WebSig1日学校~未来のあなたとWebを変える1日

第6回デザイナーのための算数

デザインの基礎を学ぶ

佐藤好彦先生
(東京造形大学非常勤講師)
佐藤好彦先生(東京造形大学非常勤講師)

デザイナークラスの3時間目は、Web・グラフィックデザイナー佐藤先生の授業です。受講生は先生によるジャンベの演奏で迎えられ、カラフルな幾何学型シートやフラフープなどの前に着席するところから始まりました。

佐藤先生はまず、HTML5の登場でスペース(自由)と枠組(埋める)の考え方が曖昧になりつつある現状を指摘。⁠デザインの価値を活かし自由な世界観を作るには、デザインの基礎が重要」と説明しました。そして、この授業は、いくつかの芸術家の言葉を手がかりに、これらの思考をWebデザインにまで繋げようというものでした。

①ワシリー・カンディンスキー「内的必然性」

彼の抽象絵画「コンポジション」や、ジャクソン・ポロックのアクションペインティングを例に、⁠美しさは色と形だけで作り出せ、テーマがなくても感じられる」事実を紹介。偶然に見える彼らの絵画も実は「各部は必然的に置かれ、外の影響すらも受けない」という「内的必然性」の上に成立していると解説されました。

②ヴィクター・パパネック「デザインとは、意味のある秩序状態を作り出すために、意識的に努力すること」

①の「内的必然性」の生成過程を表すとも言える言葉です。その証明のため、先生は丸と四角にカットされた赤と黄色のウレタンシートを用いてある実験を行いました。

デザインのルール実験

①適当に散らす:無秩序状態

②右左に色分け:ルール①の設定

↓分量の把握がしやすくなる

③整列させる:ルール②の設定

一段階ずつ手を加えるごとに、数と色の様子、配置によって情報が伝わりやすくなりました。逆に言えば、相手に情報を伝えるときに大切なのは「ルールを作り構造や関係を単純化して見せること⁠⁠。たとえば、ある本の表紙にはデザイナーの決めた法則が隠れていますが、そのルールの質の善し悪しでデザインも決まる、というわけです。

また、このルールの決め方にもポイントがあるそう。⁠黄金比などの一般的ルールを重要視しすぎず、オリジナルルールを考えることが大切。それを続けていれば、自ずと自分自身のルールも見つかるはず。自分のルールを厳格に守り続けることで、確固たる世界が表現できるようになります」と力説しました。

画像

③パウル・クレー「見えないものを見えるようにする」

「人に正しく情報を伝えること」「左右の項が等しい等式」には、実は類似点があります。たとえば、似た言葉の音を重ねて1つの単語を認識させるおやじギャグや、あるパターンを繰り返して1つのリズムを認識させるジャンベの演奏にもこの考え方は適用できます。ここから導けるのは「人は何も言われなくても、部分から情報の意図を読み取る力がある」こと。

ここで、先生はシートとバーを使って実証を行いました。ここで作られた位置関係にも見えない基準線がありました。それが、クレーの言う「見えないものを見えるようにする」のはつまり、デザインで最も重要な「背面構造」のことだったのです。

④アルベルト・アインシュタイン「神はサイコロを振らない」

美しいデザインには、必然性があり、無秩序や偶然では生まれず、法則が隠されている。こうした事実をすべて内包しているのがこの言葉です。佐藤先生は、スイスデザインの代表である、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンのポスター構造も例に挙げ、配置、色彩・彩度、書体などのパターン化が、自分の意図を伝える手段として有効なことを紹介しました。⁠一見見えづらいデザイナーの頭の中を、より伝えやすく構造化してデザインを割り当てていく思考回路は、今後のWebデザインにも重要になる。スペースにインタラクティブ要素を組み込む時などにも、グラフィックの思考が役立つはず」との解説が加えられました。

こう見ていくと、自分のルール(仕組み)を作り上げ、背後にある構造をいかにきちんと作り込めるかが重要だとわかります。最後に佐藤先生は、⁠自分の方法論を持つには、自分の思考パターンを理解し改善することも大切。そのためには、自分のデザイン方法を言語化し単純化してみると良いですよ。そのノウハウが確立すれば応用できるので、デザインしやすくなるはず。職業的にも均質なデザインを提供できるようになると思います」と授業をまとめました。

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