いま、見ておきたいウェブサイト

第48回Ben the Bodyguard、Google eBookstore、Save as WWF, Save a Tree

いよいよ今年もあと少し。今年を振り返りながら、来年の目標をあれこれ考えている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

ボディーガード、雇いませんか

Ben the Bodyguard. Coming soon to iPhone and iPod touch

ドイツ・ベルリンのNerd Communicationsから、2011年1月にリリース予定のiPhone/iPod touch用アプリ、⁠Ben the Bodyguard」のウェブサイトです。

図1 プライバシーを保護するiPhone/iPod touch用アプリ、⁠Ben the Bodyguard」のティザーサイト
図1 プライバシーを保護するiPhone/iPod touch用アプリ、「Ben the Bodyguard」のティザーサイト
credit:NERD COMMUNICATIONS

「Ben the Bodyguard」は、⁠Nerd CommunicationsのクライアントのiPhoneが盗まれ、機密データが侵害された」ことから開発が始まったアプリで、セキュリティと暗号化技術の専門知識を持つBenが、ユーザーのパスワード、連絡先、テキスト、メモ、写真やビデオなど、プライバシーを保護するということです。

図2 ウェブサイトでは建物の高低差や電車の動きなども表現
図2 ウェブサイトでは建物の高低差や電車の動きなども表現

リリース前のティザーサイトのため、ウェブサイト上にアプリに関する情報はほとんどありませんが、CSSとJavaScriptを使って高低差や動きを表現したグラフィックや、スクロールの最後でアプリの情報を配信するメールアドレスの入力を促す仕掛けも良くできています。

デバイスの持つ操作方法に最適化する

それ以上に素晴らしいのが、⁠フランス人のボディーガード、Benがユーザーの秘密を守ってくれる⁠というアプリの世界観を、縦に長いスクロールで表現したことでしょう。

図3 縦スクロールで表現した世界観は、
iPhoneで閲覧した時に際立つ
図3 縦スクロールで表現した世界観は、iPhoneで閲覧した時に際立つ

「Ben the Bodyguard」は、iPhone/iPod touch用のアプリですから、当然、ウェブサイトをiPhone(またはiPod touch)で閲覧するユーザーも多いでしょう。そのためiPhoneを使っている人になじみのある、フリック(指で画面上をはじくような操作)が生かせる、縦長のスクロールを利用したプロモーションが行われています。

使用するデバイスの操作方法に最適化したコンテンツをユーザーに提供することで、非常に効果的なプロモーションとなっているこのウェブサイト。今後、さまざまなデバイスの特徴を生かしたプロモーションが生まれるのか、楽しみにしたいと思います。

ブラウザがあれば、大丈夫

Google eBookstore

2010年12月6日、Googleがアメリカで開始した電子書籍販売サービス、⁠Google eBookstore』のウェブサイトです。

図4 約300万冊のタイトルを用意した『Google eBookstore』
図4 約300万冊のタイトルを用意した『Google eBookstore』

『Google eBookstore』では、新刊やパブリックドメイン(著作権保護の切れたものや、著作権が発生していないもの)作品など、約300万冊のタイトルが用意されています。ユーザーが購入した書籍はGoogleのクラウド上に保存され、Googleアカウントとブラウザを利用することで、さまざまなデバイスで電子書籍を楽しめます。

図5 ブラウザ上で電子書籍の書体やフォントなどが変更できる
図5 ブラウザ上で電子書籍の書体やフォントなどが変更できる

ブラウザ上で動作する「Google eBooks Web Reader」では、電子書籍の購入・管理が可能で、閲覧時の書体や行間の変更や書籍内の検索などが可能です。購入した電子書籍は、AppleのiOSデバイスやAndroid、Nookなどの電子書籍リーダーと互換性を保っています。⁠ただし、Amazonの「Kindle」はサポート外)

