いま、見ておきたいウェブサイト

第134回東京防災、Larry Lessig for President 2016、Meet the Superstar Architect Transforming NYC's Skyline

あれだけ続いた猛暑も影を潜め、日陰に入ればシャツ一枚では肌寒く、気温差で風邪を引いてしまいそうな今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

“読んでもらうため”の防災マニュアル

東京防災|東京都防災ホームページ

2015年9月1日の防災の日から東京都の全世帯へと配布開始された防災ブック「東京防災」のデジタル版です。

図1 東京都が都民に配布している防災ブック「東京防災」のデジタル版
図1 東京都が都民に配布している防災ブック「東京防災」のデジタル版

冷戦時代にスイス政府が配布した「民間防衛」を参考に制作された「東京防災」は、PDFにして約300ページというボリュームでありながら、わかりやすいイラストを多用することで、非常に読みやすく作られているのが特徴です。

図2 イラストを多用することで、非常に読みやすい防災マニュアルになっている
図2 イラストを多用することで、非常に読みやすい防災マニュアルになっている

首都直下地震などの「自然災害」「テロ」⁠武力攻撃」といった人為的災害、災害後の生活など、幅広い状況に対応できるような知識や日頃の備えがまとめられているのも、東京都民向けという感じがします。また、漫画家のかわぐちかいじさんによる作品『TOKYO X DAY』も用意されているなど、少しでも多くの都民にマニュアルを手にとって見てもらおうとする工夫が感じられます。

「いつでも、どこでも、誰でも」閲覧できることの重要性

「東京防災」のような防災マニュアルは、どの地方自治体でも制作され、各家庭に配布されていると思います。ただ、配布直後に閲覧したあとは、おそらく⁠その時⁠までどこかに収納され、再び見る機会は多くありません。マニュアル自体も文字による情報中心のものが多く、自分に関係のある重要な部分はともかく、マニュアルの端から端までを閲覧している方は少ないでしょう。

図3 防災マニュアルに興味を持ってもらうためのマンガも用意されている
図3 防災マニュアルに興味を持ってもらうためのマンガも用意されている

「東京防災」では、こうした防災マニュアルの欠点を「いつでも確認できる」仕組みを作って解消しようとしています。ウェブサイトを制作するだけでなく、ダウンロード可能なPDFファイルを提供することで、都民は所持するデバイスから、いつでもどこでもマニュアルの閲覧が可能になります。

内容のわかりやすさや、そのデザインなども注目されている「東京防災」ですが、都民以外から「欲しい」という問い合わせが相次いだため、1冊150円程度で販売することも検討されています。⁠防災の日」だけでなく、こうした世間の話題になるような機会も利用しながら、いま一度、防災に対する意識を高めてみるのも良いのではないでしょうか。

出馬するかは、クラウドファウンディングが知る

Larry Lessig for President 2016 - Support Lessig 2016 | Fixing democracy can't wait. Help Lessig change the way campaigns are funded Now!

2016年アメリカ合衆国大統領選挙の民主党候補者に立候補を表明した、アメリカ・ハーバード大のローレンス・レッシグ教授の選挙キャンペーンサイト『Larry Lessig for President 2016』です。

図4 アメリカ大統領選の民主党候補者に立候補したローレンス・レッシグ教授の選挙キャンペーンサイト『Larry Lessig for President 2016』
図4 アメリカ大統領選の民主党候補者に立候補したローレンス・レッシグ教授の選挙キャンペーンサイト『Larry Lessig for President 2016』

「Super PACs(スーパーPAC⁠⁠」と呼ばれる、企業や団体から上限なく献金を集めることができる特別政治活動委員会に反対するなど、現在のアメリカが持つ政治システムの腐敗を正すため、2017年に「The Citizen Equality Act(市民平等法⁠⁠平等な選挙権を妨げる障害の撤廃」⁠特定政党・候補に有利な選挙区割の廃止」⁠幅広い市民からの政治資金調達の義務付け」の3つを実現する法律)を制定することを目的に掲げています。

“クラウドファウンディング”から見えてくるもの

レッシグ氏は今回の大統領選に関して、9月7日のLabor Day(労働者の日)までに、⁠クラウドファウンディング経由で100万USドルの資金調達が達成されれば出馬する」と表明していました。果たして、期日前に100万ドルを調達し、大統領選の民主党候補者への立候補を正式に発表しました。

