キーパーソンが見るWeb業界
第8回 Webサービスをマネタイズするノウハウ(前編)
2009年9月21日
初出:Web Site Expert #26(2009年9月26日発売)
Web業界, Webサービス, Webサイト運用, Webサイト管理, クックパッド
インターネット, ビジネス, マーケティング, サービス, メディア
今回は,2009年7月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場した「クックパッド」の商品部長大野晋一氏をゲストに迎え,「Webサービスのマネタイズ」という切り口とともに,Webサービスの本質,Webサービスの姿についてキーパーソン3名と熱く語っていただきました。
- 大野 晋一(OHNO Shin'ichi)
クックパッド株式会社 商品部長 オンライン・ニュース・メディアの編集デスクなどを経て,2007年にシーネットネットワークスジャパンに入社,builder by ZDNet Japanの立ち上げやZDNet Japanの編集長などを経たのち2009年に退社,同年クックパッドに入社し,8月より現職。

- 阿部淳也(Abe Junya)
1PAC. INC.代表取締役 クリエイティブディレクター 自動車メーカにて電装部品のユーザインターフェース設計を8年間手がけた後,IT事業部異動。約4年間Webデザイン,Flashオーサリングなどを手がけるとともに,営業支援システムや化学物質管理システムなどのテクニカルディレクターを経験。2004年よりCosmo Interactive Inc.に参加。多くのWebサイト立ち上げにプロデューサ,クリエイティブディレクターとして携わる。2008年にワンパクとして独立。

- 森田 雄(MORITA Yuu)
2000年,ビジネス・アーキテクツの設立に参画し,2005年より取締役を務めてきたが,2009年8月同社退職。現在は無職で読書家。たくさんの本にまみれながら自分探しの旅をしているらしい。

- 長谷川敦士(HASEGAWA Atsushi, Ph.D)
株式会社コンセント 代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト 1973年山形県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修了。ネットイヤーグループ株式会社を経て,2002年に株式会社コンセントを設立。インフォメーションアーキテクトとして大規模サイトの設計やプロデュースに携わるかたわら,人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事を務めるなど,IA(情報アーキテクチャ)研究や啓蒙活動を牽引している。

680万人の主婦の声
大野:私が見ているクックパッドの事業を一言で表すとすれば「お客様の持つブランドの課題解決のための仕組み作り」となります。レシピを通じて,食品や飲料・キッチン用品など関連商品を対象に,課題解決をお助けする仕組みを整備するのが商品部です。これを達成するツールとして,マーケティング支援と広告の2つを持っています。
ビジネス面から入りましたが,この仕組みを実現する礎となるのがクックパッドを日々お使いいただいている約680万人のユーザの皆様です。クックパッドは,ユーザの皆様に「楽しんで料理をしてもらえること」をモットーにサービスを提供しています。
そして,ユーザのほとんどが主婦の方々で,これは非常に大きな強みです。なぜなら,食に関するブランドが何かしらの課題に面したとき,その解決策に最も近い方々が主婦であり,クックパッドというプラットフォームを通してその声を聞くことができるからです。
クックパッドがブレイクした要因は?
阿部:現在非常に多くの主婦ユーザが参加しているとのことですが,僕の体感的なイメージでは,ここ1~2年,サービスとしてのクックパッドは本当にブレイクしユーザ数も急激に伸びたたように思います。この点について,運営側として考えられる要因はありますか?
大野:“人”の力ですね。エンジニアや営業をはじめとする人材採用に力を入れたことが,良い結果に繋がっていると感じています。クックパッドは当初代表の佐野が,2006年からは現CTOの橋本が中心になって開発と運用をしていました。そこから10年足らず,少ない人数でやってきたのですが,コンテンツ数の増加,それに伴うユーザ数の拡大とともに,サーバリソースや資金といったリソース面,ミドルウェアやインフラのスケーラビリティ・アジリティといった面で運営が難しくなっていきました。
そこで,橋本を中心に,すでに採用していたエンジニアも合わせて,インフラからアプリケーションに至るまで,大幅なシステムリニューアルを行い,同時にエンジニアの採用を加速しました。また,ミドルウェアをRuby on Railsへ移行したのもこのタイミングで,迅速な開発が行えるようになりました。つまり,ユーザの皆様にサービスをお届けし,継続的に改善していくインフラが整ったことですね。
森田:ユーザ数を見ても,この数年で大きく伸びていると伺いました。この点についてはいかがですか?
大野:まず,クックパッドはユーザを増やすための施策を打ったことはあまりありません。しいていえば,有料会員(PS会員)について,携帯電話の公式サイトに対応したことくらいでしょうか。基本的には今使っていただいているユーザの方々にいかに満足してもらうかだけを考えてサービス改善をしております。PS会員についても既存会員の満足度向上が公式サイト化という結果につながったと考えております。数字としては,2006年頃のユーザ数は月間約100万人だったのですが現在は680万人,2006年には携帯版サイトの「モバれぴ」もスタートし現在月間のPVが2.6億と,PCと携帯それぞれユーザ数が増えています。
また,ビジネス的な面から見て,バナー広告だけに頼る収益モデルからの飛躍があったのもこの時期です。営業の現執行役である森下がクックパッドに加わり,単純なリーチによるビジネス拡大ではなく,主婦の声やレシピをメーカーに届け,マーケティングのお手伝いをすることによって事業を拡大させました。その結果,現在のマーケティング支援事業の基盤ができました。
結果論ではありますが,単純な量を取らず,インターネットを活かして質を取るという意志決定がなければ,今回の不況で,もしくはその前にクックパッドはなくなっていたでしょう。
森田:とは言っても,日本で限ってみればユーザ数の限界はありますよね。また,レシピそのものが飽和してしまうという懸念は感じたりしませんか?
大野:おっしゃるとおり,今後,さらなるサービス開発・強化をしていかなければならないと思っています。ただ,日本という土壌はとても恵まれていると思います。インターネットインフラはもちろん,料理という観点で見ても,季節に応じていろいろな素材を入手で,また,それを活かす調理法が伝承され,楽しむ文化もあるわけです。今後は,クックパッドが良い反応をいただけている部分について,なぜ日本でうまくいっているのかをさらに分析し,伸ばしていきたいと思っています。


