WSEA(Web Site Expert Academia)
【実践編】第4回 関心から感動へ
毎回,さまざまな分野の方をゲストに迎え『関心空間』代表取締役 前田邦宏氏との対談をお届けする『Web Site Expert Academia』。
今回の対談場所は,なんとアメリカ! マサチューセッツ工科大学メディアラボ教授 石井 裕氏との対談を,いつもよりもボリュームを増してお届けします。
MITメディアラボ
前田:
個人的な話なのですが,13年前,知り合いを訪ねてここに来たことがあります。私自身,Stewart Brandが書いた『メディアラボ(注1)』を読んで「ここに行けるんだ」と思い,興奮した記憶があります。'95年の1月ごろで,まだ私自身もWebには詳しくはなかったものの,同時に強い可能性を感じていました。そこで,「Webがこれからおもしろくなっていくけど,みんなどんな風に接しているの?」「Webについての良い本はないの?」などと質問したところ,「WebのことはWebに聞くのが一番だよ」とあっさり言われ,愕然としました。13年前にここで触れた,そういったWebのカルチャーというものが起点になって,この仕事にのめり込むようになったのです。
石井:
なるほど,ここへの訪問が今の仕事のきっかけになった,と。
前田:
そうですね,当時はメディアラボとATG (Art Technology Group, Inc.)というMITの卒業生が中心になって作った会社に往訪しました。ATGではOXYGENというコミュニケーションツールを作っていました。当時PPPで接続していた私に比べ,今のSkypeやTwitterを使うようにWebを活用してコミュニケーションをとりながら仕事をしている彼らの姿を見て,カルチャーショックを受けました。
当時からすでに,メディアラボには“Inventing a better future”というコンセプトはあったと思います。そもそも,メディアラボはどのような目的をもって設立された研究所なのでしょうか?
石井:
メディアラボは,基本的に,未来について研究するところと言えます。アラン・ケイの言葉である“The best way to predict the future is to invent it.”~未来を予言する最良の方法は,未来を創造することである~をよく引用しますが,天気予報やマーケティングのように観察から予測するのではなく,夢に描いた未来を実際にプロトタイビングとして形にし,それを他の人にも体験してもらい,選びとってもらうこと。つまり,当たるか当たらないかではなく,自分たちで創りだし,人々に納得してもらうとともにイメージをふくらませてもらい,未来への流れを創りだすこと。それがメディアラボの基本的なスタンスです。
逆に言うと,すでにメインストリームになってしまったものは追わない,そういう研究所です。
前田:
所属する学生にそのようなマインドを持ってもらうために,最初はどのようなメッセージを送るのでしょうか? そして,どのように導いていくのでしょうか?
石井:
幸い,メディアラボには世界中から優秀な学生が願書を送ってくれます。そして創造性を発揮できる学生かどうかは,ポートフォリオを見れば自明です。面接でも,3分も話せばどのようなクリエイティビティを持っているのかはだいたいわかります。
そういう意味で,ここに来てから方法を教えるのではなく,はじめからそういう資質を持った人を選ぶようにつとめています。
- 注1)
- 『メディアラボ』Stewart Brand著,福武書店(1998)
Things That Think, Tangible Bits
前田:
具体的に,石井先生の作品のコンセプトであるTangible Bitsや,Things That Thinkについてお話しいただけますか。
石井:
未来を映し出すビジョンは時代とともに変わってきます。'70年代にはNegroponteが提唱した,デジタルコンバージェンスと呼ばれるビジョンがありました。このビジョンに対する次のパラダイムとして,Things That Thinkというメディアラボの新しいコンソーシアム活動が'95年ころから開始しました。
デジタルコンバージェンスとは,「通信・出版・計算技術といったバラバラだった業界が,デジタルというテクノロジーをベースにインテグレートされていくだろう」という予見でした。それによって消えていく大陸もあるし,新しく現れる大陸もあるというような,いわば産業界のプレートテクトニクスとも言うべきパラダイムシフトが起こるだろうということを'70年代に予見し,そのビジョンをもとに'80年代にMITにメディアラボが開設されました。'90年代には,そのようなビジョンが実際に起こるところを私たちは見てきたわけです。
そのころのNegroponteの著書『Being Digital(注2)』に代表されるように,「デジタルはすばらしい」という大きな流れがありました。しかし,それに対する揺り戻しとして,私たちが生きている空間や身体,つまりアナログでフィジカルな空間に対してデジタルへのトンネルが通じているような状況を設定したことが,私の研究 “Tangible Bits”のスタートになっています。
デジタルなビットと,アナログなアトムの融合が次のテーマになるだろう,ということで,Things That Think,一般的な言葉で言うと,“ユビキタスコンピューティング”を考え始めました。Tangible Bitsというコンセプトは,さらに,ヒューマン・コンピュータ・インタラクションの立場から,ビットとアトムの世界の融合を目指して始めたプロジェクトです。
前田:
コンセプトはとてもわかりやすいのですが,日常生活に入ってきた際にどのような変化があるのか,ちょっとわかりにくいところもあります。具体的にはどのような変化を狙った研究なのでしょうか。
石井:
現在,ビジネスとしてのWebは盛り上がっていて,振り子はそちら側に大きく振れていることが,私たちの研究にとってはチャンスとなります。現在のWeb上で実現しやすいビジネスは,私たちの「アトム」というコンセプトから離れたところで,コストが安くスケーラビリティはあるものの,変わったハードウエアやメカトロニクスとは無縁になってしまっている,そんな状況であると言えます。メインストリームを追うのではなく,その次に来てほしい波を創りだすことが,私達の研究テーマです。
そして,この研究がつながる先ですが,私たちのメッセージをどう発展させる人が出てくるのかにかかっていると言えます。
- 注2)
- 『Being Digital』Nicholas Negroponte著, Alfred a Knopf(1995)


