圏外からのWeb未来観測

第4回 ネットコミュニケーションのおもしろさに賭けた挑戦

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競争の最前線へ

中島:グリーでは,どんなことをやろうとしているんですか?

伊藤:日本のネットの会社の中で,特に大きい会社同士が競争して激しく衝突するという時代が,まさに今始まっていると感じています。その競争の真ん中で戦ってみたい。

中島:最前線で火花が散っているところでやってみたいと。

伊藤:そうです。今このソーシャルゲームの業界っていうのはイノベーションのジレンマの典型的な例だと考えています。

携帯とか表現力の乏しいデバイスでのゲームって,既存のゲーム業界の価値基準で見ると参入しにくい市場ですよね。そこにソーシャル性とかソーシャルグラフとかインターネットの本質的なパワーを持った要素をつけ足したゲームっていうのを持って参入したっていうのが,多分グリーとかDeNAさん注13の構図だと思います。

それで,そういう中で現状はまだエントリレベルにいるんですけど,スマートフォンの時代になると表現力が上がってきて,少しずつ既存のゲームと同じ土俵に乗っていくことになります。でも既存のゲーム業界におけるネットワーク対応って,僕から見るとネットの見方が少し違います。普通に1人で遊べるゲームなんだけど,友達と集まるとちょっとインターネットを使って,ゲームの中の一部分だけをネットワーク対戦できますというのがほとんどで,それって僕にとってはあんまりネットワークゲームじゃないんですよ。

注13
⁠株⁠ディー・エヌ・エー。⁠モバゲータウン」というゲームとSNSを融合したサービスをはじめとする各種サービスを展開しています

ゲーマー伊藤直也の夢

伊藤:僕,もともとすごいゲーマーなんです。最初は,インターネットって単に便利だなぁくらいにしか思ってなかったんですけど,初めてウルティマオンライン注14っていうゲームをやったときに,ゲームの中に登場する町の人ですら,ほかのプレイヤーっていう状況がものすごくおもしろくて,⁠こんなにおもしろいものが世の中にあるんだ」ってそこで初めてインターネットってすごいと思いました。

中島:魂を揺さぶられた?

伊藤:そう,そうなんですよ。

中島:便利だなぁっていうレベルではなくて,魂に響くのがゲームだったと。

伊藤:ゲーム自体がおもしろかったというより,なんていうんですかね。子どものときにドラゴンクエストとかいろいろなロールプレイングゲームをやったんですけど,1人でやって結局何になるんだろうって思ってしまったりとか。あるいはゲームに町の人が出てくるけど,町の人はコンピュータだからしゃべりかけても同じ答えしか返ってこないけど,町の人が普通の人間のようにしゃべったらそれだけでずっと遊んでいられるんじゃないか,みたいなことを思ったときがあって,それがまさに実現されたのがネットワークゲームだったんです。

注14
多人数同時参加型のオンラインRPGが登場した初期に登場したゲームの一つで,世界中で大ヒットして,そのあとの多人数同時参加型オンラインRPGブームのきっかけを作りました

Webらしいコミュニケーションプラットフォーム

伊藤:重要なのは単純にゲームがコミュニケーションと一緒になっておもしろいってことじゃなくて,コミュニケーションそのものがおもしろいというプラットフォームがそのバックエンドにあって,それの上でゲームとそれが融合しているっていう感じなんです。で,僕はそのコミュニケーションプラットフォームのところを作るということを,これから何年かかけてやっていきたいと思っています。

僕らのゲームの作り方はWebサービスの作り方そのものなんですよ。ユーザがどういう風に動くかわからないから,ある程度見切りつけて出したあとで変化させていきましょうっていう作り方をします。ネットワークゲームを本質的に作りこんでおもしろくしていくには,このWebの作り方と同様のプロセスが必要だと思うんですよ。それで,僕たちはもうそれをできる力を持っていて,これから表現力が豊かなデバイスのほうに進んでいくと,そのときに既存のゲームの作り方との勝負になってくると思います。僕はやっぱりWebの人間なんで,あとから作り変えていくっていう方向に賭けたいと思います。

中島:はてなでやられてたことも同じですよね。ユーザと対話する中で一緒に試行錯誤しながらサービスを作り上げていくという意味では。ある意味では一貫してるわけですね。直也さんのやってることっていうのは。

伊藤:僕にとっては結構全部つながっていて,やるべきことはそんなに変わってないというのが正直なところなんですけどね。

中島:不特定多数のユーザのやることを事前に全部見通すことはできないから,どこかで見切りをつけることも必要だし,サービスインしてからすばやく反応していく反射神経も必要。そこを見切る眼力と反射神経は鍛えてある。という感じですか。そこは,一朝一夕にはできないぞという。

伊藤:一朝一夕にできないぞというか,essaさんがブログで書かれていた受託開発とWeb開発の違い注15と多分似ています。どちらが良い悪いという話ではなくて,文化の違い,どこを中心に見ているかという話じゃないかと思います。僕らはそれを武器にして勝負していくってことになると思います。

注15「重なりあうコミュニティの空気とパブリックな空間のルール

あとがき

お話してみて,⁠ユーザからの問いかけに答えていけるダイナミックさこそがWebサービスの本質」という信念と自信を感じました。そして,それを実現するには技術的裏付けやWebのアーキテクチャを理解することが必要であるということですね。そのWebの王道を着実に歩んでいる人だと思います。

ブログ上では長い付き合いだけど,リアルでじっくり話したのは今回が初めてでした

ブログ上では長い付き合いだけど,リアルでじっくり話したのは今回が初めてでした

著者プロフィール

中島拓(なかじまたく)

ソフトウェア技術者として,汎用機上での大規模プロジェクト,ミニコンによる制御システム,パソコン用のパッケージソフト,オープンソースソフトウェア(Amrita,ReviewableMindなど)といった,幅広い分野での開発に携わる。アンカテのブロガーとして,2006年アルファブロガーに選出される。現職 株式会社ブレーン 研究部長

アンカテ:http://d.hatena.ne.jp/essa/