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【実践編】第1回 AUGMENTED CITY

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分散化・雑多な機能と即応性

武山:

先ほどお話ししたように,これまで地理学というのは,人間が暮らす環境について,空間や場所という切り口で研究されてきた分野です。そこに情報通信技術が入ったことで,情報空間,いわゆるバーチャルの世界の地理学が,地理学者の研究対象として新しくできたんです。

その一方で,Webやデジタルコンピューティングという世界が,もはや別世界ではなく,リアルな生活空間の中でいろんな影響を及ぼし始めてきている。Webが普及することで経済活動の基盤も変わってきますし,建築的な構造もどんどん変わってきています。どうもこれはバラバラで捉えるよりも,両方の相互作用や,融合した世界をこれから研究対象として取り上げていくべきじゃないかと問題意識が変わってきまして。

前田:

コンピューティングが入る前と入った後での街づくりや環境づくりは,大きくは何が違うのですか。

武山:

簡単に言うと,情報通信ネットワークがない時代は,いろんなモノや活動や施設を集積する原理が強く働くわけですよね。一ヵ所に集めてそれで都市というものができる。

Webが入ってきますと,ご存知のように分散化の力が働いてきますので,一通りのメッセージをやりとりするだけだと,必ずしも同じ街に住んでいる必要はなくなってくる。この活動については,ここに集まらなくても好きなところでやっても良いよ,という別のロジックが入ってくるんですね。そうすると,なるべく物理的に集まってやろうという論理と,好きなところで分散してできるよ,という両方の論理がかみ合わさって新しい経済活動の配置が決まってきたり,建物の移り方が変わってきたりするんです。

たとえば,Amazonのように倉庫は拠点をいくつか集めてあとは店頭をバーチャルで作ってしまえばどこからでも注文ができるわけで。そうすると物流や販売の仕方も変わっていくし。銀行なんかもATMが普及することでお金を出し入れする場所が分散化して,都市の経済活動も変わってくる。それがさらにユビキタス化が進んでくるともう一歩先のほうに行けるんじゃないかと。

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前田:

最終的にどうなるかという片鱗が見えている実例はありますかね。

武山:

私が注目しているのは携帯電話というメディアです。今,都市空間のもたらす働きやサービスと情報ネットワークからつながってくるサービスをうまく組み合わせながら生活をしている人が,モバイル化によってかなり増えてきていますよね。

前田:

今の学生さんたちなんてまさに携帯電話世代ですよね。個人的に自分の世代では考えられない接触の仕方とかはありますか?

武山:

最近ですと,PCをまったく使わないで携帯で全部済ませるという人がだいぶ増えてきていますね。電子メールも,私はPCで出すんですが,学生は携帯で。そうすると携帯は名乗らない文化ですから,たとえば⁠先生,◎時に相談に伺っても良いですか?⁠という内容のメールに対して⁠お前誰なんだ⁠と名前の確認から入ったり(笑)⁠

前田:

なるほど(笑)⁠

武山:

検索の仕方1つをとっても,PCを立ち上げてGoogleで検索するのと,TVを見ながら気になったことをすぐに携帯で検索するのとではだいぶ違う印象を受けますね。

前田:

それはライフスタイルやメンタリティにどういう影響を与えていると分析されます?

武山:

長期的に見ないと難しいですが,即応性というところですかね。その場で気になったことをすぐ調べたり,思ったことをすぐに行動に移したり。我々の世代の人間は,何かを行おうとするときに,きちんと計画を立てて準備をしようという習慣が付いていますが,彼らはすぐやっちゃう。すぐできる手段も持っていますし。そういう意味では起動力というのは高まっていると思いますね。もう少しちゃんとやってよ,というのもありますが(笑)⁠

こういう傾向があたりまえになったとき,効率的なものを映す鏡や価値観が少し変わってくるんじゃないかと思います。ですから,工業社会における計画的にきっちりと進めていくやり方を100%良しとして接していくと,逆にこれからの価値観を読み違えてしまう可能性もあるかなと,慎重に見ているところですね。

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前田:

その起動力がどんどん動き始めたら都市にどうやって返ってくるのかとか,未来のイメージはお持ちですか?

武山:

どんな場所でも活動ができるようになれば,あまり今のように用途に分けて空間作りをする必要はなくなってくる。むしろ,雑多な機能を持った空間作りをしたほうが,携帯世代の人達にとっては都合が良いんじゃないですかね。

前田:

それは具体的には?

武山:

オフィスも住宅もお店も大学のような場所も,かなり混合しているようなスタイルのほうが都合が良いのではと考えます。

前田:

たとえば今日の会場※注5とかもそうですよね。

武山:

かなりアナログっぽい空間ですが,ブロードバンドや無線LANもつながっている。キッチンもあってご飯も食べられるし,お酒も飲めるし,授業をすることもできちゃう。そうですね,こういう雰囲気はモバイルと親和性が高い気がしますね。

前田:

今日ここに来るいきさつも「たまたま空いているからここで」という(笑)⁠

武山:

そうですね(笑)⁠その場で決めて。

前田:

計画的ではない(笑)⁠

武山:

まずいですね(笑)⁠でもこういう偶然のインスピレーションというのは大事にしたいものですね。

三田の家

※注5)
三田の家慶應義塾大学の教員や学生と三田商店街振興組合が共同で運営している「大学の傍らにある,自主運営のラウンジ的な教室」⁠古くからある木造住宅を改築して使用している(写真参照)⁠

著者プロフィール

前田邦宏(まえだくにひろ)

株式会社関心空間 代表取締役。1967年兵庫県宝塚生まれ。1990年より公共機関や企業向けデジタルコンテンツの企画制作ディレクションに従事。1998年ユニークアイディ設立(現:株式会社関心空間)。2001年クチコミ情報コミュニティサイト「関心空間」を発表。同年に関心空間エンジンを利用したASP事業を,また2005年よりメディア事業を開始。

受賞歴:
2002年10月「関心空間」にてグッドデザイン賞新領域デザイン部門入賞。
2005年9月日本広告主協会WebクリエーションアウォードWeb人賞受賞。

武山政直(たけやままさなお)

慶應義塾大学経済学部准教授

都市生活に浸透する様々な情報メディアの可能性について,消費者行動調査や空間分析,メディアデザインの観点から境界横断的な研究を行っている。慶應義塾大学経済学部卒業後,米カリフォルニア大に留学しPh.D.取得。

慶應義塾大学環境情報学部助手,武蔵工業大学環境情報学部助教授を経て現職に。

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