WSEA(Web Site Expert Academia)
第19回 医療現場×Web業界のアナロジー ―Webビジネスを“診療”―(その3)
2007年12月19日
初出:Web Site Expert #15(2007年11月26日発売)
まだ見えていない“つながり”
前田:
先ほども出ていましたが,お医者様からは常識的に見える情報なのに,ユーザからは見えない。そういったものを見えるしくみができないかという話。あと,こちらは非常に専門的だから患者側がそれ以上に期待をしているんじゃないかということと,そのギャップを埋めるものがないかということを,たとえば探すしくみであったり。そういうことは,もしかしたら,深刻な病気よりも人生を豊かにするような医療のほうに可能性があるのかなと感じます。でも,やはり露払いをするしくみがないと…一気に来られてもちょっと困りますよね(笑)。
校條:
そういう意味ではネットも進歩して,集中して来ないようなしくみをセグメントしたり,あるいは参加型,一定の関心を持っている人だけに参加しやすくしたりとか,しかけはずいぶん進歩していますよね。
前田:
最近,同じ病歴,看護歴を持つ人同士がコミュニケーションすることで支え合うしくみ,もしくはそういった体験を持つ人の話を聞くことのできるつながりを作るとか,そういうことに関心ある方とお会いしたのですが,そういうつながりというのは,(実際に病気に)ならないとわからないので,そのあたりはまだ見えていないつながりは多いんじゃないかという気はしますね。
校條:
そうですね,かたやそういう状況に直面している人は道具のことを知らない,道具を持っている人はその問題を自分で意識していない。もうちょっとこう両者のつながりが進むと良いですね。
阿保:
本当にそう思います。
前田:
知識と体験をつなげ,そこを太くして,またそれで共有して知らせ合うということができるツールとして,そこは必ずインターネットが重要になってくるところでしょうね。
重要なのは質の提供
前田:
一連のお話を,クリニックをWeb,患者をアクセスするユーザとするとWebの世界とかなり共通項があるかなと思います。
Webサイトの場合も,たぶん能動的に来るユーザが多いと思うんですよね。そのサイトを見る人というのは,ながらで見るのではなく,見たいものにどういうシェアがあるのかと思って来る。そのときに,管理者にとっての“常識”を,Webサイトとしてどう見せているか。これはユーザの求めている情報にマッチしていることもあればマッチしていないこともありますよね。
あとはそのアメリカの場合の話,患者さんの意識レベルが高い,置き換えてみれば見ればユーザの意識レベルが高いとすると,Webもまたそれは変わっていくのかなと。そういう共通項がすごくあるなと感じましたね。
校條:
そういうアナロジーはあるでしょうね。
前田:
あと,実際ネットにしても医療にしても,技術がどんどん進歩していって,ゴールはないのかなと思いつつ,どこかで線引きしないといけないという部分はあると思うんですが,そこに関して先生は何かありますか? ここまではやらなきゃいけないけれど,ここまでが現実的な解だっていう。
阿保:
非常に短絡的な話になってしまいますが,やはり人は死んでしまう。これは避けられない結末ですが,その死をできるだけ先に延ばす。その死に方を幸福に持っていくとか,いずれ死ぬけれどもそれまでの生活の質を高めて人生を幸福に送れるようにするとか,そのへんですかね,限界点というか目指せるところというのは。
前田:
生きる質という話なんでしょうかね。老いないで死ぬ,なるべく老いないで,健康なまま歳を経て, でも死ぬという…それが自然のあり方かどうかはわからないけれども,欲求としてすごくわかりますね。
実際に日本とアメリカだと患者さんの意識ってのはそんなに違うんですかね? 違うとしたらなにか理由があるんじゃないかと思うのですが。たとえばメディアの伝え方とか,文化とかもあると思うんですけれども。
阿保:
そうですね,そういう文化背景は大きいと思いますね。たとえば,皆さんご存知のとおり,向こうではお金を払っていないと救急車を呼べませんからね。この社会背景はまったく違いますよね。ですから自分が自分の健康を守るためには,より積極的に能動的に最低限の医療知識は身につけ,専門家にぶつけていかないとそれを享受できない,満足できるものを享受できないという意識は背景にはあるのかもしれないですね。
だから別に人の意識が高いということはないと思うんですよね。潜在的な意識や文化的背景があるからだと思います。冷静に考えると,医療行為としては,我々から一方的に提供するだけではなくて,個々の方々がそういう意識を持たれるということは非常に重要な点だと思いますね。
前田:
質を伝えたいという意識があるということは,逆に質を問うユーザを作ることだから,そこは切磋琢磨する社会のほうが良いとは思いますね。日本だと医師は“お医者さま”という存在が大きいですからね。
校條:
それは学校の先生だったり,そういういろんな専門家対消費者という構図は昔からありましたよね。
前田:
そこはもしかしたらWebによって,距離が縮まったのか情報が開かれたのか。情報が多くなれば自然とどうしても質を問うでしょうし,質に対する情報が入ってくる。
阿保:
そうですよね,だからそういう意味ではおもしろいですよね。
前田:
だから質を提供するという姿勢が伴っていれば,逆を言うとWebを通じて伝わるという状況になるわけですよね。それが自然というか,良い関係を築く重要なポイントなのではないでしょうか。
対談を終えて~前田氏からのひとこと~
かねてから医療に関わる方と, 情報とそのつながりについてお話をしたいと考えていました。その理由は,肉体上の物理的な変化が何によって起こり,何の方法で治癒できるかの“関係性”を把握するには並大抵でない努力と検証コスト(人や実験動物の生命や数世代に渡る時間)が必要であり,Webが医学にどう貢献可能なのかを考えたかったからです。
また,今回の対談を通じて考えたことの1つは, Webのビジネスも医療と同じように, 単にユーザ(患者)の課題解決やエンターテイメント性だけでなく, 世の中にある真理(癌とは何か? 命とは何か? )も同時に考えるフェーズに移って来たのではないかとの認識でした。そういう意味では, Webビジネスに関わる私自身を“診療”していただけけたのかと思い,感謝しています(笑)

