新春特別企画

2011年のソーシャルWeb(後編)−企業によるソーシャルメディアの利用−

昨日の前編に引き続き、今年2011年のソーシャルWebがどうなっていくのかを考えていきます。

企業によるソーシャルメディアの利用

さて、前回は対ユーザの話を中心としてきました。ここからは、対企業の話をしていきましょう。

昨年までのソーシャルとは、ソーシャルアプリケーションを中心としたものであり、アプリケーション開発企業とユーザとの関係で語られるものでした。今年は、大小問わず多くの企業が、ソーシャルグラフを使ったマーケティングを盛んに行うようになるでしょう。もちろん昨年においてもTwitterを始めとするいわゆるソーシャルメディアの活用は実験的に行われてきましたが、今年から行われる活用はより本格的なものになると予想できます。

企業向けページの登場

すでにソーシャルという分野がマーケティングの上で非常に重要であることは、日本においても認識され始めていると思います。ただし、ソーシャルグラフを使うことはそう簡単なことではありません。ソーシャルグラフの開放がされたとしても、それがすぐに企業のWebサービスに反映されることは現実的ではないでしょう。

そのため、ソーシャル化を実現するために必要な機能一式を手軽に利用できる企業向けページの設置サービスが、今年いくつかのSNSで開始されます。すでにmixiもそういったサービスを始めることを表明しています。すでに欧米では、ほとんどの企業がFacebook Pages上でページを開設し、ソーシャルグラフを使ったマーケティングを実施し成果を上げています。日本においても、mixiが提供するであろうサービス、Facebook Pages、その他SNSが提供するかもしれないそのようなサービスのいずれかを利用することで、一般企業がソーシャルを活用し始めるようになるでしょう。

イメージとしては、各企業が独自に持つWebサイトとは別に、SNS上に「出張ページ」を設置することになります。その出張ページから見れば、各企業のWebサイト上に掲載される情報は、マーケティングの対象となる「コンテンツ」と位置づけられるでしょう。それらのコンテンツについて出張ページでユーザに情報発信することで、それをユーザがどう感じ、そしてどういったユーザにそれが伝達されていくかが、手に取るように把握することができるようになります。これは、単にWebサイトを開設してSEOを頑張るだけでは手に入らない情報であり、例え企業自らが会員登録などの機能を実装して情報収集をするにしても、そのコストは非常に高いものになってしまうでしょう。出張ページにてソーシャル化に注力する分、企業がすでに持つWebサイトでは別の方向性に注力することができるというメリットも生まれます。企業にとってその出張ページを低コストで利用できることは、今まで喉から手が出るほど欲しかったものではないでしょうか。

もちろん、単に出張ページを作っただけでは最大限の効果は出ません。ソーシャル性という新しい特性を理解し、ソーシャルグラフを効果的に利用し「ユーザの心を動かしコミュニケーションを継続させるようにする」という命題が、出張ページ開設者に課せられます。今年の終わりの頃には、そういったノウハウが徐々に語られるようになってくると想像できます。

各企業ページでは、ソーシャルグラフや各種コンテンツを扱うためのAPI、そしてユーザに情報発信することやユーザからのフィードバックを得るためのAPIといったものを使ったアプリケーションを配置することができるようになると予想できます。昨年のソーシャルアプリケーションとは形態が異なるものですが、これはこれで今年新しい市場形成がされるものと思っています。

ソーシャルコマース

企業はソーシャルグラフをマーケティングだけでなく「コマース」においても、今年から導入を考え始めるのではないかと考えられます。つまり、最終的に商品が購入されるまでの過程においてソーシャルグラフが有効であるかどうかが、今年は盛んに実験され、そして実証される年になるのではないかと思います。

ユーザを商品の購入に結びつけるために、多くのコマースサイトでは「口コミ」「レビュー」といった機能を実装しています。これは、商品を購入するかどうかの判断材料として、他人の意見を取り入れることでその確度をあげようという試みです。これは一定の成果を上げることができたと考えられますが、やはり他人の意見であり、その信憑性を常に考えながら読まないといけないものでした。

しかし、ソーシャルグラフを利用することで、口コミやレビューの情報発信者が「友人・知人」となります。つまり、発信された情報の信頼性を、発信者がどういった人なのかを加味することで、より的確に判断することができるようになるということになります。例えば、ある商品を10人の人が「これはすごい」と言ったことと、ある友人一人が「これはすごい」と言ったこととでは、実は後者の方が信頼できるケースが多いのではないでしょうか。もちろん「この人が言うってことは、大してすごくないかも」という推測も結果として可能です。そして、そのユーザが商品を購入し、その結果どう思ったかを再投稿されることで、さらに他の友人に伝わり商品の購入が進む可能性が出てきます。そういった連鎖が蓄積されることにより、より確度の高いレコメンドもできるようになるでしょう。

