キーパーソンが見るWeb業界

第3回 プロモーションにおけるWeb(後編)

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まだまだ確定した分野ではない

――課題解決のための手段としてWeb以外の領域まで考えることにより,Web制作者の幅がとても広くなるという意見が出てきました。では,Web制作者のこれからについて考えたとき,どのようなスタンスを取ることが大事なのでしょうか。そのあたりについて,さらにお話しいただきました。

阿部:話が非常に広くなってきましたが,たとえばここにいる4人のように,Webの黎明期からWebの制作やデザインに関わっている人にとって,扱える領域って広がっているのでしょうか。

長谷川:ええ,とても広がっていると思います。

阿部:たしかに,僕もそう思います。ただ,広がっていることとそれを自分たちでできるかどうかというところ,たとえば実現するパワーがあるかどうかっていうのはまた別の話にもなりますね。

そうしたとき,先ほどの森田さんのお話にもあったように,領域が広がったときに電通さんが実現できる規模だったり,交渉力などのパワーと,自分たちとの規模やパワーを比較すると明らかに差があるわけです。

では,どうすればいいかと考えたとき,元々Web制作の会社ですべてを完結しようとしていたところを、いろいろな人と組んで実現する,というスタンスが求められると思います。

長谷川:そのとき,Web出身の人であれば,Webを使うプロジェクトをリードできます。これまで広告代理店にプロデュースやクリエイティブディレクションの機能があったのが,最近は独立系のWeb制作企業でも同様の機能を持って,他のパートナーに発注することができるようになってきていると思っています。

阿部:そう考えると,Webをコアにしてきた人材というのが,これからの領域が広がったコミュニケーションプランニングやプロモーションに関するプロジェクトを遂行できるようになりますね。

螺澤:広告代理店でも同じような意識を持つ人間が増えてきていて,⁠こういうアイデアでやれば,こういう形で全体像が描けて,おもしろいですよね」と考えるようになっています。ただし,大企業だからというわけではないですが,そうするためには社内での部署間調整なども必要になってきて,実はそこに一番労力がかかったりします。

森田:まあ,とはいえそれは社内で解決していただいて,そのうえで外部と連携を取ってもらえればと思います(笑)⁠

螺澤:そういう大変さも仕事のおもしろさだと思わないといけないんでしょうね。Webというのはここ10年くらいで普及してきたメディアですし,来年はトレンドがまったく変わってしまう可能性もあります。その「どうなるんだろう」という感覚がとてもおもしろくて,いろいろ大変ながらもここまで続けてきています。

それから,少し引いた目で見れば,先ほどの話と同じく自分たちがやれる範囲が年々広がってきていて,年々動きやすく,おもしろくなってきている状態は常に感じています。

阿部:つまり,Web制作者たちにとってようやく土壌が整いつつあるということですね。

螺澤:そうだと思います。ただ,すべてのコミュニケーションに関して自分だけでやろうとするのはとても大変なので,今そういうことを受け持っているマスの分野の人たちや,まったく別のメディアや領域で仕事をしている人たちと,どううまく組んでいくかを考えています。

阿部:Webがこれからの軸になるという流れは,ラジオがメディアとして全盛だった時代からTVが普及し始めたころの流れに似ています。その時代は映画やラジオを作っている方が花形で,TVをやろうという人は異端だったと聞いたことがあります。しかしながらその可能性にかけている方々が今では花形になっています。

実際には今の時代を築き上げるまで,30年かかりましたから。そう考えるとWebもあと20年先ということになりますね(笑)⁠

森田:ただ,当時はラジオが花形で,そこに入れない人がTV業界に回されたというイメージですが,今Web業界に入ってくる人たちは,自分たちからWebに興味を持ってきています。ここで考えなければいけないのが,やりたい人が増えたことと,実際に実現できる人がいるのとはまったく違うわけです。

たとえば,日本の場合,通常はクライアントから広告代理店に発注があって,そこから制作に下りていく流れです。でも,たとえば,クライアントからWeb制作会社に仕事が入り,そこから広告代理店に発注していくというモデルも考えられるわけです。そうなったときに,どのぐらいの人が全体を見てプロジェクトを回していけるかというところに疑問があります。

今までの話のとおり,やれる領域は広がってチャンスも増えてきていますし,そういう制作プロダクションが増えています。ただ,そのときに関係者全員に適切に予算が配分されるしくみを作れるようにしなければいけないのですが,実際問題として,こういったことを実現していこうとすると,人材不足は否めないように思います。

螺澤:たぶん,これは日本に限った問題ではないですよね。

長谷川:ちょっとまたWebから離れてしまいますが,建築の業界でも同じような課題を扱っています。最近の大規模な建築プロジェクトでは,素材や工法などで実験的な要素も含まれているため,資材開発,調達,設計といった工程が入り組んでいます。これに加えてサイン計画や情報システムの構築なども同時に実施する必要があります。

昨年の情報アーキテクチャサミット(IAサミット)では,レム・コールハース設計事務所にて米シカゴにあるシアトル図書館プロジェクトを担当した,ジョシュア・プリンス・ラムス氏による基調講演が行われました。このプロジェクトはかなりの大規模プロジェクトで,かつ図書館という性質上,情報設計についてもかなりの要素が含まれています。こういった複合的なプロジェクトでは「プロジェクト・アーキテクト」という役割が必要だ,ということを提唱していました。

建築のプロジェクトでも,建築設計に関わるスキル以外にも関連するすべての事項に関しての知識が必要とされます。

森田:つまり,スーパーマン的な存在が必要だということですか。

長谷川:スーパーマンとまではいかなくても,プロジェクトに関する専門知識に加えて,プロジェクト運営やさまざまなステイクホルダーの利害調整を行う能力が必要となります。広い視点を得るという意味で広告代理店はキャリアパス上有利です。

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螺澤:今,コールハースの話が出ましたが,彼らは建築物に関する課題を定量化し,定量化によって顕在化させることで回答を導き出すということを行っています。自分たちで課題を見つけ出したり設定したりして,それに対しての課題解決法を提案する。これって,まさに広告代理店の考え方に近いですね。

長谷川:課題を明確にし,それを解決する,というのは今後プロジェクトが複雑化するに伴って,より必要とされていくと思います。ただし,企業ごとにそれぞれ自社の機軸にしている分野があり,それを用いないような解決案というのは出しにくいと思います。

コンセントでは,課題分析,ユーザ分析などをフェーズを分けて行うことで,Webにとらわれない解決策を出せる体制を作っています。

これとは別に,コーポレートサイトなどでは,長期的にWebのトレンドを追いながら,企業といっしょにサイトをより良くしていく取り組みを続けていくようなプロジェクトも必要です。

この両方を会社として進んでいく方向と考えています。

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