新春特別企画

2015年のソーシャルWeb

あけましておめでとうございます。よういちろうです。

毎年、ソーシャルWebというお題目で動向予測などを寄稿させていただいております。6年目となり、小学生もいよいよ最後の小学校生活という感じになってしまうわけですが、ソーシャルWebというテーマで今年はどのようなことがおきるのか、思っていることを話します。

今までどんなことを述べてきたかが気になる方は、以下のリンクからお読みください。

ソーシャルサービスの国取り合戦

近年のソーシャル関連サービスの競争は非常に激しいものがありました。特に、各国で首位だったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)とグローバルなSNSとの戦いが注目されてきましたが、昨年でそれも一段落した感があります。

各国で流行っていたSNSが終了してしまったこともありましたし、グローバルなSNSがシェアを拡大して、一部のアクティブユーザのみが利用するSNSとなってしまったこともありました。特に筆者としては、Google社が運営していたOrkut(ブラジルやインドで流行っていました)が昨年の9月30日で終了してしまったことが印象的でした。ロシアや中国は事情が異なるのですが、それ以外の多くの国では、FacebookがシェアNo.1を現在保っている状況です。その後をGoogle+が追いかけている構図と言えます。もちろん、その戦いにTwitterも含まれます。存在感としては、Facebook、Twitter、そしてGoogle+という順番でしょう。

若者に飽きられつつあるFacebook

圧倒的なユーザ数を誇るFacebookですが、実際はその戦いがすべて順調かというと、そうではなさそうです。昨年末に、気になるニュースが世界を駆け巡りました。

この調査によると、米国の10代の若者のFacebook利用率が、2012年の95%から今年は88%に落ちた、という結果が出ています。もちろん88%はとても良い数値なのですが、減少傾向という点では注目すべき数値と言えるでしょう。SNSを使うユーザ層は、若い年齢になればなるほどアクティブに利用するはずですので、Facebookにとっても無視できない調査結果だったはずです。

その若者達がどこに行ってしまったのか? その答えは読者の皆さんもきっと把握されていると思います。

メッセージングアプリの台頭

先ほどの減少傾向の対象だったものは、実はFacebookというWebサイトやスマートフォンアプリに対するものでした。それらから離れたユーザは、従来型のFeedを中心としたSNSから、メッセージの送受信によるコミュニケーションを行うためのメッセージングアプリに移行しています。今までも「おそらくその流れが起きるのではないか」と言われていましたが、先の調査でそれがいよいよ表面化してきた、ということになります。

実はFacebookから離れた若者の中で最も使われているメッセージングアプリは「Facebook Messenger」だったというオチがつくのですが、それだけメッセージングアプリがSNSを脅かす存在だということです。特にPCからSmartphoneへの移り変わりが、そのままこの構図を産んだと言えます。

そのことに気がついた企業によって、昨年はメッセージングアプリを開発している企業の買収が相次ぎました。

  • 2014年3月: 楽天がViber Media Ltd.の株式取得を完了
  • 2014年10月: FacebookがWhatsApp社を買収完了

どちらも2014年2月の時点で正式に発表されていたのですが、年内に完了した模様です。特に英語圏で大きなシェアを持っていたWhatsAppがFacebookの仲間入りをするとは誰も考えていなかったのではないでしょうか。

メッセージングアプリの国取り合戦

SNSがかつて各国のシェアNo.1を競っていたのと同じように、昨年まではメジャーなメッセージングアプリが各国のNo.1を得るべく、プロモーションに非常に力を入れていた年でした。以下のWebページでは、2014年1月から3月の間のダウンロード数を基準とした各国でのメッセージングアプリのシェアが示されています。

昨年末時点では上記とは異なる状況になっていると思いますが、どれか一つで統一される状況というよりは、各国の通信事情や文化といった事情によって人気が出るメッセージングアプリが選択されているという状況のようです。インターネットの利用が可能な人口の多い国については、昨年中にほぼ何らかのメッセージングアプリの普及が進み、今年はメッセージングアプリの勢力図については大きな動きはないのではないかと筆者は考えています。

もちろん、ちょっとしたきっかけで、ある国の人気メッセンジャーアプリのランキングはあっという間に変化する可能性もなくはないです。そういったチャンスを確実に掴めるかどうかが、メッセンジャーアプリの生き残りを左右しそうです。

今年は、Facebook, Twitter, そしてGoogle+といった従来のソーシャルメディアは、あまり注目されないと思います。それよりも、従来のソーシャルメディアを駆逐するようなメッセージングアプリの使われ方が数多く登場することで、人々のソーシャルメディアへの見方も大きく変わっていくことでしょう。マスメディアがFacebookやTwitterを現在活用していますが、そういった流れも、昨年以上に今年は次々とメッセージングアプリに変わっていくことになるでしょう。

Googleの参入は……?

