いま、見ておきたいウェブサイト

第113回電通報、SOUR / Life is Music 、Melbourne Remote Control Tourist

朝夕の冷え込みとともに、街中の木々でも紅葉が進み、⁠今年はどこに紅葉狩りに行こうか」と考え始めている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

時代に合わせ、生まれ変わった広報紙

電通報

インターネット環境で日々変化を続ける広告業界の動向を配信するため、生まれ変わった『電通報』です。

図1 インターネットを通じて閲覧可能になった『電通報』
図1 インターネットを通じて閲覧可能になった『電通報』

1946年2月の創刊以来、タブロイド判で月2回発行していた『電通報』が、インターネットでも閲覧できるようになりました。⁠これまで以上に積極的でリアルタイムの情報発信を行う」というだけでなく、指定したキーワードで記事をリスト化できる「フィルタリング機能」や、コラムの執筆者やインタビューに登場した人物のプロフィールが閲覧できる「ピープル・リスト機能」が実装されています。

図2 ウェブサイト化に伴い、フィルタリングなどの便利な機能も実装された
図2 ウェブサイト化に伴い、フィルタリングなどの便利な機能も実装された

また時代に合わせて、PCやタブレット端末などにも対応し、Facebookページでは更新情報なども発信しています。なお、今まで発行していたタブロイド判電通報も、デザインとオリジナルコンテンツを中心とした内容に刷新され、今後も月刊で発行されます。

Webフォントの"カーニング"は一般化するか

今回リニューアルされた『電通報』ですが、ウェブサイトでWebフォントが使われていることがわかります。さらに注目してみると、テキストをそのまま打ち出している(ベタ組み)のではなく、カーニングされていることに気づくでしょう。

ウェブサイトのソースを調べてみると、jQueryを使った独自のカーニングエンジン「DLTRKerning.js」が導入されています。この「DLTRKerning.js」では、数字、アルファベット、記号、ひらがな、カタカナのカーニングが数値で指定されていることがわかります。

図3 文字ごとのカーニングが数値で指定されている「DLTRKerning.js」
図3 文字ごとのカーニングが数値で指定されている「DLTRKerning.js」

画像のような美しい文字表現やテキストとしてのデータも利用できることなどから、最近では国内外で、Webフォントを利用したウェブサイトをよく見かけます。こうした中で、最も問題になっていた部分がカーニングでしょう。文字はより美しく、読みやすくなるカーニングの効果は、誰もが納得してくれるでしょう。

漢字を含めれば2万字を超える日本語の文字数を考えれば、まだまだカーニングの甘い部分もあります。それでも、Webフォントの次の表現レベルに挑戦したこうした試みが、今後いろいろなウェブサイトで採用されていくのかどうか、注目してみたいと思います。

ファンとミュージシャンによる、新しいサイクルの形

SOUR / Life is Music

「音楽のようにサイクルしていく人生」というコンセプトから生まれた、SOURの新曲「Life is Music」をフィーチャーしたウェブサイト、⁠SOUR / Life is Music』です。

図4 SOURの新曲「Life is Music」の特設ウェブサイト『SOUR / Life is Music』
図4 SOURの新曲「Life is Music」の特設ウェブサイト『SOUR / Life is Music』

ウェブサイトでは、⁠フェナキストスコープ(絵が描かれた円板を鏡に映して回転させ、動くスリットから透かして見ると絵が動く⁠⁠」という手法を使って制作されたミュージックビデオと、その製作過程の動画が閲覧できます。また、実際にミュージックビデオの中に登場する189枚のCDの絵柄と回転させた時のアニメーションが確認できます。

SOURの新曲『Life is Music』のミュージックビデオ

生み出された新たな価値をどう循環させるか

今回のミュージックビデオ制作では、クラウドファンディングサイトのGREEN FUNDINGKickstarterを活用しています。制作資金を捻出するための方法はいろいろあると思いますが、こうした形の支援を募ることで、ファンには「自分も制作に参加している」という感覚が生まれます。

SOURの新曲『Life is Music』のメイキング映像

また、⁠Life is Music』のミュージックビデオで実際に使用された189枚のCD(全てに異なった絵が描かれている)を、世界に1枚だけの「アート・ディスク」として販売することで、今では購入することも減ってきたCD自体を、ファンにとって"価値のあるコレクターズアイテム"へと変貌させています。

制作した音楽以外の新しい価値を生み出しながら、それらをファンにどう循環させていくのか。今回の事例では「最初から最後までミュージックビデオの制作過程に参加し、支援する」という価値に重点が置かれていますが、あくまでミュージシャンの例だと考えるのではなく、既存のさまざまな分野でも、こうした仕組みが生かせるのではと感じています。

私たちが、メルボルンを案内します

Melbourne Remote Control Tourist

2013年10月9日~13日に開催された、オーストラリア・ビクトリア州政府観光局によるキャンペーン、⁠Melbourne Remote Control Tourist』です。

図5 ビクトリア州政府観光局による『Melbourne Remote Control Tourist』
図5 ビクトリア州政府観光局による『Melbourne Remote Control Tourist』
credit:Clemenger BBDO

『Melbourne Remote Control Tourist』は、ビデオカメラ、マイク、GPSなどが装備されたヘルメットを身に着けた4人の男女がナビゲーターとなり、メルボルンの街を移動しながら観光案内をしてくれるというものです。

『Melbourne Remote Control Tourist』の内容を紹介した動画

実際にナビゲーターが撮影している映像や音声は、ウェブサイトを通じてリアルタイムでストリーミングされ、ユーザーはウェブサイトから自分のFacebookやTwitterのアカウントを経由してログインすることで、ナビゲーターに行動を指示できるという仕組みです。

図6 期間中にナビゲーターが紹介した場所もまとめられている
図6 期間中にナビゲーターが紹介した場所もまとめられている

ナビゲーターの果たす役割

旅先で観光を行う場合には、旅行ガイドやパンフレット、その土地の観光名所などをまとめたウェブサイトなどを利用することも多いと思います。こうした方法の場合、旅行者は非常に安心感のある観光ができるでしょう。もちろん、そうした"定番"や"お決まり"の観光名所も悪くはないのですが、その土地の雰囲気や街の匂いといった、"自分自身の感覚"も観光における重要な部分を占めるでしょう。

こうした"自分自身の感覚"をユーザーに与える役割を、⁠Melbourne Remote Control Tourist』では、ナビゲーターが担っています。ナビゲーターが、ユーザーの指示に従って行動を起こすことで、ユーザー自身がメルボルンの街中を歩いているかのような感覚を味わえます。自分がやりたいことや見たいものが即座に映像に反映されるため、ユーザーは欲求が満たされ、満足度が非常に高くなります。

5日間行われた『Melbourne Remote Control Tourist』のハイライト動画

ナビゲーターの果たしている役割は、これだけではありません。ナビゲーターと実際に接する相手にとっても、ただカメラを向けられているだけなら、通常の観光客に向き合うような自然な対応はできないでしょう。ナビゲーターが人間だからこそ、カメラを意識せず、いつも通りの自分のままに対応できます。こうした相手の自然な対応は、実際の映像にもよく現れています。

テクノロジーと人間を組み合わせることで、より人々の印象に残る体験が提供できることを示したこのキャンペーン。すべてを機械だけ済ませることもできますが、テクノロジーの間に人間が介在することで、より細やかな体験の提供が可能になる事例は、今後もなくなることはないでしょう。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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