一般記事

【イベント開催連動企画】社会に浸透するIoT ~エンジニアが主人公になる時代がやってきた

この記事を読むのに必要な時間:およそ 4 分

IoTシステムを活用した事例

(片山暁雄)

このように技術面の発達が進む中で,実際にIoTシステムを導入し,ビジネス改革を実現する企業も増えてきました。ビジネス誌にもIoT事例が取り上げられるケースが多くなってきましたが,最近の事例で特に興味深かったのが,有限会社協同ファームのものです。

協同ファームは年間で5千頭の豚を出荷する養豚場で,現在この生産量を上げるために規模拡大の工事をされていますが,単に規模を増やすのではなく,今までと同じ従業員数で現在の2倍の生産量に対応できる仕組みを作るために,IoTを活用しています。

導入の流れ

愛情を持って豚を育てるために,人が豚に接する時間を増やしたいという従業員の思いがある中,実際には自動給餌器や自動除糞装置などの故障,水道管の水漏れや排水溝の詰まりなど,養豚設備のメンテナンスに多くの時間を使ってしまうという現実がありました。

そこで同社では生産性を2倍にするために何をしたらよいかを検討しました。まずは設備メンテナンスの時間を減らすところにIoTシステムを活用できないかと考え,九州のシステムインテグレーターである株式会社システムフォレストに調査を依頼。同時に,養豚所の各種設備の状況を把握できるIoTシステムのPoC(Proof of Concept:概念実証)を開始しました。IT全般のコンサルティング契約という形で,協同ファームの日高義暢社長とアイデアを議論し,そのアイデアの中から活用できそうなものはすぐ発注してすぐに試しているそうです。

実装例

流量計を使った給水状況をモニタリングする仕組みや,餌の供給管理と消費量をリアルタイムに把握する仕組み,集糞装置の稼働管理の把握や温度・湿度・CO2などの環境情報を取得する仕組みなどがあります図6~図8⁠。

図6 協同ファームが実現した設備のモニタリング1(水道管のトラブル)

図6 協同ファームが実現した設備のモニタリング1(水道管のトラブル)

図7 協同ファームが実現した設備のモニタリング2(集糞設備ワイヤーの損耗)

図7 協同ファームが実現した設備のモニタリング2(集糞設備ワイヤーの損耗)

図8 協同ファームが実現した設備のモニタリング3(各種設備の老朽化)

図8 協同ファームが実現した設備のモニタリング3(各種設備の老朽化)

養豚場の現場には,ゲートウェイとしてぷらっとホーム株式会社のOpen Blocks BX1を設置し,3G/LTE通信を行うためにSORACOM AirSORACOM Funnelを利用。データ収集/可視化のツールにウイングアーク1st株式会社のMotion Boardを採用しました。実際に図9のようにMotion Boardで各種数値が可視化できるところまで,わずか2週間程度で構築できたそうです。

図9 Motion Boardで制作したダッシュボード

図9 Motion Boardで制作したダッシュボード

このような仕組みで得られた情報はダッシュボードにリアルタイムに反映され,全従業員が携帯するスマートフォンでいつでも確認できます。また,LINEなどを使って,重要なアラートを通知する仕組みも構築されています図10⁠。

図10 LINEでの通知

図10 LINEでの通知

導入の効果

新たにIoTシステムを導入したことによって,以前は現場を回らないと確認できなかった設備の状況がリアルタイムに把握できるようになり,いち早く設備の修繕が必要な箇所を把握し対応できるようになりました。

このほかにも,水量計の情報から豚がどの時間にどのぐらい水を飲んでいるのか,いつごろから活動しているのかという情報がわかるようになったりしました。また,温度や湿度などの環境情報から,以前は従業員が見たり食べたりして管理していた豚肉の品質の変化を,環境情報の変化によって予兆に気がついたりできるようになるという副次的なメリットがあったそうです。

導入にあたっては,設置する環境に対する制約,たとえば豚舎の洗浄のために防水が必要であったり,アンモニアなどの特殊な成分が多い場所にIoTデバイスを配置するためのデバイス設計や設置で工夫が必要でした。これらについても現場でのトライ&エラーで改善していったそうです。

