新春特別企画

2012年のソーシャルWeb

あけましておめでとうございます。よういちろう です。新春企画でソーシャルというキーワードを担当して今年で3年目となりました。さっそく2012年のソーシャルWebがどうなっていくのか、占っていきたいと思います。

前回、そして前々回にどんなことを書いていたか気になる方は、以下のリンクからお読みください。

ソーシャルゲーム分野

まずは、IT業界において昨年最も注目を集めたソーシャルゲーム分野を取り上げます。

ソーシャルゲーム市場拡大の鈍化

インターネットにおける2011年度の最大の出来事、それはソーシャルゲーム市場の急速な拡大でした。その代表格がGREEおよびモバゲータウンであったことは、誰の目にも明らかでした。一昨年のソーシャルゲームの市場規模は1036億円という発表がされましたが、昨年は2385億円で着地したと見られています。これは2010年から2.3倍の伸び率であり、さらに2009年からすると約7.9倍に拡大しました。

三菱UFJモルガンスタンレー証券による今後の国内ソーシャルゲームの市場規模予測では、今年以降もこの市場は成長を続け、来年度には4000億円に到達すると発表されています。伸び率では、今年末で前年比42%、今年末から来年末では20%という予測です。

これはソーシャルゲーム市場が大きく評価されている結果と言えますが、現実にはこのような伸びは記録されないと思っています。つまり、国内の市場規模は継続的に大きくなるとは言え、昨年のような急拡大は起きず、さらに三菱UFJモルガンスタンレー証券の予測を下回る結果になると考えています。その根拠は以下です。

  • ソーシャルゲーム利用ユーザ数の飽和
  • 主要ソーシャルゲームベンダーのグローバル展開の加速
  • マネタイズ主導による利用ユーザ層の固定

コンシューマ向けゲーム機やスマートフォン向けのゲームアプリなどでは、タイトルあたりの制作費が年々大きくなり、その結果携帯ゲーム機などで「低コストな開発費でより多くのユーザが持つ端末をターゲットに」という方向性が非常に強くなっています。現在流行しているソーシャルゲームのほとんどは「カードゲーム」の延長上にあり、これはコンシューマ向けゲームを開発していた企業の方向性ととても一致します。そのため、ソーシャルゲーム市場に今年は数多くの新規タイトルがそういった企業から盛んに投入されるでしょう。しかし、それがソーシャルゲーム市場の拡大に寄与する割合はそう多くなく、鈍化を止められるほどのインパクトは発生しないでしょう。

普及期と言える期間は昨年までで終わり、今年からは「固定化した利用ユーザ(特に課金ユーザ)のシェアの奪い合い」という市場と捉えた方が正確ではないかと考えます。⁠消費量増加率の減少」「市場参入の増加」という相反する方向性となるため、競争は昨年以上に加速するでしょう。

ソーシャルゲームの技術的進化も鈍いものに

mixiがPC向けソーシャルアプリケーションを開始した2009年8月から今日まで、新しいデバイスに向けた対応スピードは世界でも類を見ないほど日本は速いものでした。PC向けには、OpenSocial Specificationおよびその参照実装であるApache Shindigを使ってプラットフォームが構築されました。フィーチャーフォン向けには、プロキシモデルのアーキテクチャが独自に策定され、これはOpenSocial WAP extensionとしてopensocial.orgに正式にフィードバックされました。スマートフォン向けには、Webブラウザ上ではiframe+RESTful API、ネイティブアプリケーション向けには各社がSDKの提供やngCoreまたはOpenFeintなどのゲームエンジンが採用されています。

全体を考えた場合、ほとんど互換性がないように見えますが、特にAPIの分野においては各社がOpenSocialをベースにしているため、最低限の可搬性が確保されている状態です。特にゲーム分野であれば、表現力や2D、3Dといったグラフィック性能が非常に重要であり、各社がゲームエンジンを買収し力を入れているのは必然であると言えるでしょう。昨年であれば、多くのユーザに使われてきたソーシャルゲームはWebブラウザ(またはWebkit)上で動作するものであり、ページ遷移および部分的に効果的なアニメーションを入れた構成がほとんどでした。今年は多くの大手ゲームメーカーから、ゲームエンジンを使ったリッチなソーシャルゲームが登場するはずです。

