キーパーソンが見るWeb業界

第13回ソーシャルメディアから見えてきたコーポレートサイトの本質

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今回は、ゲストに花王株式会社Web作成部ディレクター本間充氏をゲストに迎え、⁠ソーシャルメディア」との向き合い方について語っていただきました。

今、1つのブームになりつつあるソーシャルメディアが、企業のWebにとってどのような影響があるのか、これからどう接していけばいいのか、そしてコーポレートサイトはどうあるべきか、レギュラーメンバーの三人とともに語りました。

本間 充(ほんま みつる)
花王株式会社 Web作成部 Web技術グループリーダー

1992年、花王入社。研究職を経て、1997年から花王のWebサイトの企画・運営に関わる。初期のWeb業務は、Webサーバの設計・導入などインフラの仕事であった。現在は、アジアにおける花王グループサイトのガバナンスやWeb広告コミュニケーションの効果分析、ソーシャルメディアの活用方法の検討など、多岐にわたる。日本数学会会員。Web広告研究会幹事、オープンモバイル・コンソーシアム理事。

阿部 淳也(あべ じゅんや)
1PAC. INC.代表取締役 クリエイティブディレクター

自動車メーカで車内のユーザインターフェース設計を約7年間手がけた後、IT部門で約4年間Webデザイン、Flash、CG制作とともに、テクニカルディレクターを経験。2004年よりCosmoInteractive Inc.に参加。多くのWebサイト立ち上げにプロデューサー、クリエイティブディレクターとして携わる。2008年にクリエイティブプロダクション「ワンパク(1PAC.INC.⁠⁠」を設立し独立。⁠インターネットとリアルな世界を融合させ相乗効果を生むコミュニケーションをつくる」を合い言葉に、さまざまなクリエイティビティあふれるHOTな作品をリリースし続けている。

長谷川 敦士(はせがわ あつし)
株式会社コンセント 代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト

1973年山形県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(Ph.D⁠⁠。ネットイヤーグループ株式会社を経て、2002年株式会社コンセントを設立。情報アーキテクチャの観点からWebサイト、情報端末の設計など幅広く活動を行っている。著書に『IA100 ユーザーエクスペリエンスデザインのための情報アーキテクチャ設計⁠⁠、監訳に『デザイニング・ウェブナビゲーション』などがある。武蔵野美術大学非常勤講師。情報アーキテクチャアソシエーション(IAAJ)主宰。NPO法人人間中心設計推進機構(HCDNet)理事、米Information Architecture Institute、ACM SIGCHI、日本デザイン学会会員。

森田 雄(もりた ゆう)
株式会社ツルカメ 代表取締役社長 UXディレクター

2000年に株式会社ビジネス・アーキテクツの設立に参画し、2005年より取締役、2009年8月同社退職。読書家と称した充電期間を経て、2010年5月よりめでたく社会復帰。IAおよびUX、フロントエンド技術、アクセシビリティ、ユーザビリティのスペシャリスト。CG-ARTS協会委員。広告電通賞審議会選考委員。米IAInstitute会員。アクセス解析イニシアチブ会員。Webby Awards、NewYorkFestivals、WebAwards、アックゼロヨン・アワード グランプリおよび内閣総理大臣賞、グッドデザイン賞など受賞多数。趣味は料理とカメラ。

2010年はソーシャルメディアの年

本間:現在、花王株式会社のWeb作成部にて、グループリーダーをしています。コンテンツだけではなく、Webインフラ全般を見る役割です。

最近よく見かけるのが、企業のソーシャルメディアへの取り組みです。2010年はまさにソーシャルメディア元年と言えるでしょう。ただ、日本と海外を比較すると、ギャップを感じる部分があります。それは、日本の場合、ソーシャルメディアはバイラルマーケティングの延長であり、海外の場合、ファンのためのメディアであるという点です。

阿部:たしかに、今年はソーシャルメディアの案件が増えているように思います。ただ、現状はそれが目的になってしまっていることが多いのですが、⁠ソーシャルメディアは)手段であり、目的ではありません。ある種、話題性が先行している状況ですね。

長谷川:一昔前のブログブームと同じだと思います。現在はまだ運用まで考えられていないことがほとんどです。本来ならばやり続けることが大事です。ソーシャルメディアの目的は、Webでファンを作ること。ファンとのコミュニケーションを長期的に行うのはとても大切です。

本間:たしかに、これまで企業が直接顧客とコミュニケーションを取ることが難しかったわけですが、ソーシャルメディアの登場により、企業が直接顧客とのコミュニケーションを取る機会が生まれました。しかし、現時点では企業側にその組織がないという問題があります。

阿部:ソーシャルメディアを利用したコミュニケーションは、企業が大きくなればなるほど難しいですよね。その担当部署が広報部なのか、あるいは花王さんであれば生活者コミュニケーションセンターなのか。宣伝部とはちょっと違うような気がします。

