いま、見ておきたいウェブサイト

第26回One Frame of Fame、KOTORI、New Domino's Pizza - Oh Yes We Did.

梅の開花が伝えられるなど、春の訪れが感じられる今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

ユーザーと作るミュージックビデオ

『One Frame of Fame - Got a webcam? Help us finish off our music video!』

オランダのミュージシャンC-Mon & Kypskiのミュージックビデオ作成プロジェクト、⁠One Frame of Fame』です。

図1 ユーザーにミュージックビデオ制作の手助けを求めている
図1 ユーザーにミュージックビデオ制作の手助けを求めている
credit: Roel Wouters, Jonathan Puckey(Director), Vincent Lindeboom(Producer)

ミュージックビデオ制作の手助けを求めているこのウェブサイトでは、ユーザーがウェブカメラを使って用意されたポーズと同じポーズの画像を撮影すると、彼らの新曲 ⁠More is Less⁠⁠ のミュージックビデオの中に、その画像が次々と挿入されていくという仕組みが説明されています。

図2 すでに参加者は10,000人を超えている
図2 すでに参加者は10,000人を超えている

ユーザーによって撮影された画像を挿入したミュージックビデオはウェブサイト上で公開されており、すでに10,000人を超える人たちが参加しています。

“スピード”が命

このプロジェクトでは、⁠ウェブカメラを使って撮影するだけで参加できる」という気軽さだけでなく、⁠ミュージックビデオの更新の早さ」も参加人数が拡大していくポイントとなっています。

ウェブサイト上に用意されているミュージックビデオは、1時間に1回というペースで更新されていきます。自分の姿が挿入されたミュージックビデオを、撮影終了後からわずか一時間で確認できるため、ユーザーが他人にこのプロジェクトを伝えるスピードが上がり、ネット上での速やかな広がりを見せています。

仮にこのミュージックビデオの更新が、1日に1回というペースで行われているとしたらどうでしょう。最悪の場合、ユーザーは参加したことすら忘れて、二度と見に来ることはないでしょう。

ミュージシャンのミュージックビデオに出演できるという、ファンなら絶対に参加したくなるこの企画。アーティストのファン参加型プロモーションとして、今後もいろいろなパターンが生まれてきそうです。

ポップな世界初のカスタムヘッドフォン

『KOTORI』

フォスター電機株式会社のプロユース向けブランドFOSTEXによって設立された、⁠個(KO⁠⁠、⁠音(OTO⁠⁠、⁠オリジナル(ORIGINAL⁠⁠」の3つの意味を込められた世界初のカスタムヘッドフォンブランド、⁠KOTORI」のウェブサイトです。

図3 ポップな色使いと楽しくなるようなグラフィックが特徴のトップページ
図3 ポップな色使いと楽しくなるようなグラフィックが特徴のトップページ
credit: IMG SRC

カナル型のオリジナルヘッドフォンを注文できるのですが、構成する全17パーツの一つひとつに対して、用意された15色のなかから自由に色を選択できる(個々のパーツに違う色を指定することも可能)という、非常に自由度の高いカスタマイズが特徴となっています。

図4 各パーツに異なった色も指定可能なカスタマイズ
図4 各パーツに異なった色も指定可能なカスタマイズ

多数のパーツに対して色を選択するのが面倒な人には、シャッフル形式(ランダム)で各パーツの色を決めてくれるユニークな仕組みも用意されています。

制作会社と企業のこれから

このカスタムヘッドフォンブランド「KOTORI」では、ECサイトの制作だけでなく、ブランド名、商品開発、PRに至るまで、ウェブを中心としたデザイン制作会社のIMG SRCが関わっているとの事です。

制作会社がウェブサイト制作だけでなく、ブランディングにまで踏み込んだというこの事例は、今後の制作会社の方向性を示していると思います。⁠依頼されたウェブサイトの制作を行うだけ」ではなく、自らの持つ強みやノウハウをさまざまな方向で生かすことで、制作会社という枠を飛び越え、自らの守備範囲を拡大していく時代に入ってきたのではないでしょうか。