ただし、これが商業的に成功するかどうかは、非常に懐疑的です。それは、AppStoreやAndroid Marketが定める規約やガイドラインにソーシャルゲームプラットフォームが縛られることになり、課金に対する整備を自由に行うことができないことが大きな要因です。プラットフォームに更にプラットフォームを乗せようということですので、ベースとなるプラットフォームの規約変更によってビジネスが潰されるリスクは無視できません。このため、比較的影響を受けづらいWebブラウザベースでのプラットフォーム構築は、今年もなくなることなく、むしろ中心的な立ち位置となる可能性が高いと考えられます。グレーゾーンである「アプリ内Webkit利用」が増えるかもしれませんが、これも時間の問題かもしれません。

ゲームエンジンを備えた各ソーシャルゲームについては、今年その提供本数は昨年に比べて飛躍的に伸びるでしょう。しかし、各ソーシャルネットワーキングサービスでは、収益率を見てWebブラウザベースでのプラットフォーム構築に昨年以上の力を注ぐはずであり、その結果今年はソーシャルゲーム向けにHTML5を中心としたWeb標準技術の適用が進むことが予想されます。ソーシャルゲーム提供ベンダーは、どちらも対応を求められる非常に厳しい状況に置かれますので、開発コストをできるだけ下げる意味において、Androidアプリ、iOSアプリ、そしてHTML5アプリの3つを同時にサポート可能な環境がより多く使われるようになるでしょう。そういったゲームエンジンの取捨選択が進むのも、今年かもしれません。

OpenSocialはどこに?

ソーシャルアプリケーション分野を牽引してきた標準仕様、それはOpenSocialでした。今でもmixiやYahoo!モバゲーではこのOpenSocial準拠であり、フィーチャーフォン向けにもOpenSocialが適用されています。各種APIの仕様においても、OpenSocial RESTful APIが大きな影響を現在でも与えています。

ただし、昨年のOpenSocial Union Eventでも感じたことですが、現在のOpenSocialの仕様策定の方向性はエンタープライズ領域での適用を目指したものが多く、エンターテイメント向けの仕様としては十分に枯れている、という印象があります。そのため、現在バージョン2.0.1が最新ですが、全ての仕様を満たしているソーシャルネットワーキングサービスは皆無といってもいいでしょう。実際にはバージョン0.9もしくは1.0のサポートがほとんどです。

さらに、スマートフォン向けのプラットフォームにおいては、iframeとAPIの組み合わせが主流であり、AndroidアプリやiOSアプリにおいてはソーシャルネットワーキングサービスごとに異なる仕様が採用されています。そのため、スマートフォンの普及率に従って、OpenSocialの優位性は下がる一方だと考えて良いでしょう。今年はそれが加速する1年になると予想できます。

その代わりに、OpenSocialを構成している要素であるPortable ContactsおよびActivity Streamsは、個別にその重要性が今年大きく向上すると考えられます。これについてはソーシャルゲーム分野に限定されない話ですので、後述します。

ソーシャルメディア分野

次に、こちらも昨年最も注目を浴びたソーシャルメディア分野を考えてみましょう。

Google+の躍進

昨年のソーシャルメディア界での最も大きなニュースは、Googleが6月末にGoogle+をリリースしたことでしょう。FacebookやTwitter、日本ではmixi、GREE、Mobageが牽引してきたソーシャル分野に、本格的に参入してきたわけです。サークルの考え方は、ユーザの情報投稿のしやすさに大きく貢献しています。そして最初からスマートフォンにターゲットしてきている点においても、後発の利点を生かしてきたと言えるでしょう。11月にはGoogle+ページも作成できるようになり、着実に進化を遂げています。

しかし、エンジニアからすると、思ったよりもGoogle+は何もできないという印象を持っているのではないでしょうか? Google+ Platformが既に公開されていますが、APIで扱える範囲は「一般公開設定された情報の検索、取得」のみにとどまっています。また、サードパーティ製のゲームもいくつか提供されていますが、これも自由に開発できるわけではありません。

この不自由さは、GoogleがGoogle+を非常に大事に取り扱っている証拠と言えるでしょう。情報の投稿を簡単に許してしまっては、各ユーザのフィードストリームはスパムで埋まってしまいます。また、本来特定のユーザしか閲覧できない情報が第3者に漏れる危険性もあります。これらの課題をクリアするためには、ユーザが違和感を持たないようにするための様々な工夫を施す必要があります。これは簡単なことではなく、そして歴史も浅いプロダクトにおいては、それなりに時間がかかることは仕方のないことです。

