WSEA(Web Site Expert Academia)

第19回 医療現場×Web業界のアナロジー ―Webビジネスを“診療”―(その3)

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まだ見えていない“つながり”

前田:

先ほども出ていましたが,お医者様からは常識的に見える情報なのに,ユーザからは見えない。そういったものを見えるしくみができないかという話。あと,こちらは非常に専門的だから患者側がそれ以上に期待をしているんじゃないかということと,そのギャップを埋めるものがないかということを,たとえば探すしくみであったり。そういうことは,もしかしたら,深刻な病気よりも人生を豊かにするような医療のほうに可能性があるのかなと感じます。でも,やはり露払いをするしくみがないと…一気に来られてもちょっと困りますよね(笑)。

校條:

そういう意味ではネットも進歩して,集中して来ないようなしくみをセグメントしたり,あるいは参加型,一定の関心を持っている人だけに参加しやすくしたりとか,しかけはずいぶん進歩していますよね。

前田:

最近,同じ病歴,看護歴を持つ人同士がコミュニケーションすることで支え合うしくみ,もしくはそういった体験を持つ人の話を聞くことのできるつながりを作るとか,そういうことに関心ある方とお会いしたのですが,そういうつながりというのは,(実際に病気に)ならないとわからないので,そのあたりはまだ見えていないつながりは多いんじゃないかという気はしますね。

校條:

そうですね,かたやそういう状況に直面している人は道具のことを知らない,道具を持っている人はその問題を自分で意識していない。もうちょっとこう両者のつながりが進むと良いですね。

阿保:

本当にそう思います。

前田:

知識と体験をつなげ,そこを太くして,またそれで共有して知らせ合うということができるツールとして,そこは必ずインターネットが重要になってくるところでしょうね。

重要なのは質の提供

関心空間代表取締役 前田邦宏氏。
「情報が多くなれば自然と質は問われる。
切磋琢磨する社会の方が良いのでは」

関心空間代表取締役 前田邦宏氏。「情報が多くなれば自然と質は問われる。切磋琢磨する社会の方が良いのでは」

前田:

一連のお話を,クリニックをWeb,患者をアクセスするユーザとするとWebの世界とかなり共通項があるかなと思います。

Webサイトの場合も,たぶん能動的に来るユーザが多いと思うんですよね。そのサイトを見る人というのは,ながらで見るのではなく,見たいものにどういうシェアがあるのかと思って来る。そのときに,管理者にとっての常識を,Webサイトとしてどう見せているか。これはユーザの求めている情報にマッチしていることもあればマッチしていないこともありますよね。

あとはそのアメリカの場合の話,患者さんの意識レベルが高い,置き換えてみれば見ればユーザの意識レベルが高いとすると,Webもまたそれは変わっていくのかなと。そういう共通項がすごくあるなと感じましたね。

校條:

そういうアナロジーはあるでしょうね。

前田:

あと,実際ネットにしても医療にしても,技術がどんどん進歩していって,ゴールはないのかなと思いつつ,どこかで線引きしないといけないという部分はあると思うんですが,そこに関して先生は何かありますか? ここまではやらなきゃいけないけれど,ここまでが現実的な解だっていう。

阿保:

非常に短絡的な話になってしまいますが,やはり人は死んでしまう。これは避けられない結末ですが,その死をできるだけ先に延ばす。その死に方を幸福に持っていくとか,いずれ死ぬけれどもそれまでの生活の質を高めて人生を幸福に送れるようにするとか,そのへんですかね,限界点というか目指せるところというのは。

前田:

生きる質という話なんでしょうかね。老いないで死ぬ,なるべく老いないで,健康なまま歳を経て, でも死ぬという…それが自然のあり方かどうかはわからないけれども,欲求としてすごくわかりますね。

実際に日本とアメリカだと患者さんの意識ってのはそんなに違うんですかね? 違うとしたらなにか理由があるんじゃないかと思うのですが。たとえばメディアの伝え方とか,文化とかもあると思うんですけれども。

阿保:

