新春特別企画

2017年のChat bot

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Chat Botの勝者と敗者が見えてくる

昨年から現在に至るまで,Chat Botに関する人々の認識は「AIによって会話を理解しながらサービスを提供するChat Botを作れるようになった」だと思います。そのため,Chat BotはAIが必須だ,と思っている方が非常に多い印象です。実際筆者もChat Bot勉強会に顔を出したことがあるのですが,実態はAI勉強会でした。やはり,自然言語を処理して何かを返すという「人類の夢」だったことが実現していることになりますので,人々が注目してしまうのも無理はないかもしれません。

しかし,今年は様々なChat Botがユーザに提供されていく中で,その取捨選択が非常に速い速度で進んでいく年になると考えられます。つまり,人気となるChat Botと,そうではないChat Botが,はっきりと分かれてくる,ということです。

ユーザはスマートフォンやPC,スマートウォッチ,旧来型の携帯電話など,多種多様なデバイスからインターネットに接続していますが,メッセージングアプリの主戦場はスマートフォンです。そして,インターネット上でサービスを提供している企業にとって,できるだけサービスとユーザとの接点を多く持つために,それらのような様々なデバイスに対してサービスのUIを提供しています。つまり,企業からしても,ユーザからしても,Chat Botというものは「サービスのUI」であり,Chat Botそのものがサービスの本質ではありません。

例えば,AIを駆使して,ユーザとの会話を可能にし,その会話の中からサービスを利用可能としたChat Botが登場したとします。ユーザは,普段友人との会話と同じように,自然言語,つまり日本語で何か話しかけなければならないとします。そのChat Botの開発者としては「会話がどんどん進む中でサービスの機能が利用できるようになるんです。すごい!」と思っているかもしれません。

でも,よく考えてみてください。ユーザはそのChat Botを使おうと思った理由は,そのChat Botが提供してくれるであろうサービスを利用したかっただけです。会話を楽しもうなんて思っていないでしょうし,ましてや何を話しかけたら良いのか,さっぱりわからない状態なはずです。いくら後ろに備わっているAIが素晴らしい状態だとしても,⁠会話がどんどん進む中で」という前提条件は,最初から崩れています。つまり,あまりにもChat BotとAIの組み合わせを頑張ってしまうと,ユーザにとっては「使い方のわからないChat Bot」と思われてしまい,全く使われなくなってしまうでしょう。

メッセージングアプリ内でのChat Botは,あくまで「制限の厳しいUIのひとつ」と捉えたほうが,ユーザ体験は比較的良い方向になると考えて良いでしょう。その証拠に,Facebook MessengerやLINE,WeChatでは,ユーザに対してChat BotからAPIでテキストメッセージが送れるだけでなく,選択肢をユーザにいくつか提示するUIや,クリック可能な画像を表示する機能などをAPI経由で利用できるようにしています。

Facebook Messenger - ボタンテンプレート(左図)⁠
LINE Messaging API - Buttons(右図)

画像 画像

このような選択肢をユーザに提示することで,ユーザはChat Botに対してどんな操作をすれば良いのか,明確にわかるようになります。ほとんどのサービスについては,ユーザからの自然言語での文章入力は必要なく,むしろ上記のような選択型のUIを提供してあげたほうが,ユーザ体験としては良いものになると考えられます。そこにAIは,もしかしたら必要ないかもしれません。

それに対して,例えばカスタマーサポートといった分野については,ユーザからのヒアリング内容が非常に重要な要素となります。もちろん,ユーザにとっても自分の状況や困っていることを説明するモチベーションがあるので,文章入力についても自然な行為として受け入れることができます。そして,入力された文章から,ユーザが困っていることへの解決策を導き出していくために,AIは非常に有効に働きます。