Google+がこのままのプラットフォームレベルで他のプロダクトと連携を深くし機能強化を図っていくことも考えられるでしょう。しかし、今までのGoogleのやり方からして、そのような範囲で収まるはずはありません。今年の早い段階で、上記のような懸念が解決された状態で、プラットフォームが広く公開されることでしょう。すでにOAuth 2.0やActivity Streams、Portable Contactsといった標準仕様が採用されていますので、今後のソーシャルWebを牽引していくための技術確立はGoogle+から行われていくと考えて良いと思います。Googleは、Google+を単独で考えているのではなく、他の非ソーシャルなプロダクト群とセットで設計を進めていくはずです。そういった面においても、ソーシャルWebの基盤となる技術要素が今年は次々と提案され、そして実現に向けての試みをいくつか見ることができると期待できます。

ソーシャルページの本格利用

企業がソーシャルメディアを利用する上で、何を使ってそれを行うかは非常に難しい問題です。昨年はその選択肢が出揃ったと言えます。

  • Twitter
  • Facebook Pages
  • mixiページ
  • Google+ Page

Twitterはその機能のシンプルさもあり、今では多くの企業がTwitterのアカウントを作って日々ニュースを流しています。そして、多くのユーザがTwitterで好きな企業やブランドなどのアカウントをフォローし、流される情報を得ています。ユーザからのフィードバックをどれだけ得られるかは他のものに比べて弱く、マーケティングとしてはそれほど強力とは言えないでしょう。しかし、確立された情報のバイラル機構としては、今年も安定した使われ方をすると予想できます。

問題は、他の3つの「ソーシャルページ」です。今年の傾向は、昨年に引き続いて「企業がソーシャルページを作り、そして使いこなせずに撤退あるいは放置される」という事案が、残念ながら多く見受けられるようになると考えられます。

上記3つのどれにしても、ページを開設することが非常に簡単です。そして、情報投稿も簡単にできます。これらだけであればTwitterを使った場合とほとんど同じですが、ソーシャルページではもっとリッチなことができます。Facebookやmixiページでは、ページに好きなアプリケーションを貼り付けることもできますし、APIを使ってページの情報を外部で扱うことも可能です。さらに、ページの訪問者の属性を分析することも今年から細かくできるようになると予想されるため、使いこなすことができるようになれば、これほど強力なツールはないと言えます。

ただし、あまりにも自由かつ柔軟なために、ページの開設直後から「何をしていいかわからない」という状況に陥ってしまうことがほとんどでしょう。昨年から多くの人が「Facebook Pagesでページを作ってソーシャルマーケティングしよう!」「目的と手段」を履き違えた呼びかけをしているのが原因なのですが、これが正されるようになるには少なくとも半年費やしてしまうことでしょう。後半になれば良い事例がいくつか聞こえてくるようになり、流行を単に追っているだけの声は徐々に少なくなってくるはずです。

そのため、プラットフォーム側も「用途、業種、業界」向けに、ソーシャルページをラップして特化させた形のレイヤを構成することになるでしょう。

ソーシャルページでの炎上とその対策

「単にページを作って情報投稿をすれば良い、簡単だ!」と考えて参入してくる企業は今年増えますが、これによって「炎上」するページも多く見受けられるようになるでしょう。せっかくブランドの認知やイメージを向上させようとしてページを作ったとしても、ソーシャル性がネガティブに働くことで、一端炎上してしまえば致命的なダメージとなってしまいます。

これについて、どのソーシャルページも炎上に対するサポートはとても弱く、現在はページの作成側に相当なリスクヘッジを求める状況であると言えます。プラットフォーム側でも炎上したときのためのサポート体制や機能が今年はより求められることになるでしょう。そして、これは「ソーシャルネットワーキングサービス側が何とかしてくれる」という性質のものとは完全に言えないため、炎上を予測可能なアルゴリズムの発見およびそれを実装した監視アプリケーションの登場が今年起きるでしょう。

もちろん、各ソーシャルページでそれに必要な情報取得のためのAPIは既に提供されています。上記の懸念が払拭可能となるかどうか、それは逆に言うと開発者が持つチャンスと言えるでしょう。

