キーパーソンが見るWeb業界

第8回 Webサービスをマネタイズするノウハウ(後編)

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前編では,ここ数年のクックパッドの動向を軸に話が進みました。後半では,そこをさらに深堀りし,クックパッドの例とともに,Webサービスとしてマネタイズするための具体的な方法について話が展開しました。

メディアではなくツールとして

森田:場の提供という観点だけでは限界があると思うんですよね。それだと利用が継続的にならないっていうか。

大野:クックパッドをぱっと見ると,Ajaxを使ったり,ソーシャルコンテンツを掲載していたりと,いわゆるWebサービス・Web 2.0的な部分があります。そのため,場に近い印象を受けるのかもしれませんが,もっと言えばクックパッドはツールです。私たちはWebサイトと言うよりは,冷蔵庫や電子レンジに近いものとしてクックパッドを提供しています。

森田:それを裏付けることなのかもしれませんが,ユーザとしての感覚で言って,クックパッドは使っていて無駄な時間であったというのを感じないのですよ。それはやはり,食欲をテーマにしているからでしょうね。これが,たとえばもっと普遍的なSNSとか,オンラインゲームとかだと,終わった後に「なんか無駄に過ごしてしまった」というような感じが残ることがあるわけで。

大野:その点は,根拠のない自信の3番目になる部分ですね(笑)⁠

レシピを通じて楽しさを提供する

阿部:レシピを軸にするということで見ると,レシピ数・ユーザ数ともにどこかに限界値があるはずです。この部分は,実際どのように問題として認識して取り組まれているのでしょうか?

大野:その取り組みが,まさに会社のビジョンになっています。私たちは「すべての家庭のあらゆるシーンに料理が楽しみになるきっかけを提供する」ということを目指しています。その解決手段としてインターネットを活用します。

そのため,ユーザの満足度を最重要指標の1つに掲げて,さまざまなライフスタイルにおいて料理が楽しみになる「きっかけの提供」に取り組んでいるのです。

長谷川:クックパッドなどの利用も含めて,以前に比べて主婦のインターネットリテラシーは格段に上がっていると感じます。単なるレシピ本がわりという役目だけではなく,家の中の文化を豊かにしているように感じますね。家の中の文化を豊かにしているように感じます。

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レシピを軸にしたビジネス戦略

大野:そうしたことは弊社の食品・調理家電メーカーに対するマーケティング支援というビジネスにおいてとても重要です。というのも,今の生活スタイルでは,親から子へ直接的なレシピの伝承をすることが減ってきています。その結果,たとえば基礎調味料を使い分けるなど,細かな部分にまで触れられなくなっています。

そこで,クックパッドというプラットフォームを活用していただければ,680万の家庭の台所が緩やかにつながり新しい形でレシピが伝承され,そこから食材や調味料,飲料の購買促進などへとつながっていくのです。

阿部:それで言うと,インターネットならではの気軽さというのはありますね。僕は独身時代はけっこう料理を作っていましたが,結婚を機に料理をする機会そのものが減ってしまいました。しかし,最近クックパッドを見て,たまに料理をするようになりまして,家族からの反応が良く嬉しさを体験しています。こうした体験はモチベーションに繋がりますし,その先に(消費という)今おっしゃったようなビジネスの土壌があるわけですね。

大野:気軽さはもちろんですが,もう1つインターネットならではの強みがあります。それは,料理自体は経験であり,自分自身の中にのみ残るものではありますが,そのレシピをデータ化すれば形として残せます。そして,インターネットを通じてほかの方々に体験してもらい,美味しい,ありがとう,といったフィードバックまでを残すことができるのは,気軽さを超えた良さであり強みです。これがまさにクックパッドの原点です。

大野:はい。それを1つ進めると,ユーザから見てメディア価値を上げることになります。これをさらにひねると,タイアップ広告にも繋がります。私たちは,タイアップ広告の内容についてクライアントのみに向くのではなく,そのコンテンツを見たユーザが楽しいかどうかを判断して検討します。

これをさらに広げていけば,レシピを活用したブランド利用事業に進むこともできます。食品メーカなどとコラボレーションを行い,店頭POPとクックパッドをリンクするような展開にも力を入れています。

長谷川:何か新しい料理を作るとき,何かしらの権威付け,たとえばPOPの部分で「クックパッド公認」といったものがあることにより,消費者に安心を提供できるわけですね。

森田:商品以外,たとえば流通とのタイアップなどはあるのでしょうか?

大野:現在,店頭販促用レシピの提供という形で,大手流通の2社と年間を通じた試みをしています。

長谷川:ネットショップ・EC系ではどうでしょうか?

大野:将来的な可能性はあると思います。というのも,ネット販売の多くは外部と組むことが前提になっていないため,これからスキームや仕組みを作りあげていくことができるからです。今後,今まで以上にオンラインでの流通が増えれば,新たなビジネスチャンスを掴むこともできると思います。

森田:他に,まったく違う戦略に対しての,R&Dなどはどんな感じでしょう。たとえば,AR(拡張現実)のような技術は,ネット・レシピ両方に近い可能性を持っている気がします。

大野:可能性はあるかもしれませんが,まずはお金の流れを作るところが大事ですね。まだ開発や販売に関して中にも外にも流れを作るリソースが不足しています。

あと,これは社風なのかもしれませんが,クックパッドは大きな枠組みを使ってみんなに適用する,というのが実はあまりうまくありません。個々のお客さんの課題を見つけ,それにアプローチするにはどうすればいいのかということを徹底的に進めるほうが得意です。

また,新規ビジネスを始めるときの意志決定として「儲かる」⁠No.1になれる」⁠そして一番大切な「料理が楽しくなる」⁠この3点がすべてYesでなければスタートしません。どういう形になるにせよ,まずこの3つが根底に必要となっています。

以上を考えると,はやりのラボのような,R&D的アプローチは少ないかもしれません。

森田:確かにフレームを作って展開しないというわけにはいかないですし,新しいビジネス機会を増やそうとすればするほど,とくに人的リソースが必要になってしまいますからね。

大野:ええ。なので,先ほどの3つが重なるところだけに集中しなければならないと考えています。

とはいえ,当社はまだまだ人材が不足しています。ほとんどのシステム開発・運用を自製しているので,とくにエンジニアへの投資は続けます。もちろん,営業や編集なども,優秀な人材にjoinしてもらえるような会社・組織を作っています。

ちなみになぜ自製に力を入れているのかと言うとエンジニアにも事業を体験してもらいたいからです。自分たちが作っているものがどういったビジネスに繋がっているかを,知っているのと知らないのでは,できてくるものに大きな違いがありますから。

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