図5 クラウドファウンディングの目標が達成され、レッシグ氏は大統領選へ正式に出馬した
図5 クラウドファウンディングの目標が達成され、レッシグ氏は大統領選へ正式に出馬した

アメリカの大統領選挙において、クラウドファウンディングによって得られた100万USドルは、必要な費用におけるごくわずかな金額でしょう。しかし、⁠必要な資金をクラウドファウンディングから調達しよう」という考えには、本当に驚きます。クラウドファンディングで選挙資金を募るという⁠斬新さ⁠もですが、何よりも実際に行うことで、目標達成までのスピードや参加人数から、自分を支持してくれる有権者の動きや数も予想できるという⁠一石二鳥⁠の方法ではないでしょうか。

今回の目標である「The Citizen Equality Act」法案が成立した場合、⁠自分は大統領職を辞任し、副大統領に委ねる」としているレッグス氏。2016年7月に開かれる民主党全国大会(民主党の正副大統領の指名候補を選出する4年に一度の大会)まで、どのような選挙戦を繰り広げていくのか、非常に興味深いです。

“独占配信”された、インタビュー記事

Meet the Superstar Architect Transforming NYC's Skyline | WIRED

2005年に建築設計事務所「BIG(Bjarke Ingels Group⁠⁠」を設立した、デンマーク・コペンハーゲン生まれの建築家、Bjarke Ingels(ビャルケ・インゲルス)をフィーチャーした、WIREDによる記事『Meet the Superstar Architect Transforming NYC's Skyline(ニューヨークのスカイラインを変換する、スーパースター建築家に会いに⁠⁠』です。

図6 デンマークの建築家Bjarke Ingelsをフィーチャーした、⁠Meet the Superstar Architect Transforming NYC's Skyline』
図6 デンマークの建築家Bjarke Ingelsをフィーチャーした、『Meet the Superstar Architect Transforming NYC's Skyline』

これまでの歩みとともに、今年6月に発表された、World Trade Center(世界貿易センター)の跡地に建設が予定されている超高層ビル、⁠Two World Trade Center」のコンセプト・デザイン・設計について、Bjarke Ingels本人にインタビューしています。

“ニュース配信”が次の主戦場となるか

公開されたこの記事は、その内容だけでなく、別の理由で注目を集めました。公開から9月22日までの4日間、iOS 9のApple公式ニュースアプリ「News」でしか全文が読めないという記事だったからです。

図7 Wiredで公開直後の記事には、Appleの公式ニュースアプリ「News」に独占配信されていることが記されていた
図7 Wiredで公開直後の記事には、Appleの公式ニュースアプリ「News」に独占配信されていることが記されていた

"This story is being previewed exclusively on Apple News until Tuesday, September 22nd. Please check this page again at that time. To view this story in the Apple News app on your iOS 9 device, follow this link: https://news.apple.com/A-oPQmJNfTyi9oHKs1xCY3w."

『Meet the Superstar Architect Transforming NYC's Skyline』記事内より引用

今年5月、Facebookが各メディアから配信された記事をFacebookのニュースフィードから素早く閲覧できるInstant Articlesを発表しました。6月にはTwitterに話題になっているニュースを表示する「ニュース」機能(日本のみ)が追加され、9月にはApple公式のニュースアプリ「News」⁠iOS 9から)が登場するなど、2015年に入ってから、さまざまなプラットフォームで、ニュース配信に関する動きが活発になっています。

図8 Facebookが発表した、ニュース配信を中心とした、新サービス「Instant Articles」
図8 Facebookが発表した、ニュース配信を中心とした、新サービス「Instant Articles」

個人が自由にできる時間には、限りがあります。SNS側ではニュースを配信することで、ユーザーの滞在時間を更に伸ばそうとしています。明確な目的がなければ使われない可能性があるアプリ側は、今回の記事の⁠独占配信⁠のような、SNSとは異なる特徴を打ち出すことでユーザーの時間を奪おうと考えています。

自らニュースサイトを運営している配信先も、定期購読や広告収入だけでは運営が立ち行かない時代です。SNSやアプリを活用した新たなコンテンツの提供で、不安定なページビューではなく、より確実で安定的な収入モデルを確立することが求められています。ニュースというコンテンツを中心に、こうした配信側の期待と、限られたユーザーの時間を奪い合おうとする各プラットフォームの思惑が混ざり合い、いよいよ激しい競争が始まったと言えるのではないでしょうか。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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