行動の蓄積とユーザ認証

ソーシャルマーケティングの現在におけるユースケースは、例えば以下のようなものでしょう。

  • 商品の情報を投稿する。
  • その情報にユーザが関心を持つ。
  • 関心を持ったユーザの属性を分析する。

これにより、関心を持つユーザ層がどういった属性(年齢層、性別、地域など)なのかを知ることができます。Twitterで企業のアカウントをフォローしたり、企業のソーシャルページをフォローすることによって、関心を持つユーザの集合ができるわけです。

これが進んで、ユーザからの有益なフィードバックを如何にして得ることができるか、という点について、昨年は各企業が模索した一年でした。これは炎上と紙一重であり、バランスを取ることは非常に難しいです。そして昨年までのソーシャルメディアと言えば、ユーザからの能動的なフィードバックを期待するしかありませんので、更にその難易度は高かったと言えるでしょう。

そして、昨年までのソーシャルメディアは、ユーザとユーザ、ユーザと企業、それらの関連の中での「コミュニケーション」が重視されてきました。つまり「ユーザの声」というものを集めることが大事だったわけです。機能的には「コメント」の投稿が、すなわちユーザの声となります。これは人間が読むことはできますが、残念ながら「分析」をするには難しい情報となります。なかなか企業もユーザの声を活用することは難しかったのではないでしょうか?

キュレーションとその表明

昨年登場したワードに「キュレーション」があります。これは、ある個人が情報を収集し、整理し、そして共有する一連の流れを表した言葉です。ソーシャルメディアを利用している方であれば、興味深いWebページを見つけた際に、そのURLと共にコメントを付けてTwitterやFacebookなどに流す行為を頻繁に行っていたと思います。また、そのような人は、他のユーザが投稿したものに対して興味を持った際には、その投稿をシェアあるいはリツイートしてきたのではないでしょうか?まさにそれがキュレーションです。

人は無意識のうちに「自分にとって有益な情報かどうか」を判断し、それのみに対してリアクションを行っています。当然人が違えば興味や関心も異なりますので、人によってキュレーション対象となる情報には偏りが出るわけです。特にTwitterであれば、⁠あ、面白そうなツイートばかりだな。フォローしておこう」というように、自然と自分に合った情報発信者を選別しているはずです。

単にある分野に詳しい人の投稿、というだけで片付けていた昨年に比べて、今年はキュレーションを行っているユーザの属性分析および行動分析が行われ始めるようになると予想できます。例えば、ある企業の商品についてキュレーションをしばしば行っているユーザがいれば、そのユーザが他にどのような関心を持っているかをキュレーション内容の分析によって知ることができます。これにより「直接関心を持っていない距離2にいる潜在購買者」を見つけることができるかもしれません。

あるユーザがどのような分野に興味があり、キュレーション対象としているか、現在ではこれを分析するための確立された方法は残念ながら存在しません。もしかしたら今年は、何らかの定形化された情報によって、ユーザごとのキュレーション対象を機械的に処理できるようになるかもしれません。

ソーシャル上で消費されるコンテンツのセマンティック化

現在のWebサイトの多くは、ユーザが目で見て理解することを重視しています。もちろんSEOによって検索上位に来るための工夫が施されていることも多いでしょう。しかし、今日ではWebページは「人」⁠検索エンジン」だけでなく、⁠ソーシャルメディア」によっても消費されるようになりました。

昨年は、Twitterボタン、Facebook Likeボタン、mixiチェックボタン(あるいはイイネ!ボタン⁠⁠、そしてGoogle +1ボタンといった「ソーシャルメディアで共有するためのボタン群」がWebサイトに多く配置されました。ネットサーフィンをしていて、これらのボタンをよく見るようになったと印象を持つ人ばかりでしょう。しかし、大手のニュース配信サイトになればなるほど、各種情報が集約されたポータルサイトであればあるほど、これらのボタン群を見つけることができないことに、気がつかれていますでしょうか?