現在、⁠Google eBookstore』から電子書籍を購入できるのはアメリカだけですが、対象地域を順次拡大していくとのことです。

始まった電子書籍サービスの覇権争い

『Google eBookstore』はブラウザの使用を基本としているため、ブラウザさえ利用できれば、パソコン、スマートフォン、タブレットなど⁠どんなデバイスからも利用できる⁠という点が画期的な電子書籍サービスです。

アメリカでは『Google eBookstore』が発表された翌日、Amazonがブラウザで電子書籍を試し読みできる『Kindle for the Web』電子書籍の購入・閲覧を可能にすると発表するなど、電子書籍市場における自社サービスのシェア拡大のための動きが激しさを増しています。

日本では10年ほど前から、出版社や印刷会社、電機メーカーなどが、電子書籍の市場を立ち上げようと試行錯誤してきました。その結果、日本の2009年度の電子書籍市場の規模は574億円株式会社インプレスR&Dによる調査と推計されており、市場の規模を考えれば、日本は非常に魅力的な市場と言えます。

海外で主流となっている電子書籍サービスで日本語の書籍が販売されないことや、国内で主流となりうる電子書籍サービスが未だ登場しないという現状からすれば、日本の市場で自社の電子書籍サービスを一気に普及させるチャンスだと考えているところも多いでしょう。⁠Google eBookstore』2011年中に日本でも開始することを発表していますし、これから日本にどんな電子書籍サービスが参入し、どのように普及していくのか、非常に興味深いところです。

その書類、印刷する必要がありますか

Save as WWF, Save a Tree : Home

WWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)ドイツによって生み出された、新しいファイルフォーマット「.WWF」を紹介したウェブサイト、⁠Save as WWF, Save a Tree』です。

図6 新ファイルフォーマット「.WWF」を紹介する『Save as WWF, Save a Tree』
図6 新ファイルフォーマット「.WWF」を紹介する『Save as WWF, Save a Tree』
credit:Jung von MattDederichs Reinecke & Partner

ウェブサイトから無料でダウンロードできる「Save as WWF」というアプリケーション(現在はMac版のみ)をインストール後、アプリケーションでプリントする際に、PDFのオプションから「Save as WWF」を選択して保存することで、⁠.WWF」形式の書類(=印刷のできないPDFファイル)ができあがります。

図7 ⁠Save as WWF」を選択して保存すると「.WWF」の書類が完成
図7 「Save as WWF」を選択して保存すると「.WWF」の書類が完成

完成した「.WWF」形式の書類は、PDFリーダーSkimを利用して閲覧が可能です。⁠※もちろん、印刷できないPDFファイルとして、他のPDFリーダーでも閲覧できます)

『Save as WWF, Save a Tree』のプロモーション動画も用意されている

「.WWF」を使う“意義”

『Save as WWF, Save a Tree』のキャンペーンは、2005年4月にプリンターメーカーLexmarkが市場調査会社Ipsosに依頼した、ドイツ国内の印刷に関する調査結果(回答者の3分の1以上が電子メールを印刷し、ほぼ半日で50枚もの印刷物がプリンターから出力され、すべての印刷物の6%は未読のままゴミ箱へ直行する)から誕生しています。

そのため作成された「.WWF」形式の書類は、ただ単に⁠印刷ができない⁠だけでなく、ページの最後に『Save as WWF, Save a Tree』についての紹介ページが自動的に追加され、書類の閲覧時にWWFの森林保護活動に興味を持ってもらうことを狙っています。

図8 作成した「.WWF」形式の書類の最後は、WWFの森林保護に関するページとなる
図8 作成した「.WWF」形式の書類の最後は、WWFの森林保護に関するページとなる

不必要な印刷をなくすために「.WWF」を使わせることで、紙の使用に関する意識をユーザーに芽生えさせ、結果として、紙の消費量を抑え、森林資源を守り、地球環境の保護につながっていくという、壮大なストーリーの作り方が素晴らしいこのプロモーション。目的を共有し、参加・行動することで、ユーザーが大きな活動の実現の一端を担えるという、⁠人を動かす⁠ストーリーの登場を今後も期待したいと思います。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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