今年は様々な取り組みがChat Botに対して行われるでしょう。そして,Chat Botのみを扱うベンチャー企業もいくつも生まれることでしょう。しかし,その中には,うまく人気を得ることができずに,撤退する企業も出てくると思います。そのような活動の中から,今年はChat Botの市場が成熟していくのではないかと考えられます。

ChatではないBotの登場

昨年は,Botと聞くと,AIを組み合わせたメッセージングアプリ内での特別なアカウントのことを指していました。つまり,メッセージングアプリ内でユーザとテキストコミュニケーションを中心としたやり取りを行うためのプログラムのことです。これはまだ当分続くと思われますし,これからの市場ですので,今年はその範疇において,活発な動きがあると見て良いでしょう。

しかし,実はこのChat Botは,その先の未来に続く進化のほんの入口なのではないか,と筆者は捉えています。そして,その先の未来は,昨年既にその片鱗を見せていました。それは何かと言うと,⁠音声」です。

Amazonは,2015年からAmazon Echoという音声アシスタントデバイスを発売しました。Amazon Echoの後ろには,AlexaというAIが待ち構えていて,ユーザがそのデバイスに話しかけた内容を理解し,それに最適なアクションを起こしてくれます。そのアクションとは,ネット検索,家電の操作,Amazonでの買い物,そしてタクシーを呼ぶことさえできます。

そのAlexaで解釈された内容を,Alexa Skills Kitと呼ばれるSDKを使うことでテキストに変換された形で受け取ることができます。そして,必要なことを行った後に,返事をやはりテキストでSDKに返すことで,Amazon Echoが音声としてユーザに伝えてくれます。

また,昨年発売されたGoogle Homeについても,Actions on Googleを利用することで,Amazon Echoと同じように独自のアクションを作れるようになります。

実はこの仕組みは,メッセージングアプリでのChat Botとほとんど同じです。違う点とすれば,ユーザが行うことが文字入力なのか,声を発することなのかの違いだけです。つまり,今からChat Botの開発に取り組むということは,Amazon EchoやGoogle Homeといった音声を扱うデバイスに対するBotを開発するためのノウハウを学んでいることと,ほとんど同じなのです。

日本ではAmazon EchoやGoogle Homeはまだ発売されていませんが,米国では昨年から人気を博しているようです。もちろん,今年は日本にそれらが上陸する可能性はとても高く,一気に多くの人が手にすることになると思われます。今年は,先行者としてそのための準備を始める絶好の年と言えそうです。なぜなら,まだ見えないものを対象にして開発するのではなく,実際にユーザに使ってもらえるChat Botという形で開発を進めていくことが,その先の未来に直結しているからです。

もちろん,Chat Botがそのまま音声入出力型のデバイスで利用できると言うことではありません。スマートフォンよりも,音声入出力型のデバイスのほうが数十倍UIとして貧弱なものです。まだ考えるのは日本では早いかもしれませんが,音声の場合はどうなるのか,と想像しながらChat Botの開発をすることは,大きな価値があるはずです。

まとめ

Chat Botは,昨年よりもさらに今年は賑わいます。そして,ユーザは多くの体験をすることになります。その中で,勝者と敗者が出てくるでしょうし,Chat Botとして最適なデザインはどういったものなのか,確立されていくでしょう。もちろん,AIがよりChat Botで活用されるようになり,それらがお互いに補完し合いながら技術的にも市場的にも大きくなっていく年となりそうです。

さらに,その先の未来にもつながっているChat Botですし,実はChat Botを作り始めること自体は,他のアプリに比べてとても簡単な部類のものです。今年はぜひ一度Chat Botを作ってみてください。そして,近未来の姿を実感してみてください。

著者プロフィール

田中洋一郎(たなかよういちろう)

Google Developer Expert(Chrome担当)。Mash up Award 3rd 3部門同時受賞。『開発者のためのChromeガイドブック(Google Expert Series)』を出版。

Blog:https://www.eisbahn.jp/yoichiro
Twitter:@yoichiro

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