特に会員登録を行わなければ閲覧できないようなWebサイトでは、完全にソーシャルメディアへの対応が遅れていると言わざるを得ないでしょう。本来ネット上の情報は、できるだけ多くの人に閲覧されて初めてその役目を遂げていると言えるはずです。会員登録をさせる根拠は、情報の閲覧者がどういう属性なのかを把握するためでしょう。しかし、情報をソーシャルメディア上で消費させることにより、むしろ閲覧者の属性はより確かなフィードバックとして知ることができます。未だにそのことを知らないWebサイトオーナーは多いのです。

今年は、より多くのWeb上のコンテンツがソーシャルメディア上で消費されるようになると見ています。つまり、旧来型の会員登録をさせるような情報提供サイトが、こぞって移行を始めるでしょう。これにより、ソーシャルメディア上で昨年よりも多くのコンテンツが流通することになります。

このことが加速するにつれて、SEOだけでなくソーシャルメディアにて共有される際に「どういう情報を共有させるか」が注目ポイントとなります。つまり、見た目が重視されたWebサイトでは限界があり、Webページに記載された内容の「意味」を機械的に取り出し可能な状態が求められるのです。⁠ページ名」⁠説明文」といった単純なものだけでなく、より深い記述が今年は必要になるでしょう。セマンティックウェブという言葉がありますが、まさにWebのセマンティック化が盛んに行われ始めた年として、今年は人々の記憶に残るはずです。

人々の行動の蓄積と再利用

キュレーションは明示的にユーザが何らかの情報を他のユーザ向けに共有する行為を指しますが、今年はこれに対して逆のことが行われ始める最初の年となるでしょう。それは、暗黙的な人々の行動の蓄積と再利用、です。つまり、それがネット上であっても、そうでなくても、ある人が事前に了解をしていれば、例えば「ある商品を買った」⁠あるモノを欲しいと思ってる」⁠あるWebページを読んだ」⁠あるマラソン大会で完走した」などなど、日々生活している中で行ったことがソーシャルネットワーキングサービスに蓄積されていくわけです。

そう聞くと「え、怖い」と思ってしまうかもしれませんが、もちろんユーザの同意があって初めて行われることになるでしょうし、そういった点は非常に厳しく設計されるはずです。現状でも認可の取得方法と説明責任の不備によるユーザからの反発は起きていることであり、上記についてはこれまでのそういった経験がフルに生かされるようになるでしょう。また、蓄積と他人への情報公開は別の問題として扱われるべきですので、情報公開について制限をかける、あるいは予め公開範囲を了承した上で蓄積を許可する、といった感じになると思います。

昨年までは「ソーシャルネットワーキングサービスが提供する機能をユーザが使った履歴」がフィードとして流れているのが普通でした。しかし、今年からソーシャルネットワーキングサービスは、より人々の生活に密着してきます。ライフログという意味で今年は正しく情報処理可能な形で人々の行動が整理されていくでしょう。そして、それを使って企業は様々なビジネスを描くようになるでしょう。

今年の後半までには、上記のような環境が整うと予想できます。そうなれば、もはやユーザにとってソーシャルネットワーキングサービスの認識が変わるかもしれません。

Activity Streamsの本格活用

筆者は、Activity Streamsの登場から今まで、これはフィードの共通表現形式であり、異なるソーシャルネットワーキングサービス間でフィードの相互交換をするための標準仕様である、という見方をしてきました。もちろん今でもその範囲においてはそうだと考えていますが、実はActivity Streamsはもっと深い意味で理解する必要があります。

Activity Streamsにおけるあるフィードの表現は、以下のような構造となっています。

  • actor: フィード投稿者の情報
  • verb: このフィードが発生した原因となる行動(動詞表現)
  • object: このフィードの対象物の種別(映画、音楽、人、イベントなど)
  • (target: このフィードの具体的な対象の情報)

「誰が」⁠何を」⁠何した」という情報から構成されています。⁠フィードの構成要素なんだから当たり前じゃないか」と思った方は確かにそうなのですが、先ほど「人々の行動の蓄積と再利用」で言及した内容と一致すると思いませんか?