メッセージングアプリの競争が激化していますが、その中に当然入っているべき存在が入っていないことに多くの人が気づいていると思います。そう、Googleです。Facebookは、Facebook MessengerとWhatsAppという2つのメッセージングアプリを展開し、LINEやWeChatなども力をつけてきています。その中にGoogleの名前がなかなか挙がってこないのは、とても不思議なことです。

もちろん、Hangoutというアプリケーションを早くからリリースしていますし、何もしていないわけではありません。動画でのチャットという点では、他のメッセージングアプリを寄せつけないレベルの機能を提供しています。最近ではSkypeとどちらを使うか迷うことも多いと思います。ただし、一般のユーザに広く受け入れられているかとういうと、はっきりとYesとは言えないと思います。

Googleは昨年の11月に、Hangoutsとは別のメッセージングアプリをAndroid向けにリリースしました。

このアプリはSMSやMMSを送受信するアプリであり、機能的にはとてもシンプルです。実際、Googleがこのアプリケーションをどのような思惑でリリースしたのかはわかりかねますが、現状のメッセージングアプリ市場にGoogleがどう切り込んでいくのか、今年何か動きがあってもおかしくはないのかな、と筆者は勝手に予想しています。今後の動向が楽しみですね。

より実用的なサービスを、より手軽に

一昨年までのソーシャルメディアの使い方は、⁠多くのユーザを1箇所に集客し、全員に広告的な内容のFeedを投下する」ということが主流でした。ソーシャルメディアの特徴である「興味があるユーザを集める」ことを活かして、効果的に情報提供を行っていくことが可能でした。投下された情報に対してユーザがコメントすることで、企業は顧客からの声を直接得られる、そういう使い方でした。

多くの企業がこれにチャレンジし、失敗してきたと思います。

これはFacebookやTwitterだけでなく、LINEなどのメッセージングアプリにおいても同様だったと思います。うまくいけば良いのですが、ほとんどの場合「誰も反応しない」⁠炎上する」という2つの大きなリスクがあり、得てしてそのリスクはすぐに現実のものとなってしまいます。とにかく運用が難しく、ただ場があればそれで良いということではダメだった、ということが結論づけられたと言っても言いすぎではないでしょう。

より個人をターゲットにしたアプローチを企業はできないものか、つまりパーソナライズされたサービスというものを提供することが近年叫ばれるようになりました。しかし、それは従来非常に高いコストがかかることだと認識されてきたと思います。Customer service、いわゆるCS業務を想像すれば、⁠あ、確かに」と思っていただけると思います。そして、従来型のSNSではできないことの一つだったと思います。

パーソナライズがどんどん進む

昨年からLINEで始まったBusinessConnectは、メッセージングアプリの可能性を示す特徴あるサービスでした。これは、メッセージの送受信によって、従来各企業が顧客に提供してきたサービスをLINE内で利用可能にするものです。例えば、各企業が提供するアプリを個別にインストールする必要はなく、LINEから対象の公式アカウントを友だちにするだけで、その企業が提供するサービスを利用できます。

既に昨年度中に事例が生まれ始めています。TV番組内で視聴者から意見を募集し、いくつかの意見をテロップで表示するといった適用例は既に一般的です。また、面白い事例としては、ガリバーインターナショナル社が提供する「DRIVE+」では、車とユーザをLINEでつなぎ、停車場所や停車してからの時間、ガソリン残量からの走行可能距離の算出などが可能になっています。Salesforce.comやOracleとの連携によるCRMやCS機能の提供も予定されています。

昨年に発表された提供予定サービスが、今年は次々と登場してきます。ワクワクしながら待ちましょう。

「お金」に関するサービスも、もっと身近に?

また、海外に目を向けてみると、中国ではWeChatを使ってスマートフォンから直接金融ファンドに投資する機能が昨年リリースされています。

SMSを使ったテキストメッセージでのオンラインバンキングサービスは昔からありました。今年は、そういったお金が絡む分野におけるメッセージングアプリの存在感が増してくるのではないか、と考えています。もちろんセキュリティが正しく確保されるかどうかが注目すべき点ですが、CSや銀行など、より身近で実用的なサービスをメッセージングアプリから利用し始める年になるのではないか、と期待しています。

さらに、メッセージングアプリ大手が、独自の決済システムを提供し始めていることも、昨年大きなニュースになったと思います。

FacebookやTwitterで「何かを買ったり個人間で送金したり」といったイメージはほとんどなかったと思います。メッセージングアプリは、そういった分野にも進出してきています。今年は世界中でそういったメッセージングアプリが提供する決済手段を組み込むことが盛んに行われるようになるでしょう。

米国を始めとして、いくつかの国では「現金は持たず、クレジットカードで支払うのが当たり前」ですが、今年から多くの国で「現金もクレジットカードも持たず、スマートフォンだけあればOK」という状況に変わっていくものと思います。スマートフォンが昨年以上に重要な持ち物になっていきますので、落とした時でも大丈夫なように、各サービスは知恵を絞って安全性を追求していってほしいですね。

モノとソーシャルがつながる時代に?

