いま、見ておきたいウェブサイト

第156回Fuji Rock Festival (YouTube Channel)、Portal from Facebook、Domino’s Paving for Pizza

朝晩の寒さが次第に増してくるのを感じながら、そろそろ年末年始のスケジュールを考え始めている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいウェブサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

現地の熱狂、生中継します

Fuji Rock Festival (YouTube Channel)

2018年7月27日から29日までの3日間、新潟県の苗場スキー場で開催された「FUJI ROCK FESTIVAL⁠18」のアーティストパフォーマンスをライブ配信した、Fuji Rock Festival (YouTube Channel)です。

図1 ⁠FUJI ROCK FESTIVAL⁠18」がライブ配信されたYouTubeチャンネル、⁠Fuji Rock Festival」
図1 「FUJI ROCK FESTIVAL’18」がライブ配信されたYouTubeチャンネル、「Fuji Rock Festival」

「FUJI ROCK FESTIVAL」は、2018年で22回目の開催となりますが、今回初めて、ライブ配信が実施されました。YouTubeの公式チャンネルを使い、⁠FUJI ROCK FESTIVAL'18 LIVE ON YOUTUBE」と銘打たれたライブ配信では、4つのステージでのパフォーマンスが3日間配信(再放送あり)され、見逃した場合も最長4時間まで巻き戻して視聴できるといった、ユーザーの利便性も配慮されたものでした。

現地からのライブ中継で、何が生まれるか?

「FUJI ROCK FESTIVAL」は山間部での開催となるためのため、夏でも寒さ対策が必要なこと、高い確率で雨が降るため雨具や履物の準備が必要など、参加するために必要な事前準備が重要となっています。さらに宿泊を伴う場合には、より多くの準備が必要です。

こうした状況をクリアしてくれるのが、⁠FUJI ROCK FESTIVAL」を紹介してくれる様々なウェブサイトです。参加するための準備をわかりやすくまとめ、楽しみ方を紹介するといった内容なのですが、こうしたウェブサイトが存在するほど、初参加するにはなかなかハードルの高いイベントであることがわかります。

中でも、最も心配なのが実際の会場の雰囲気でしょう。意を決して大変な準備をして、いざ会場に行ってみたらつまらなかった……というのでは、目も当てられません。しかし、今回のライブ配信のように、現地の生の映像を見れば実際の雰囲気がわかります。雰囲気がわかれば、初参加のハードルは下がり、最終的には会場へと行ってみたくなるものです。

「FUJI ROCK FESTIVAL」は、毎年観客動員数を発表していますが、ここ数年の来場者数は頭打ち(2014年は102,000人、2015年は115,000人、2016年は125,000人、2017年は125,000人、2018年は125,000人)となっています。今回のライブ配信は、こうした状況を変えられる可能性を秘めています。

「FUJI ROCK FESTIVAL'18 LIVE ON YOUTUBE」のプロモーション動画

もちろん、フェスティバルに参加し、生でアーティストたちのパフォーマンスを見るのが最高の体験なのですが、環境(アウトドア)の問題、開催場所に行くための時間の確保、直前での病気など、いろいろな理由で行きたくてもどうしても行けない人たちを、ライブ配信によって取り込むことができます。

さらに、同時間に演奏するアーティストが見られないという時間的な制限や、快適な体験を確保するための会場の広さといった物理的な制限をも解決するだけでなく、視聴によるイベントへの参加者の拡大も可能です。配信についても、ライブのVR化による臨場感の向上や、ネットを通じた双方向のイベント参加なども考えられます。将来的には有料配信による、新たなイベントの収益源確保といったビジネス的な要素も含まれてきます。

都市型の音楽イベントとは一線を画す「FUJI ROCK FESTIVAL」が、ライブ配信を皮切りに、デジタル化したフェスティバルの先駆けになれるかどうか。来年以降の継続的なライブ配信にも期待しつつ、他の音楽イベントへどのような影響を与えていくのか、今後に注目しています。

音声を助けるためのディスプレイ

Portal from Facebook: Voice Enabled Hands-Free Video Calling

Facebookが発表した個人向けスマートディスプレイ「Portal」を紹介したウェブサイト、⁠Portal from Facebook』です。

図2 Facebookが発表した個人向けスマートディスプレイ、「Portal」を紹介している『Portal from Facebook』
図2 Facebookが発表した個人向けスマートディスプレイ、「Portal」を紹介している『Portal from Facebook』

