圏外からのWeb未来観測

第2回 REST侍は国益に殉ずる覚悟を持っていた

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技術的な正論を貫き通すということ

中島:RESTの良さを訴えても,最初はなかなか理解されなかったんですか?

山本:そうです。そうなんですけど,技術者として技術を評価すると,どうしてもRESTのほうがいいと確信して,会社を辞めるくらいの覚悟でブログを書き始めました。

中島:そこまで強い想いがあったんですか。それで,そこからどんなふうになっていったんですかね。会社の中である程度強引に推し進めたようなところが?

山本陽平氏

山本陽平氏

山本:新しい技術のマーケティングについては僕の独自の手法がありまして。アルファギークにアプローチするのが一番効率的だと思います。RESTの場合は,はてなの伊藤直也さん編注が反応してくれたので,結構よかったんですよね。会社の中のようなローカルなところで広めるよりも,ネット上の感度の高い人たちに訴えかけていくほうが効率的だったと思います。

おかげさまでこうやって本を書くまでになって,一応日本でもRESTがちゃんと認識されて,世の中的にもちゃんと決着がついたという話で,僕としてはよかったなと思ってます。

中島:それにしても,技術的に正しいと思える選択を貫き通すというのはたいへんなことだったと思うのですが。

山本:それは,村田真さん注5のお手伝いをしていて,影響を受けた部分があるかもしれません。村田さんが開発されたRELAX NGは,競合するW3CWorld Wide Web ConsortiumのXML Schemaより使いやすいものであることは,技術的には,はっきりしているのですが,当初,標準はXML Schemaのほうだったんですね。それをひっくり返してRELAX NGも標準とするために,大活躍されたのを近くで見ていました。

ISOInternational Organization for Standardization国際標準化機構)の標準にするには普通は数年以上かかるたいへんなプロセスなんですが,JISになっちゃうと日本の標準ということなので,結構プロセスをすっとばせるんですよ。それで,まずJISの標準にしてしまった。そして,その次のISOのSC34という委員会をあえて日本の佐渡という不便なところでやり,参加者をできるだけ減らすっていう(笑)⁠すごい裏技まで使われたんです。

中島:技術的に正しいものを通すためには,表裏あらゆることをする。

山本:エンジニアとは言っても,普段の会社での付き合いとかを考えると,大勢側にいっちゃってなかなか強引なことはできないじゃないですか。そうじゃなくて技術的に正しい方向に持っていくんだっていうポリシーがしっかりしていて,すごいなあっていうのがそのときありましたね。

中島:もし村田さんがこのとき行動を起こさなかったらどうなっていたんでしょうか。

山本:RELAX NGじゃないと表現できないスキーマっていうのがあって,XHTMLの仕様とかはそうですね。だから,標準のスキーマ言語がXML Schemaだと,標準の範囲だけだと実用性が欠けているという事態になって,大袈裟に言えば世界中のプログラマが苦労することになっていたと思います。

中島:村田さんのそういうやり方を見ていて,それを見習って覚悟を決めてRESTを通したという。

山本:振り返ってみるとそうかもしれないですね。

中島:同じようなジレンマの中で悩んでいる人は多いかもしれませんね。

編注)
本誌でも連載などでたびたびご執筆いただいており,現在も「アルゴリズム実践教室」を連載中です。
注5)
RELAX NGというXMLスキーマ言語の設計者です。村田真のXMLブログ

標準策定プロセスのオープン化

山本:特に今は,標準の決定プロセスがオープンになっています。昔は大企業の代表のような限られた人しか参加できない委員会で標準化が行われていましたが,現在は誰でも標準化に参加できて,本当に実力のある人が意見を言ってそのとおりになるっていう世界になっていると思います。W3Cもあまり機能しなくなってきているし。そのへんはこの10年でかなり変わったところだと思います。

オープンなところで標準が決まっていく流れだと,普通のエンジニアが簡単に参加できるわけじゃないですか。普通のエンジニアたちが標準化の行方を左右する。そのエンジニアの判断がこのあとの世界にすごい影響を与える可能性があります。そういう重要性を意識して判断できる人はいいのですが,意識できない人はどうするのかなっていうのが気になっています。

たとえば,AtomPubのSlugヘッダの仕様はマルチバイトはうまく使えない仕様になってたんですね。NTTコミュニケーションズの朝倉浩志さんという人が本家のメーリングリストで,いろいろうるさいドイツ人とかと議論しながらなんとかいいほうに持っていったっていう経緯があって,そのときの草の根の活動がなかったら,今ごろAtomPubは日本語でまともに使えない仕様になっていたかもしれない。

OpenIDなんかもそうですが,作って公開しちゃってみんなに意見を求めるっていう形で,仕様策定のスピードがかなり早くなっています。だから感度のいい人がみんなで見てないと,どんどん文字コードの話とかは日本人の知らない間に決まっちゃう可能性もあるんですよね。

中島:よくあるパターンとしては日本語が扱いにくい仕様になったものをバッドノウハウで処理して,そのバッドノウハウを自慢するみたいな傾向がありますね。そうあってはいけないということですよね。

山本:仕様策定のときから誰でも関われるんだからちゃんと関わって,いい方向に持っていくことが重要ですよね。

別の例を挙げると,ODFOpenDocument FormatというOpenOffice.orgが採用しているデータフォーマットにも大きな問題がありました。ODFはXMLベースのフォーマットなんですけど,メタデータにふりがながふれないという問題があって,これも10年くらいやってるはずなのに,そんなことに誰も気づかなかったのかというのがあって。

中島:気づいた人がいるかもしれないですよね,気づいて黙っていた人が。もしいたとしたら,その人は知らず知らず国益をしょっている立場になっていたわけですね。ミニ国益(笑)⁠

山本:かもしれないですね。実はそういう人が自分がミニ国益をしょっていたことを意識できていたのだろうかと。あるいは意識してたとしてなぜ黙ってしまったのかと。

中島:「武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」「葉隠(はがくれ)⁠注6みたいな話ですよね。いつでも死ぬ覚悟ができているかみたいな(笑)⁠

山本:明治維新の時代の人なんかはそういう覚悟があったんでしょうね。今のエンジニアに死ぬ覚悟が必要とは言わないですけど,国益に関わる判断を迫られたときの判断材料はあったほうがいいよな,と。

注6)
江戸時代の武士の心得を問いた秘伝の書。

著者プロフィール

中島拓(なかじまたく)

ソフトウェア技術者として,汎用機上での大規模プロジェクト,ミニコンによる制御システム,パソコン用のパッケージソフト,オープンソースソフトウェア(Amrita,ReviewableMindなど)といった,幅広い分野での開発に携わる。アンカテのブロガーとして,2006年アルファブロガーに選出される。現職 株式会社ブレーン 研究部長

アンカテ:http://d.hatena.ne.jp/essa/