この事例からは,IoTシステムの構築/導入にあたって,次のような点で参考になります。

  • IoTシステムの導入により,実現したい目標が明確にある
  • 事業とシステムの担当者双方がアイデアを出し合い,すぐに試す。それを繰り返し行いつつ改善する
  • 必要な部分以外は作り込まず,既存の仕組みで利用できるものはそのまま利用し,短期間で動くものを作る
  • 集めたデータから,副次的に別のメリットを見つけ,さらにそれを活かす

IoTシステムの導入でよく見かけるのが,明確な目標もないまま机上の設計を繰り返したり,IoTシステム自体の導入自体が目標になってしまい,ビジネスと開発が噛み合わないために効果が出ないというアンチパターンです。この事例では,関係者全員が一体となりトライアンドエラーを繰り返すことでメリットを出した良例です。いったんデータが集まる仕組みができあがると,それをさらに活用したシステム作りを継続的に行うことができるようになります。IoTシステムを構築している企業と構築していない企業とでは大きな差が生じることになります。

エンジニアが主人公になる時代

(小泉耕二)

これまでのITのサービスでは,⁠ビジネスを企画する人」「テクノロジーによって実現する人」が別の場合が多かったのですが,IoTの時代ではエンジニアでなければビジネスを生み出すことが難しい状況になります。なぜなら,実際にモノとモノをつなぎ,協働させるには,技術的なチャレンジが多く存在するからです。

やりたいことを実現するために,どのクラウドサービス,ネットワークを選択するのか,相互接続性の高い既存のサービスや製品はないかなど,多くの「実現性のある手段」を持っているエンジニアでないと,サービス開始までの時間がかかるだけでなく,無駄な投資もかさむこととなるのです。

そして,これからのビジネスは,テクノロジーのトレンドへの理解も重要です。たとえば,クラウドが流行ったからといって,すべてのことをクラウドで処理しようという考え方はナンセンスです。多くのデバイスが一気にクラウドに接続してきた場合,それらのトランザクションはどうさばけばよいのでしょうか。動画データのような重いデータは全部クラウドにあげないといけないのでしょうか。

実際にIoTのプロジェクトが増える中,こういった個別具体的な課題を解決する必要ができ,結果的にエッジコンピューティング(デバイス側での処理)に注目が集まるケースも増えてきています。

つまり,経営者にとってみれば,得意分野の技術力だけでなく,広範囲な知識と,相互接続性の高い製品やサービスに対する見識,テクノロジーのトレンドに対する先見性を持ったエンジニアがいなければ,ビジネスは立ち上がらないどころか,迷走することになるのです。

こういうと,⁠やることが多くて大変だな」と思う人もいるでしょう。しかし,皆さんが,その専門性を磨きつつ,広範囲な知識と経験を持つことで,エンジニアの未来は無限大に拓けていくのです。

最新のIoT関連技術を1日で学べるイベント「SORACOM Technology Camp 2018」開催!

画像

SORACOM Technology Camp 2018
URL:https://technology-camp2018.soracom.jp/

著者プロフィール

片山暁雄(かたやまあきお)

現職は(株)ソラコムで自社サービス用のソフトウェア開発/運用に携わる。前職はAWSにて,ソリューションアーキテクトとして企業のクラウド利用の提案/設計支援活動を行う。好きなプログラミング言語はJava。

Facebook:https://www.facebook.com/c9katayama
GitHub:c9katayama
Twitter:@c9katayama


小泉耕二(こいずみこうじ)

IoTNEWS 代表,株式会社アールジーン代表取締役。大阪大学でニューロコンピューティングを学び,アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)他,数社でのコンサルティング業務を経て現職。 著書に『2時間でわかる 図解「IoT」ビジネス入門』(あさ出版)がある。

バックナンバー

IoT

  • 【イベント開催連動企画】社会に浸透するIoT ~エンジニアが主人公になる時代がやってきた