「Portal」は、本体にカメラとディスプレーを搭載しており、⁠Messenger」アプリで通話やビデオ通話が可能です。通話時には、拡張現実技術である「Spark AR」によって、通話中の自分の顔にリアルタイムのエフェクトをかけながらの通話もできます。

スマートディスプレイ「Portal」の機能を紹介した動画

搭載されているカメラは、映っている被写体を自動追尾する機能を持っており、撮影されている人物が動いても、カメラが追いかけて画面の中に映り込むようになっています。⁠Portal」のビデオ通話の内容をFacebookが保存・視聴しないことや、カメラが顔認識を行わないことなど、家庭内で利用するデバイスとして、プライバシーにも配慮した設計になっています。

スマートディスプレイへの移行で広がる可能性

スマートスピーカーは、音声を入力してさまざまな機能を実現します。しかし、音声のやり取りだけでは面倒な場面もあります。例えば、多くの情報から一つを選択するような場合やマップの道順を説明する場合などは、詳細を音声で説明してもユーザーが理解しにくく、スマートスピーカー単体で解決するのが難しい問題です。

こうした状況を解決するには、音声を補助する出力装置が必要になります。その一つが、大きな画面です。スマートディスプレイには、どれも大きなスクリーンが搭載されています。文字だけでなく、大きな画面を使って情報を表示することで、情報の一覧性が向上します。また、写真や動画の再生も可能です。

Abhishek Singh氏が、⁠TensorFlow.js」「Amazon Echo」を使って制作した「Alexa Sign Language⁠⁠。カメラで捉えた手話で「Amazon Echo」を操作する。

もう一つは、音声以外の入力装置の追加、すなわちカメラの搭載です。⁠音声で説明する」のではなく「カメラに映す」という入力方法を使うことで、ユーザーがすべてを言葉で説明しなくても良くなり、利便性が向上します。また動画で紹介した「Alexa Sign Language」のように、カメラから情報を読み取り、別のデータに変換できるようになれば、スマートディスプレイの可能性は大きく広がります。

2018年11月に、アメリカの市場調査会社Consumer Intelligence Research Partnersが発表したレポートによれば、2018年9月でのアメリカ国内のスマートスピーカーのシェアは、⁠Amazon Echo」が70%という高いシェアを維持しており、次点の「Google Home」⁠シェア25%)との差は大きく開いたままです。

こうした現状の中、スマートディスプレイを発表する各社それぞれに特徴が見られます。Googleは「YouTube」などの強力な自社サービスを利用できることを、Facebookは問題になっているプライバシーに関する配慮をアピールしています。また、最大シェアを持つAmazonは、車や電子レンジなど、生活のさまざまな場面でデバイスが利用できる製品の開発を進めています。

Googleの「Google Home Hub⁠⁠、Amazonの「Echo Show⁠⁠、Facebookの「Portal」と、多少の機能の違いこそあれ、どの企業からも同じタイミングでスマートディスプレイが発表されるということは、⁠家庭内」という特別な場所におけるデータの奪い合いが、いよいよ始まったことを意味します。スマートディスプレイの新機能と生活領域における使用の拡大を期待しつつ、こうした各社の動きについても、しっかりと注視していきたいと思います。

ピザのためなら、道路も直します

Domino's Paving for Pizza

アメリカのDomino's Pizzaによる、ピザを家庭まで安全に届けることを目的とした新しいプロジェクト「Paving for Pizza(ピザのための舗装⁠⁠」のウェブサイト、⁠Domino's Paving for Pizza』です。

図3 Domino's Pizzaによる新プロジェクト「Paving for Pizza」のウェブサイト『Domino's Paving for Pizza』
図3 Domino's Pizzaによる新プロジェクト<wbr>「Paving for Pizza」<wbr>のウェブサイト<wbr>『Domino's Paving for Pizza』<wbr>
credit:Crispin Porter & Bogusky

