が急増し、一定の期間増え続けるSNS系の会員サイトには向きません。

これらのサイトにはIaaSを利用するのが最適です。申し込んでから短時間で利用できるので、急に企画が持ち上がったキャンペーンサイトも簡単に構築できます。急激なアクセス増や、アクセス減に合わせて柔軟にリソースが変更でき、料金もCPUの使用時間やストレージ容量など利用したリソースに応じて支払うだけと簡単です。

VPSに適しているサイト

VPSは、アクセス数の増減が激しくなく、システムの安全性が求められるサイトやサービスに適しています。ハードウェアを共用することから、企業の基幹システムや大規模なECサイト、堅牢で確実な情報管理体制が求められる金融系のサービスなどを除けば、小規模・中規模企業のサイトやサービスならほぼ対応できます。会社、お店、事務所のホームページを作ったり、インタネットショップを開いたりすることも簡単です。与えられたroot権限を使ってデータベースを構築したり、テストプログラムを作成したりする高度な使い方もできます。

VPSではすでにデータベースが設置されているケースも多いので、簡単な設定だけでブログサイトを開設することも可能です。

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