そうですね,そういう文化背景は大きいと思いますね。たとえば,皆さんご存知のとおり,向こうではお金を払っていないと救急車を呼べませんからね。この社会背景はまったく違いますよね。ですから自分が自分の健康を守るためには,より積極的に能動的に最低限の医療知識は身につけ,専門家にぶつけていかないとそれを享受できない,満足できるものを享受できないという意識は背景にはあるのかもしれないですね。

だから別に人の意識が高いということはないと思うんですよね。潜在的な意識や文化的背景があるからだと思います。冷静に考えると,医療行為としては,我々から一方的に提供するだけではなくて,個々の方々がそういう意識を持たれるということは非常に重要な点だと思いますね。

前田:

質を伝えたいという意識があるということは,逆に質を問うユーザを作ることだから,そこは切磋琢磨する社会のほうが良いとは思いますね。日本だと医師はお医者さまという存在が大きいですからね。

校條:

それは学校の先生だったり,そういういろんな専門家対消費者という構図は昔からありましたよね。

前田:

そこはもしかしたらWebによって,距離が縮まったのか情報が開かれたのか。情報が多くなれば自然とどうしても質を問うでしょうし,質に対する情報が入ってくる。

阿保:

そうですよね,だからそういう意味ではおもしろいですよね。

前田:

だから質を提供するという姿勢が伴っていれば,逆を言うとWebを通じて伝わるという状況になるわけですよね。それが自然というか,良い関係を築く重要なポイントなのではないでしょうか。

対談を終えて~前田氏からのひとこと~

かねてから医療に関わる方と, 情報とそのつながりについてお話をしたいと考えていました。その理由は,肉体上の物理的な変化が何によって起こり,何の方法で治癒できるかの関係性を把握するには並大抵でない努力と検証コスト(人や実験動物の生命や数世代に渡る時間)が必要であり,Webが医学にどう貢献可能なのかを考えたかったからです。

また,今回の対談を通じて考えたことの1つは, Webのビジネスも医療と同じように, 単にユーザ(患者)の課題解決やエンターテイメント性だけでなく, 世の中にある真理(癌とは何か? 命とは何か? )も同時に考えるフェーズに移って来たのではないかとの認識でした。そういう意味では, Webビジネスに関わる私自身を診療していただけけたのかと思い,感謝しています(笑)

著者プロフィール

阿保義久(あぼよしひさ)

 2000年北青山Dクリニックを設立。外科医としてのスキルを活かして日帰り手術を提供するだけでなく,病気を作らない予防医療,治癒が可能な段階で早期発見するための人間ドックの提供,生活の質を高めるための坑加齢医療・アンチエイジング療法まで,質の高い医療サービスの提供に励んでいる。現在,下肢静脈瘤や鼠径ヘルニアを中心に年間200例以上の日帰り手術を安全に行っており,精度の高い人間ドック,病気の発生を未然に防ぐ予防医療・抗加齢医療などを積極的に提供,精力的に理想とする医療環境の構築に励んでいる。2004年2月医療法人DAPを設立。


校條諭(めんじょうさとし)

 野村総研,ぴあ総研を経て1997年独立,ネットビジネスに取り組む。2005年(株)元気学校設立,『アンチエイジング・サロン』コーディネータとして執筆,インタビュー等を担当。『ノルディックウォーキング・ネットワーク』をオープン,“健脚社会”を提唱。(株)ネットラーニング社外取締役。著書(共著)は『健康ビジネス業界がわかる』(技術評論社)『メディアの先導者たち』(NECクリエイティブ)他。


前田邦宏(まえだくにひろ)

株式会社関心空間 代表取締役。1967年兵庫県宝塚生まれ。1990年より公共機関や企業向けデジタルコンテンツの企画制作ディレクションに従事。1998年ユニークアイディ設立(現:株式会社関心空間)。2001年クチコミ情報コミュニティサイト「関心空間」を発表。同年に関心空間エンジンを利用したASP事業を,また2005年よりメディア事業を開始。

受賞歴:
2002年10月「関心空間」にてグッドデザイン賞新領域デザイン部門入賞。
2005年9月日本広告主協会WebクリエーションアウォードWeb人賞受賞。

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