圏外からのWeb未来観測

最終回 アルゴリズムからキュレーションへ

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総合Webメディアというフロンティア

中島:WEB+DB PRESSは技術系の媒体ですが,Web開発者の方へのメッセージやアドバイスをお願いできますか?「ここが狙い目だよ」のような。

クールな佐々木さんですが,メディア論を
語り出すと熱い想いが伝わってきます

クールな佐々木さんですが,メディア論を語り出すと熱い想いが伝わってきます

佐々木:メディアビジネス的に言えば,日本にはキュレーションをする場がないんですよね。Twitterぐらいしか。

最近おもしろかったのが,GMがWebのメディアと組んだ事例です。GMは自動車メーカーだから社内に専門家がいっぱいいるわけです。それで,その専門家が持っているいろんな専門知識をもとにキュレーションを行って収集している情報をみんなに紹介する。

そうすると,Webサイトとしては専門家がキュレートすることで質が上がる,GMとしては自社にこんなすごい専門家がいるっていう良い宣伝になる,読者は良い情報が入るという,三者がWinWinWinの関係になる。そういう形でキュレーションをうまくビジネス化するというのは,あり得ることなのかもしれません。

さらに言うと,そのキュレーションのマーケットプレイスのような,マッチングサービスみたいなのも出てくるかもしれないですね。膨大な数のキュレーターがいて,その人たちとそのフォロワーをうまく結び付けると。

ただ,キュレーションそのものは基本的にはボランタリーな世界ですから,直接お金をもらうビジネスはたぶん成り立たないんじゃないかなと思います。

中島:なるほど。

佐々木:アメリカでは,The Huffington Postが結構人気があります。その日のいろんなニュースを集めてきて,そのアグリゲートした記事に,⁠The Huffington Post」が選んだ人,ブロガー,識者がコメントを加えるWebサイトですが,日本ではそういうのがない。

単なるTwitterの集合知としてではなくて,もう少し専門的な知見を持っている人の意見を聞きたいというニーズはたぶんあると思います。

はてなブックマークの残念な所(注3)

佐々木:それで,一瞬はてブ⁠はてなブックマーク)がその分野をカバーしていた時期がありました。ただ,はてブの場合技術系の話題に寄り過ぎなことと,設計が悪くて,ものすごく荒れてしまったのが残念ですね。

中には割にまともなコメントもあるんですが,単純に時系列で表示するので,あとから投稿されたディスりたいだけのどうでもいいコメントが先頭に表示されて,全体がどうでもいいって感じに見えちゃう。

中島:私は,自分がコメントされる側としてはあれが好きです。全部フラットにばーんと出る感じが。でも,人の記事へのコメントを読もうとすると,確かに気がそがれる面はありますね。

佐々木:はてなの人は,人の善意を信じ過ぎなんですよ。何もしなければ善意だけが浮かび上がってくると近藤さん注4は信じているんだけど,放っておけば悪意もいっぱい浮かび上がってくるわけで,その悪意がいかに見えないようにするかというのが,今のWebメディアの設計で非常に重要なテーマだと思います。

中島:悪意を見えないようにするためにももう一工夫?

佐々木:Twitterはそこがうまくできていますよね。フォロー・フォロワー関係を作ることによって,自分に悪意を持っている人をフォローしなければ悪意は見えないしくみで,シンプルだけど効果的ですね。

注3)
この対談収録後の2011年4月5日にはてなブックマークはリニューアルされました
注4)
⁠株⁠はてなの代表取締役である近藤淳也氏のこと。

専門知識とバックグラウンド

中島:佐々木さんは新聞記者出身で,今は独立してフリーとして活躍されています。我々の業界では,単純な受託開発の仕事がなくなって新しい道を模索している人がたくさんいるのですが,そういう人たちに,佐々木さんの経験されたことから何かアドバイスはありますでしょうか?

佐々木:まずは専門知識だと思います。会社員は何に力を入れるかというと,僕自身の新聞社時代を思い出すと,人間関係に力を入れるんですよ,だいたいの場合。でも,それは会社からそれたときには役に立たない。

新聞社はものすごい専門知識があっても「専門バカ」みたいなこと言われてあまり評価されなかったりする。これは,たぶんほかの会社でもそうだと思います。でも,実は専門バカのほうが,外に出たときには評価されることが多いということを意識しておかないといけないと思います。

中島:佐々木さんのお仕事だと,ブロガーとの競争みたいな面もありますよね。

佐々木:ブログは一人の個人,生活している個人,仕事している個人が自分の見える範囲で書くわけですよね。僕は全然関係ないところ,音楽の話を引っ張ってきたりとか,大きなバックグラウンドから取りかかるということを意識しています。今回の『キュレーションの時代』でも,現代アートの話を書いたりしています。

日本で言うと山下清みたいな,自分のことをアーティストと考えていない人が,アートをやっているのをアウトサイダーアートというんですけど,その世界では,普通のアートの世界でアーティストが一番偉いのとは違って,それを探し出す人が重要なのです。だから,アウトサイダーアートの世界は,キュレーションに通じるんですね。

そういうふうに,文章を書くときには書いていることの外側に何か広い世界が見えるようにしようとしています。

中島:いつも読ませていただいて,取材力や視野の広さを感じています。たとえば『電子書籍の衝撃』注5では,iPadの話からいきなり携帯小説の作家たちの話になったのが印象的でした。

佐々木:あれもその前に『ケータイ小説家』注6という本を書いていたんで,それが役に立ちました。携帯小説の作家,ほとんど無名の女の子たち10人に取材して,その女の子たちの半生を描いています。それぞれの。驚くべき世界。まったくWebとは違う。

中島:あの流れはちょっとびっくりしました。携帯小説における作者と読者のつながりの意味から,ソーシャルリーディングやキュレーションのような,電子書籍の未来の方向性を探るという構成になっているんですね。あれはおもしろかったです。

注5)
ディスカヴァー・トゥエンティワン,ISBN:978-488759-808-9,2010年
注6)
小学館,ISBN:978-4-09-387816-6,2008年

あとがき

佐々木さんの記者からフリーライターへの転身のお話は,我々プログラマの今後にも参考になる面が多々あると思います。組織の外から評価される専門知識と,プロならではの一歩引いた広い視野は,組織の中で仕事をするか外に出るかにかかわらず,これからのプログラマにも必要になるでしょう。

1年間ありがとうございました。この連載でお聞きしたお話は,私にとっても今後の財産となると思います。当たり前のことですが,Webは人が生み出すものであることを実感しました。

インタビュー後。取材は佐々木さんのオフィスで行われました

インタビュー後。取材は佐々木さんのオフィスで行われました

著者プロフィール

中島拓(なかじまたく)

ソフトウェア技術者として,汎用機上での大規模プロジェクト,ミニコンによる制御システム,パソコン用のパッケージソフト,オープンソースソフトウェア(Amrita,ReviewableMindなど)といった,幅広い分野での開発に携わる。アンカテのブロガーとして,2006年アルファブロガーに選出される。現職 株式会社ブレーン 研究部長

アンカテ:http://d.hatena.ne.jp/essa/