昨年は、ソーシャルネットワーキングサービスが提供するフィード一覧をAPIで取得する際に使われる表現形式として、Activity Streamsは利用されてきました。今年のActivity Streamsは、GETだけでなく、POSTにおいても使われるようになるでしょう。そうですね、人々が認可をした上で、生活において何らかの行動をした際に、それはActivity Streamsで規定された情報整理構造においてソーシャルネットワーキングサービスに記録されます。さらに、上記のどの軸で蓄積された情報を取り出し、そしてそれらをビジネスに生かしていくか、それを多くの企業が考え出し試験的にサービスを提供しだすのも、今年からではないかと考えられます。

Activity Streamsが採用されているわけではありませんが、Facebookは上記の仕組みをOpen Graphとして実装し、ベータ版として公開しています。Google+やその他のソーシャルネットワーキングサービスにおいても、今年は同様の環境を構築し、リリースをすることでしょう。そして、またしてもFacebookとその他で仕様が異なるという状況が生み出されてしまうのではないかと見ています。

何にしても、Activity Streams仕様はエンジニアであれば抑えておく仕様と言えます。

ソーシャルWebを支える認証認可のさらなる広がり

昨年は各社のAPIの認証認可機構がOAuth2.0に完全移行し、ほとんどの開発者がOAuthという言葉を聞くことになった年でした。今年はソーシャルメディアの企業からの利用が進むにつれて、OAuthの利用数も比例して多くなるでしょう。

現状では、あるWebサイトでソーシャルネットワーキングサービスへのログインを行う際に、OpenIDでのログインとOAuthでのログインの2種類が存在します(OAuthは認可機構ですが認証も伴いますので⁠⁠。これの相互運用は現状できません。そのため、先に普及したOpenIDを採用しているWebサイトでは、今後ますます主流になるOAuthに対応するためには、ユーザに2回認証をさせることになってしまいます。これは非常に不便というか、ありえない状況ですね。

そのため、OAuth上でOpenID相当のことを実現するための「OpenID Connect」が昨年提案されています。これは本当にOAuthの延長なのですが、今年は各社がOpenID Connectを部分的に実装し、それを使い出すWebサイトが現れることでしょう。OAuthベースで提供されている既存のAPIを利用することができるようになる、という利益がもたらされますので、OpenID Connectに移行するモチベーションは比較的高いのではないか、と見ています。

人々の行動を蓄積するにあたって、ソーシャルネットワーキングサービス各社が独自に行うだけであれば、各サービスの認証を通せばそれで完了です。しかし、オープンなソーシャルWebという広い範囲で考えた場合、それらの蓄積された情報は一つのソーシャルネットワーキングサービス内で消費されるだけでなく、他のサービスにも共有され、そして何らかの利益を得られることが重要になるでしょう。そのためには、認証が特定のサービスで行われたとしても、それを引き継ぐことができるための工夫が求められます。

WebFingerやPortable Contactsにより、それがActivity Streamsと組み合わせられることで、対象の情報のactorが標準的に規定された状態で扱われることが可能になります。ここまで今年到達するとはちょっと考えにくいのですが、ソーシャルWebを現実にしたいと考えている主要メンバーによって、こういった仕様策定も今年はもっと現実的に進むのではないかと考えます。

まとめると2012年は?

GoogleのソフトウェアエンジニアであるJoseph Smarr氏のブログの昨年7月27日のエントリにて、OSCON 2011で使用されたプレゼン資料が公開されていました。その中で、何が到達されれば僕らは勝利したと言えるのか、その項目が以下のように書かれていました。

  • ユーザは、背後にある彼らの友人とそのデータを"やり直す"または"捨てる"ことなく、新しいサービスを試すことができる
  • ユーザは、お互い知らない(あるいはお互いが好きな)サービス間で接続することができる
  • 開発者は、"ソーシャルWebエコシステム"で繁栄し、すぐに成功を見つけることができる
  • ソーシャルWebは革新的な、活気に満ちて、そして(ちょうどWeb自体のような)誰も所有していない

これらは今「実現されている」と読者の方々は自信を持って言えるでしょうか? まだまだ全然到達されていない、と言わざるを得ない状況と言えるでしょう。しかし、今年は上記が達成されるための着実な進化が、各ソーシャルネットワーキングサービスからもたらされるはずです。

日本のソーシャルメディアに関する市場は、欧米に比べてちょうど1年遅れている、という印象です。海外では、Joseph Smarr氏が言うようなソーシャルWebの実現に向けて本格的に動き出す年となるでしょう。ただし、日本ではソーシャルメディアの利用がやっと単なる流行を終えて本格化する年となりそうです。ただし、ソーシャルゲームという点においては逆の構図を何とか描けるでしょう。海外でも日本式のソーシャルゲームが同じように多くの人に受け入れられるかどうか、注目です。

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