本間:結局、この問題の原因は企業の事情です。予算をどう使うか、どういう組織にするかということですから。

森田:そう考えると、そもそも広報部と宣伝部がわかれている必要がないとも言えます。現状ある部署を想定するなら、広報と宣伝の融合でしょうね。

阿部:今のところ、よく見かけるのが広告の枠の中で試すケースですよね。それが、先ほど本間さんも言っていた、日本のソーシャルメディアがバイラルマーケティングの延長になってしまう原因の1つでもあります。

長谷川:現在はソーシャルメディアを検証中なところが多いと思います。その中でも、たとえば、ソーシャルメディアガイドラインのようなものを提供する企業はありますが、結局、それぞれがソーシャルメディアを咀嚼できているかどうかが大切なわけです。

森田:それって、企業だからというよりは、使う人がわかっているかどうかということでもありますよね。企業でガイドラインを決めたとしても、使う人が理解していなければ意味がありません。

あとは、使う前からリスクを怖がってしまってうまく行かないケースもあります。

本間:メディアっていう言葉が付いているから、ついつい広告っぽく思われがちですが、ソーシャルメディアは単なるコミュニケーションスペースです。言葉からの誤解というところもあります。

コーポレートブランドとプロダクトブランド

阿部:最近のアメリカの事例を見ていて思うのが、Facebookを利用した、特定のプロダクトにフォーカスしたソーシャルメディアマーケティングです。従来のマスは広く伝えやすかったことに比べて、ソーシャルメディアでは、セグメント化して効率的に伝えやすくなります。アメリカではこれを意識した事例が増えていて、とくに、Facebook用のアプリ、いわゆるソーシャルアプリがたくさん出てきていますね。

ただ、僕自身はそれだけで良いかというと疑問があります。たしかに、効果的だし新しい流れではありますが、ソーシャルアプリばかりが目立つというのも……。セグメント化したターゲティング以外に、コーポレートブランドというのはもっと広義なもののはずです。

本間:たしかに。顧客にとって、コーポレートブランドとプロダクトブランドというのは本来同じです。ところが、多くの企業がコーポレートブランドの目的を持たず、プロダクトブランドの強調ばかりしています。

長谷川:それは本質的な問題ですね。コーポレートサイトのリニューアル時にはコーポレートブランドとプロダクトブランドの整理が必要となりますが、この部分について明確な方針を持っていない企業も多くあります。

本間:コーポレートブランドとプロダクトブランドに上下関係はないですが、依存関係があるということですよね。日本企業の多くが、それらを担当する部署が別々になっていることが多いため、きちんと理解されないのだと思います。

主導権は広告主にない?

本間:ブランドから少し広告寄りの話に戻しますが、6月の初旬に開催された「ad:tech Singapore」で言われていたのが、広告の遷移は、⁠声を大きく伝える(発信側に主導権がある⁠⁠→⁠インターネットでバズを作る⁠⁠→⁠ソーシャルメディアでのブランドのファンとコミュニケーションする(主導権がお客様側にある⁠⁠」という流れになってきているということです。今のソーシャルメディアには、ファンに届くシンプルなメッセージが大切だと言われていました。

長谷川:同じようなところでは、ユーザエクスペリエンスデザインを扱ってきて、これまでは商品とサービスという分け方がされてきたのですが、最近はTangible(触れるもの)とIntangible(触れないもの)という分け方をされています。つまり、Webサイトが抽象的に触れるものとして認識されてきているからです。これは今のシンプルなメッセージにも通ずるもので、ソーシャルメディアでもメッセージが必要だということです。

森田:WebはTangibleなんですか?

長谷川:そうなってきていると思います。⁠企業の)思想や概念的なものは触れませんが、Webサイトを通じて体験できるようになってきているからです。

森田:B2Bの企業でもですか?

長谷川:本質は同じですね。たとえば、信頼性を表すときに堅い鉄板のようなイメージを採用して見せるということもあります。

本間:私のところでは、B2BもB2Cもやっていて、同じ手法で、それぞれにコミュニケーションしたいターゲットを分けてつくっています。各ターゲットごとに、サイトで知ってほしい、感じてほしいことを決めています。つまり、WebサイトはB2Bも、やはりTangibleなものになってきているのだと思います。

長谷川:Webサイトでは、企業のブランドも伝えなければいけないわけですし、最近ではソーシャルな内容も扱います。つまり、Webサイトは誰もが参照できる場所なので、企業が思っていること、思想をきちんと反映させていく必要があるわけです。どこを強く出していくか、リンクを強めるかなどを意識してつくらなければなりません。

本間:今難しくなっているのは、企業のそういった思想や思いというのを表したとしても、主導権は企業、広告主側にはなくなってきている点です。すべて消費者、すなわちお客様側にシフトしています。それは、閲覧するために使うデバイスもそうですし、見え方についてもリッチな状態で見るかどうかなどをお客様が選べるからです。

そういった(伝わり方が複雑になってきている)状況に対応できるよう、企業側が準備・対応していなければいけないと思います。

阿部:それでも、実際は、たとえばPC用のサイトのメニューと、iPhoneやiPadに最適化したサイトのメニューの項目は違う場合があります。こういうケースも生まれてくるわけですよね。本来ならば、ユーザはどちらのデバイスでも同じように見たいと思うのでは?