道路の穴や亀裂、出っ張りは、車を運転しながら家までピザを運ぶ場合に、どうしようもないダメージ(チーズが片側に滑り込んだり、上部のトッピングの崩れ、箱がひっくり返る)を与えることがあるが、Domino's Pizzaはそれを見過ごすことはできないため、ピザを車でスムーズに運べるように、全米の50州すべての悪い道路を舗装するというプロジェクトです。

「Paving for Pizza」の内容を紹介した動画

ウェブサイトからは、訪れたユーザーが道路の修復を行って欲しい町を申請できるようになっており、申請された中から、Domino's Pizzaが、穴を修復するための助成金を町に提供するという仕組みです。

マスコミに取り上げられたり、ソーシャルメディアで話題になるなど、非常に大きな注目を集めたこのプロジェクトでは、プロジェクト開始以降、アメリカの50の州すべてから13万件を超える助成金の申請を受けています。最終的には、2018年末までにアメリカ全土の50州すべてで少なくとも1つの舗装プロジェクトを実施することを発表しています。

なぜ、こうしたキャンペーンが行われるのか?

道路を舗装する助成金を獲得した町には、助成金だけでなく、道路を舗装するときに使用できる道具箱(舗装作業中に使用するステンシル、重機に貼るステッカー、舗装付近の道路に設置する看板、舗装を行う作業員たちがDomino's Pizzaでの注文で使えるギフトカードなど)が提供されています。ウェブサイトでは、すでに道路の補修が行われた「テキサス州バートンビル」⁠カリフォルニア州バーバンク」⁠ジョージア州アテネ」⁠デラウェア州ミルフォード」の4箇所での作業の様子がレポートされていますが、⁠用意された遠具は絶対に使用しなければならない⁠という決まりごとがないにもかかわらず、道路の補修の行われた多くの都市では、舗装中にドミノから提供されている資産を使用しています。

図4 Domino's Pizzaの修復作業が行われた町の一つ、テキサス州バートンビル。提供された道具を活用しながら、道路の補修がなされていることがよく分かる
図4 Domino's Pizzaの修復作業が行われた町の一つ、<wbr>テキサス州バートンビル。提供された道具を活用しながら、<wbr>道路の補修がなされていることがよく分かる

「Paving for Pizza」キャンペーンが行われているアメリカは、合衆国(50の州と連邦区の連合体)のため、地方自治体や州政府の予算は国家予算とは別会計です。自治体の予算は、少数の富裕層や地元の大企業の収める税収で成り立っていることも多く、決して余裕のある財政状態ではありません。このようなアメリカでは、地方自治体が財政破産することは珍しくありません。カリフォルニア州ストックトンやロードアイランド州セントラルフォールズ、最近の事例では、2013年のミシガン州デトロイト市の財政破綻が有名でしょう。そのため、地方自治体の予算は、まず絶対に必要な市民サービスへと回され、多少の不具合があっても問題のない道路の整備は、後回しにされることが多いのです。

「Paving for Pizza」の開始を告げるツイート。SNS上だけでなく、大手のマスコミでも取り上げられるなど、大きな話題となった。

こうした状況を利用した「Paving for Pizza」キャンペーンですが、単なる広告としての行為が全面に押し出されていれば、大手のマスコミやSNSでの話題の広がりを見せることはなかったでしょう。車社会のアメリカでどの自治体でも後回しにされている、道路を舗装して直すという「誰もがありがたいと感じる行為」を誠実に行うことで、多くの人から支持を得ただけでなく、広告以上のイメージ向上効果を発生させました。

日本企業もCSR(企業の社会的責任)の一環として、積極的に社会貢献活動を行っている団体に寄付をする事例をよく見かけます。ただし、その内容は企業の個性を生かせず、横並びの似たものばかりです。実際に様々な活動に予算と時間を費やし、積極的に活動しているにもかかわらず、世間一般には活動内容がほとんど知られていないのがその証拠でしょう。

今回、日本でも「Paving for Pizza」のようなキャンペーンが可能かどうか調べてみたところ、寄付を受ける自治体側の了解があれば、企業が寄付の使いみちを限定して、完成した物品や施設などに「企業からの寄付によるもの」であることを表示することも可能なことがわかりました。

全く同じ内容のキャンペーンが日本で起こるとは思いませんが、こうした制度をしっかりと活用しながら、社会にとっても、企業にとっても良いインパクトを与えるキャンペーンが登場することを期待しています。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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