圏外からのWeb未来観測

第2回 REST侍は国益に殉ずる覚悟を持っていた

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「ミニ国益」をしょってしまったとき

山本:たぶん日本人のソフトウェアエンジニアで一番国益をしょっているのはまつもとさん注7だと思いますが,まつもとさんにはちゃんと宗教があるじゃないですか編注)⁠頼りどころがあるというか。心の支えがあるというか。どんなにひどいことを言われようがちゃんと自分のポリシーを貫けそうな気がします。でも,普通の日本人はあまり宗教に馴染みがないですし,心が折れちゃう人は折れちゃう気がします。

中島:そうか,期せずして国益をしょってしまったとき,支えになるものが何なのかというのは,大きな問題ですね。

山本:思想までいくと僕には無理なのですが,どういう価値基準で行動すべきかという点については,自分なりに考えていることがあります。浅羽道明さんの『昭和三十年代主義』注8という本や,そこで紹介されている「明日があるさ THE MOVIE」っていうダウンタウンの浜ちゃんが主演している映画から考えたことなんですが。

簡単に言うと,確固たる個を持ったプロフェッショナルが必要に応じてある目的のもとに集まって,目的を達成したら潔く解散して,それぞれの日常に戻っていく,というような感じで,全然知らない人たちが集まって同じ1つの目的でプロジェクトをやって,成功したらまた散っていく。自分の日常に帰っていくっていう世界がなんとなく理想なんじゃないかなって思ってます。

中島:コミュニティを作るということとは違うんですね。

山本:僕は半永久的に続くみんなで集まるコミュニティみたいなのが基本的に好きじゃなくて。どっちかっていうと必要があれば集まるほうが好きなんですね。

中島:用を果たしたら散ったほうがいい。

山本:コミュニティっていうのは自分の場合で言うと,たとえば家族とか親戚づきあいとか地域のコミュニティとか,もちろん会社というのもあって,それで十分かなという気がします。ネットでもつながりばかり求めてしまうのは個人的には合わない。だからネットの上ではしがらみとかではなく,みんなでわーっと集まって祝祭をやって潔く散るほうがいいなと思います。

中島:なるほどね。

注7)
Ruby開発者のまつもとゆきひろさんのことです。
編注)
まつもとさんは末日聖徒イエス・キリスト教会の会員です。
注8)
『昭和三十年代主義..もう成長しない日本』⁠浅羽道明著,幻冬舎,2008年)

一期一会,祝祭,そしてREST

中島:そのパッと散るというところに美学が。

山本:そうですね。そうしないと新しいものが生まれない気がするんですよね。どうせネットをやるならそっちじゃないかと。

中島:私はRESTの説明をするとき,⁠笑っていいとも!」のテレフォンショッキングの例を使うんですね。あれで次に回す人に電話をかけるとき,アナウンサーとマネージャーが最初に会話して,ネゴシエーションが終わってからタレントが喋り出しますよね。あれはSOAP的だと。

RESTは,用がある人の携帯に本人が直接電話をかけて,ステートレスでいきなり要件を言う。だからこれは,知らない人同士が一期一会でつながるためのアーキテクテャだと。

山本:なんでもかんでも一意に指し示されちゃうことに嫌悪感を感じる人もいますから,そこの難しさはあると思うのですが。

中島:そうですね。ネゴシエーションなり紹介や仲立ちという手順を省略して,自分の身分などを明らかにしないで,いきなり批判されると違和感を覚える人もいます。でも,Webのアーキテクチャ的には,やはりRESTでいきなり要件から入り,終わったら散るが本当だと思います。

山本:オープンソースとかでもそうですけど,だらだらと同じところで回ったりしているよりは,プロフェッショナルの人がみんなで結束して何かプロジェクトをやったら解散するみたいな世界のほうが好きなんですね。梅田望夫さんが残念発言をして注9炎上しましたが,僕は,梅田さんがおっしゃっていたのは,そういうことじゃないかなと思っていて,それにすごく共感します。

中島:なるほど。専門性をホームグラウンドとして,祝祭としてプロジェクトに随時参加していくというイメージですね。

山本氏と2人で歩く

山本氏と2人で歩く

注9)
「日本のWebは「残念」⁠ 梅田望夫さんに聞く-ITmedia News」前編後編

あとがき

「技術者はミニ国益を背中にしょっている覚悟が必要」という視点は新鮮でした。山本さんは,普通に「国益」という言葉を使いますが,技術とかけ離れた別の分野の知識を無理矢理仕事に持ち込んでいるわけではありません。そうではなく,長期的な視点から,冷静かつ客観的に自分の置かれた環境を見て,そのうえで技術者として何をすべきかということを,普通の人より真剣に考えているだけです。技術者も,背中に大きなものを背負うことで,大きく成長できるのかもしれません。

著者プロフィール

中島拓(なかじまたく)

ソフトウェア技術者として,汎用機上での大規模プロジェクト,ミニコンによる制御システム,パソコン用のパッケージソフト,オープンソースソフトウェア(Amrita,ReviewableMindなど)といった,幅広い分野での開発に携わる。アンカテのブロガーとして,2006年アルファブロガーに選出される。現職 株式会社ブレーン 研究部長

アンカテ:http://d.hatena.ne.jp/essa/