またこの事例では、企業側の意識の変化にも注目すべきでしょう。企業が代理店には頼らず、クオリティの高い仕事を実現するために、ブランディングを含めた最上流の部分を考え、共有し、創造できる制作会社を選定するという「チームのデザイン」を始めたことは、今後の制作会社と企業の関係にも大きな影響を与えるのではないでしょうか。

お互いにとってメリットのある、こうした制作方法の継続によって、制作会社と企業が大きく成長する可能性があると思います。このような事例が増えていくのかどうか、さまざまな制作会社と企業の関係を、注意深く追っていきたいと思います。

ソーシャルメディアの借りはソーシャルメディアで返す

『New Domino's Pizza - Oh Yes We Did.』

1960年の創業から今年で50年目を迎えたアメリカの宅配ピザチェーン、ドミノ・ピザによるキャンペーンサイト『New Domino's Pizza - Oh Yes We Did.』です。

図5 The Pizza Turnaround"Documentaryと名付けられたキャンペーンサイト
図5 The Pizza Turnaround
credit: Crispin Porter + Bogusky

“The Pizza Turnaround(ピザの方向転換)⁠と名付けられたこのキャンペーンは、顧客が発したソーシャルメディアや座談会での不満を解消するため、ドミノ・ピザのスタッフたちが新しいピザを開発していく様子をドキュメンタリー形式の動画で紹介していきます。

図6 ピザを開発する様子をドキュメンタリー形式で紹介

動画の中では、ドミノ・ピザを食べた顧客から「私がこれまでに食べたピザで最悪の見本」⁠まったく味がない」⁠冷凍ピザの方が格段においしい」⁠ドミノ・ピザのクラスト(パン生地)はまるで段ボール」など容赦のない意見が相継ぎます。

やがてドミノ・ピザのスタッフがクラスト、ソース、チーズを作り直して完成させた新しいピザを、強烈な不満を発していた顧客に届けに行くところで、この動画は終了しています。果たして、この試みは成功するのでしょうか。この続きは、最近公開されたもう一つの動画である"At the Door of Our Harshest Critics(最も厳しい評論家たちの玄関で)"で確かめてみてください。

図7 新たに開発したピザを持ったスタッフが顧客を訪ねます。果たして結果は…

顧客の信頼をどう回復するか

今回、ドミノ・ピザが新しいピザを開発した理由として、⁠6四半期連続の売り上げ減少」⁠宅配ピザの品質向上」⁠ライバルから市場シェアを奪うため」などと報道されています。しかし個人的には、今回のキャンペーンは、それ以外の⁠ある事件⁠が大きく関係しているのではないかと考えています。

2009年4月、アメリカのドミノ・ピザで働いていた2人の従業員が、顧客に届けるピザのトッピングを不衛生に扱っている様子を撮影してYouTubeにアップロードしました。すぐに視聴回数は100万回を超え、ソーシャルメディアを中心に批判の声が高まり、従業員は逮捕されました。事件の深刻さにドミノ・ピザ側も最高経営責任者(CEO)がTwitterやYouTubeを使って謝罪するなど、当時、大きな話題となりました。

今回のキャンペーンでは、顧客とコミュニケーションを深めることで、ソーシャルメディアによって 引き起こされた信頼の低下を、同じソーシャルメディアという場を使って回復させ、さらに顧客として引き込もうとするドミノ・ピザの考えが見えてきます。

CMやはがきによる告知などを使い、不祥事から信頼を回復するだけでなく、好感度を上げる事にも成功した日本の家電メーカーの例もありますが、本来、失った信頼を回復することは難しく、非常に時間のかかる作業です。これからドミノ・ピザがどうやって顧客の信頼を回復していくのか、今後のプロジェクトの進行やさまざまなプロモーション活動に注目していきたいと思います。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