そして、グルーポンに代表される「グループ購入/利用」も、友人・知人といったソーシャルグラフがあってこそ成り立つビジネスです。現時点では「どうやら効果が高いらしい」という認識がある程度ですが、今年はそれが確固たる地位を得るでしょう。そして多くのコマースサイトが、開放されたソーシャルグラフを利用してビジネスの幅を広げていくものと思われます。

ソーシャルサービス間連携

昨年までは、各プラットフォームがそれぞれ立ち上がった年でした。今年は、ユーザや企業がソーシャルからより大きなメリットを得ることができるように、様々な工夫が試される年になりそうです。

その中の一つとして、サービス間連携が積極的に行われると想像できます。これは、以下のような動機から行われるでしょう。

  • 複数のソーシャルサービスを利用している人を媒介して情報が広く伝達されるようにしたい
  • 異なるソーシャルサービスでも、コミュニケーションが継続されるようにしたい

すでにTwitterと多くのSNSが連携をしていますが、今年は単に「Twitterの発言を取り込めます」という範囲では収まらず、Twitterへ積極的に発言が転送され、そのSNSとTwitterのどちらを見てもコミュニケーションが連続しているように見える、そういった連携が行われるのではないかと思っています。Facebookとmixiかもしれません。モバゲータウンとGREEかもしれません。そういった連携がされることで、結果として大きなコミュニケーションの場が構築されると見ています。

これは、ユーザにとっても企業にとっても嬉しい環境ではないかと思います。ユーザにとっては、メインで利用しているサービスに他サービスの情報が入ってくるために、利便性の向上が見込めます。そして企業にとっても、コミュニケーションが他サービスにも及ぶことで、広告的な性質を持つコンテンツやフィードとそれに関連したユーザの感情がバイラルすることで、マーケティング効果や商品購入といった結果を得やすくなることでしょう。ユーザのコミュニケーションにおいて、必ずそのネタのランディングページが引き継がれることになりますので、そのランディングページをどのように提供するか(企業ページやソーシャルサービスにてリダイレクトされるなど)は重要なポイントとなるでしょう。

連携のための技術確立

ソーシャルグラフを持つシステム間、またはソーシャルグラフを利用するシステム間において、フィードのやり取りをリアルタイムに行うための技術仕様は、すでに一昨年には仕様策定が開始されていました。⁠Salmon Protocol」⁠PubSubHubbub」⁠WebFinger」などがそれにあたります。しかし、現在においてはGoogle Buzzにその実装があるだけで、どのSNSもそれをサポートするに至ってはいません。

これは、⁠そこまでの需要がビジネスにおいて見えていない」ことが原因ではないかと私は見ています。もちろんユーザがインターネットを利用することに対する利便性の向上のみを考えれば、連携しない手はないでしょう。しかし、上記で述べてきた企業のソーシャルへの参加がこれからである現在においては、安易に連携を進めてしまうことは各SNSにおいて得策ではないと判断しているのではないでしょうか。

今年は様々な取り組みから、ソーシャルグラフの活用がビジネス面において見えてくる年になります。それを踏まえた上での連携となると予想できるため、実際には今年の後半、または年末にかけてやっと積極的な連携が検討されるにとどまるのではないかと思っています。

まとめ

今年は企業のソーシャル分野への参加が始まり、昨年に比べてソーシャルというキーワードはさらに幅広い使われ方をするようになるでしょう。そして、スマートフォンというデバイスの普及が進み、ユーザはより身近にソーシャルを感じるようになるはずです。様々な場所で自分の情報が使われることによるユーザの不安が懸念となりますが、それを上回る魅力的なソーシャルネットが今年から始まると期待しています。

開発者にとっては、今年からはソーシャルグラフを利用する機会が増えてくるのではないかと思っています。つまり、昨年までのように「ソーシャルアプリケーションを作ってる人が考えること」という対岸の火事ではなく、おそらく今年の後半からは、業種業態問わず、目の前にある開発中のサービスやアプリケーションにおいて「ソーシャルグラフをどう使うか」を考えなければならなくなります。

もちろんこれは、開発者としてのプレゼンスをあげる絶好のチャンスでもあります。多くの開発者に、ソーシャルという波に乗り遅れることなく、積極的なソーシャルグラフの活用を望みます。そして、共にソーシャルWebの実現に向けて今年も多くの開発者の方々と歩んで行けたらと願ってやみません。

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