ソーシャル性を持ったサービスは、人間関係を持ち込むことで従来にない価値を得ることができるようになりました。現在のソーシャルメディアやメッセージングアプリでは、⁠人と人」⁠人が発したことと人」という人間関係間での情報のやり取りが中心となっています。⁠企業と人」であっても、基本的には人と人です。

今年最も大きなトピックとなるテーマは、おそらくウェアラブルデバイスとセンサーデバイスだと考えています。そして、ソーシャルは人間関係だけのものではなくなるのでは、と予想しています。

身につけるデバイスが生み出すデータと人間関係が紐づく

Androidの世界では、既にいくつかのスマートウォッチ製品が発売されていて、読者の方々も持っている割合はそう低くないと思います。また、来年はApple Watchの発売が開始されるでしょうから、より多くの人がウェアラブルデバイスを所有するようになると考えられます。

ウェアラブルデバイスのユースケースとして真っ先に思いつくことは、健康系アプリとの連動です。身につけている人の日々の活動をウェアラブルデバイスが自動的に記録していくことで、その人にとって非常に価値のある統計情報が作られていきます。どこに行ったか、何歩歩いたか、何を食べたか、そういった情報が蓄積されていくわけです。

既に米国では、ユーザのログ分析に使われるクラウドサービスに蓄積される情報において、ウェアラブルデバイスが生み出した情報である割合が増えているそうです。人間が能動的に何かテキストを打ち込むこととは違い、ウェアラブルは暗黙的に情報が生み出されていきますので、その量は従来では考えられないような大きさになることは容易に想像できますね。もちろん、蓄積された情報は一つ一つが非常に小さなものなので、統計分析処理を行うことで価値のある情報に変換していくことが盛んに行われています。

少なくとも「誰の情報なのか」という情報と共に蓄積されていると思いますが、今年はこれらの情報が蓄積されていくだけでなく、統計分析や情報の二次利用の中で「人間関係と絡める」という試みが始まる年になると考えられます。その結果どんな新しい発見がもたらされるか、大きく期待しても良いでしょう。

お店と出会う、商品と出会う、実際に

ウェアラブルデバイスやスマートフォンデバイスを「常に持ち歩いている」ということは、すなわち「その人が常にネットに接続されている」ということを表しています。今までは、それを活かすために「どこにいても受けられるネットサービス」が次々と生み出されていきました。インターネット環境が身近にあるという事実からすれば、それは極々自然なことでした。

しかし、今年は次のステージへと進みそうです。インターネットという大きなネットワークではなく、⁠その場所に行って初めて参加できるネットワーク」の提供が今年から試みられると思っています。⁠それってLANのこと?」と思った方は、半分当たっていますし、半分間違っています。ウェアラブルデバイスやスマートフォンデバイスは、何もインターネットと接続するだけのものではありません。BluetoothやNFCといった近距離通信技術を使って、その場に行った時に自動的にその場で参加可能なネットワークから価値のある情報を得ることが実際に体験できるようになると思います。

Appleの世界であればiBeaconがそうでしょうし、Bluetoothであればもっと広いデバイス間で通信が行われるでしょう。実はソーシャルゲームでもこれは昨年から起きていたことです。ミクシィ社のモンスターストライクは、Bluetoothによる近距離通信によって同時に4人でプレイすることができました。これが起爆剤になって一気に流行っていった、ということだと思います。

ネット販売に代表されるインターネット利用ではなく、店舗に行くことで得られることが今年は増えていくことでしょう。そこに行くだけで、ウェアラブルデバイスやスマートフォンが反応し、得られた情報がその人が興味あることと合致することで、最終的に購入への可能性が高まると思います。もちろん、そこにはソーシャル性が組み込まれていくはずです。⁠友だちや知り合いの紹介で来た」ということが事前に店舗側が把握することで、わざわざ何も言わなくてもお得な情報が得られる、などのようなことが試みられるのではないでしょうか。

「大きなインターネット」「その場所に行って初めて参加できる小さなネットワーク」「ソーシャル⁠⁠、この3つのキーワードで今年のソーシャルWebは語られるようになると考えられます。

まとめ

コンピュータの進化は、もちろんハードウェアの進化に依存しています。今年は、ウェアラブルデバイスや近距離通信という組み合わせによる「新しいハードウェアとその環境」が使われ始める年になると思います。そこに近年培われてきたソーシャルWebがどのように取り込まれ、どんな楽しい世界になるのか、または非常に危険な世界ができてしまうのか、面白い一年になりそうです。

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