疾走するネット・ダイナミズム

第3回 YahooはMicrosoftと組むべきか

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スケールアップの手段としての買収

ITベンチャーの成功とは,Googleに買収されることである。

といってもいいくらいウェブ関連ビジネスの覇者となったGoogle。インターネットやIT革命は,既存の巨大企業の手法が通用しない市場を出現させている。そのため,個人から中小企業にビジネスチャンスを与え,ロングテールはマスビジネスを超えることができる時代になったという。この事実は否定しようもないが,その反面,ウェブビジネスでGoogle以外に安定した成功,成長を続ける企業はあまり聞いたことがない。

YouTubeが典型的な例だが,Google MapsなどGoogleのサービスのいくつかは,ITベンチャーを買収することで拡大していったものだ。成長するベンチャー側も弱小規模のままだと,増大するトラフィックやサーバコストその他の現実的な問題から,ビジネス拡大という面でブレークスルーを迫られる。このときてっとり早いのは,Googleなどの巨大企業に買収されることだ。もちろん,そういうベンチャーばかりではないし,それがウェブビジネスのすべてとは思わない。

フラット化を促進し万人にチャンスを与えるというウェブ技術も,ビジネス面ではあいかわらずマスの理論が展開されている。結局,キーワード広告やアフィリエイトといった広告モデルを前提とした場合,ビューやクリックという「マスボリューム」が勝敗を左右するいちばんの要因となっているわけだ。これは,一般にウェブに対して語られる成功物語や○○ドリームといったイメージと逆行するものではないだろうか。この点については,機会があれば回をあらためて取り上げてみたい。

さて,他の企業や技術を買収することで成長していったという点で,Googleとある企業との類似点を感じないだろうか。

Microsoftだ。 ご存知のように,Microsoftは純粋に自社開発の製品だけでいまの地位を築いたわけではない。第2回でも少し触れたが,Microsoftの原点ともいわれているBASICはビル・ゲイツが開発したものではない。WordやExcelも原型は他社からライセンスを買い取ったりしたものだ。まあ,企業買収によって成長させる手法は,GoogleやMicrosoftに限らず,一般的な上場企業のポピュラーな戦略のひとつに過ぎないのだが。

前置きが長くなったが,現在,YahooとMicrosoftがインターネット市場で物議を醸している。

日本のヤフー株式会社は,日本での商標利用やサービスのライセンスを受けている独立した企業で,米国のYahooを本社とする現地法人や連結子会社という関係にはない。したがって,本稿では米国に本社を置くYahoo Inc.を「Yahoo」と表記する。

“Yahooをめぐる攻防”の軌跡

Yahoo CEO,Jerry Yang

Yahoo CEO,Jerry Yang

ことの発端は,2月1日(現地時間)Microsoftが440億ドルでYahooを買収するという提案を発表をしたことだ。Microsoftは,株価が低迷するYahooとその株主に対して,業界1位のGoogleを追い上げるため,企業価値向上のために合併は両社にとってプラスであると主張している。これに対して,Yahooの株主は一定の評価を見せるものの,経営陣は合併に難色を示している。一部報道では,CEOであるジェリー・ヤンが企業文化の異なるMicrosoftとの提携や合併に反対しているという。

Yahooは,株主に対してMicrosoftの買収提案はベストなものではないとする声明を発表したり,2010年までの経営の中期プランを発表したりしている。水面下ではGoogleと接触したり,News Corporationなどとも提携や協業ビジネスについて協議したという報道もある。ただし,YahooはMicrosoftの提案はベストなものではないとしながらも,主張は尊重するという主旨の発言もしている。これは,提案に否定的でない株主,具体性にかける中期プランに不満を持つ株主への配慮といわれている。当初の提案は拒否しているが,交渉の窓口まで閉ざしているわけではない状態だ。これは,買収額を釣り上げる方策という見方もある。Yahooの業績は確かに思わしくないが,海外の資産(たとえば,中国で検索エンジントップのアリババの株,日本でGoogleより検索シェアの高い日本Yahoo株など)も含めれば62%のプレミアムでも不十分だ。AOLやGoogleとの提携をちらつかせて最後の交渉を少しでも有利にしようという戦略だ。

なお,Yahooの示している経営改革プランにはリストラも言及されているので,Microsoftは人材の流出に配慮して,役員の派遣や経営に干渉するようなことはしないと言っている。Microsoftは4月5日(現地時間),最後通牒ともいえる手紙をYahooに送付した。3週間以内に明確な返事がなければ株式の公開買い付け,委任状争奪戦など強硬手段も検討せざるをえないという内容だ。市場価格に62%ものプレミアムをつけているのだから,不当に安いという評価はあたらない。提案に応じる株主は少なくないだろうということだ。Yahooはカウンターコメントを発しているが,内容は以前の回答から変化ないものだった。しかし,タイムワーナーとの提携とAOLの買収,自社株買いが報じられ,Googleの検索連動広告の試験導入が発表されるなど,Yahoo側の動きがここにきて活発になっている。

Microsoftも,YahooとGoogleの接触は,検索市場の90%を集中させることになり競争を阻害するという声明を発表した。その後,Yahooは2008年第1四半期の決算で増益は果たしたものの,その貢献はアリババ株のIPOによる収益が主なもので,本業の傾向は変わっていない。Microsoftは,これまでの提案に自信を深め,強硬手段のトーンを強めたり,逆に買収はしなくてもよいという報道でYahoo株主に揺さぶりをかけたりもしている。さらに,米国の反トラスト小委員会も注視するなど,事態はまったく予断を許さない。

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ここまで,2月から現在までの状況をざっとまとめてみた。Yahoo経営陣や従業員にしてみれば,株主の利益や独占禁止法がどうあろうとも,オープンプラットフォームの対極にあるような企業との提携は絶対的に避けたい事態かもしれない。

著者プロフィール

中尾真二(なかおしんじ)

1961年生まれ。ハードウェア・コンピュータ技術者からアスキーに転職し,およそ10年ほど技術書籍・雑誌の編集に携わる。その後,オライリー・ジャパンで5年ほど企画・編集に従事。編集長時代に当時の日本法人社長とケンカしてクビに(笑)。現在はRBB TODAY,レスポンス他でニュース,コラムなどを編集・執筆。

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