本間:その問題もあると思います。PCとモバイル端末の両方を持っている人で、かつ両方を使いこなしている人にとっては、どちらでも続けて使いたいと思うはずです。1つのキラーデバイス中心にWebサイトを設計すると、デバイスごとに情報量が異なる危険性があります。

なぜ、Webで情報を発信するのかという本質的な部分を、忘れてはいけないのです。

長谷川:一方で、キラーデバイスが出てくれば、ユーザはそれに期待をします。たとえば、iPadがその存在になってくれば、ユーザが「iPadに最適化したもの」を期待します。

森田:それはつまり、ユーザのセグメントが属性ではなく、状況になってくることでもありますね。デバイス自体も利用シーンによって、ユーザの体験が変わるわけですから。たとえばさらに、移動という状況ひとつとっても、ノートPCなのかスマートフォンなのか、ということも意識しなければなりません。

本間:まさにそのとおりで、これまでF1層、M1層という分け方で済んできたものが、今は、状況までも分けて考える必要があるわけです。

長谷川:それらを含め、一般的にコンテクストというと難しくなりますが、結局、コーポレートサイトを作る場合、まずニュートラルなものを作ることが前提となります。その上で、状況を意識したものやスペシャルなもの、いわゆるスペシャルサイト、キャンペーンサイトと呼ばれるものが求められるわけです。

森田:そこまでくれば、阿部さんの会社のようなところがどんどんつくっていけばいいわけですよね(笑⁠⁠。

それから、今はiPhone/iPadが騒がれていますけど、実際のところ3キャリアに対してどうアプローチするかも必要だと思います。携帯電話の今の使われ方を見ていると、細切れされた時間を埋めるものというケースが多いように感じています。ここでコミュニケーションができるようになれば、企業にとっても良いと思うのですが。

その点で、Twitterの存在はすごく良いですね。

本間:おっしゃるとおり、たとえば私の会社はコンシューマ向けの商品を扱う企業なわけで、とくに主婦層に対する製品が多くあります。主婦の多くが携帯電話を使いこなしていて、さらにパケット定額プランを採用している人が増えている状況であれば、それを活かすべきですよね。実際はまだそこをきちんと捉えられておらず、対応できていないため、もったいないのですが。

ソーシャルメディアはエコシステムになれるか?

本間:今の利用者の話をふまえてソーシャルメディアの話に戻ると、まだ多くの人がソーシャルメディアを体験しきれていないのです。であれば、まず、実際に自分たちでやってみることが大事。企業もソーシャルメディアのプラットフォームの一員なのですから。

そして、使いながら「ここまでは大丈夫」⁠ここから先は注意しなければいけない」といった判断基準を、経験として積めるわけです。ネット空間でできることが複雑になったり未体験なものが増えるのであれば、もっと体験していくべきです。

それが進んでいくと、ソーシャルメディアがエコシステムになっていくように思います。ソーシャルメディアがあるから、企業が回るというような意味合いです。今、多くのソーシャルメディアサービスが誕生し良い形で使われてきているので、さらに真剣に取り組んでいくべきだと思っています。

つまり、ソーシャルメディアの活用は、もっともっと組織全体で行っていかなければいけないと思いますし、そのためには自分たちが何を行うか、企業に属している人間がもっと意識しなければならないと思います。

長谷川:最初の日本とアメリカの比較に戻ると、アメリカの企業のほうが、企業のコアが何であるかを意識せざるをえない状況にいるのかもしれないですね。日本の企業の場合、そこが弱いかもしれません。

森田:日本企業もコミュニケーションや変革の過渡期に来ていますから、そうなると、もっと自分たちのコアが何なのか、一人ひとりが意識していく必要があるわけですよね。

長谷川:今日の話のポイントは、ソーシャルメディアの流行によって、コーポレートサイトの本質が見えたという部分にあると思います。それは、今の組織で活用するということもそうですし、コアが何かを意識するかということでもあります。

阿部:現在、企業のWeb担当者にも本間さんのような方が増えてきました。花王のWeb作成部のように、きちんとした組織、経験を積んだ人が増えているわけです。結果として企業側、制作・デザイン側の意識が高まってやれることも増えているのですから、その部分をもっと広げていきたいですね。

※今回は、森田氏の新会社「株式会社ツルカメ」オフィスにて収録いたしました。長谷川氏はSkypeを通じての参加でした。
※今回は、森田氏の新会社「株式会社ツルカメ」オフィスにて収録いたしました。長谷川氏はSkypeを通じての参加でした。

以上、今回はソーシャルメディアを軸に、企業としての取り組み方、そして、そのコアとなるコーポレートサイトの在り方について話が進みました。話にも上がっていたように、ソーシャルメディアの登場により、企業側・顧客側の関係性が変わりつつあります。その中で、自分たちが何をすべきか、今まで以上に強く意識していく必要があるのでしょう。

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