サイバーエージェントを支える技術者たち

第43回UI/UXの観点からサービスの品質をチェック

渡辺将基氏
渡辺将基氏

現在サイバーエージェントのUI/UXディレクターとして、スマートフォン向けサービスの品質管理を行っているのが渡辺将基氏です。今回は、サイバーエージェントに転職することになった背景や、UI/UXでのチェックポイント、そして業務を進めていくうえで大切にしていることなどを渡辺氏に伺いました。

モックプランコンテストの受賞をきっかけに入社

スマートフォン向けサービスのアイデアを競い合うコンテストとして、社内向けと一般の社会人や学生向けにサイバーエージェントが開催しているのが「モックプランコンテスト」です。ユニークなのは、企画内容だけではなく実際のモックアップをもとにアイデアを評価するという点。サービスのアイデアを画面遷移やシミュレータ動画といった形にして応募し、決勝ではサービスのモックアップを使ってプレゼンテーションを行います。最終的に入賞すれば賞金が授与されるほか、エンジニアとしてサイバーエージェントに入社できる内定パスが付与されるという副賞もあります。つまり、このコンテストで高い評価を得られれば、サイバーエージェントで自分の力を発揮できるというわけです。

このモックプランコンテストで受賞し、実際にサイバーエージェントに入社したのが渡辺将基氏です。このコンテストに応募したきっかけについて、渡辺氏は次のように話します。

「サイバーエージェントに入社する前は、コンシューマー向けのネットサービスを展開している大手企業にいたのですが、社員がおもしろいと思うことでも社内的な制約によってなかなか実現できないことも多く、僕自身も仕事に対して少しくすぶっているような感じがありました。そんな日常の中で、自分のアイデアやこれまでの経験を活かし思うがままにサービスを開発してみたいと考えていたところ、モックプランコンテストのことを知って応募してみたわけです。それまでUI/UXにはこだわりを持って仕事をしている自負もあったので、このコンテストに応募して何も引っかからなかったら、ちょっと自身の進退を考えたほうがいいかもと思っていました」⁠渡辺氏)

モックプランコンテストに応募したアイデアは、写真を軸としたサービスだったとのこと。

「簡単に言えば画像投稿サービスなのですが、同様のほかのサービスだと、投稿した写真がほかの多くのユーザの投稿に埋もれてしまうように感じていたんです。そこで、投稿者全員がモチベーションを保てるような簡単なしくみを作って提案しました。実はサイバーエージェント社内でも同じようなサービスを準備中でカニバリゼーション[1]が起きていたのですが、モックプランコンテストの趣旨に添ってUIの完成度で評価していただけたようです」⁠渡辺氏)

渡辺氏はこのモックアップにより見事に優勝し、これをきっかけとしてサイバーエージェントに転職を決意することになります。ただ、実際には少し躊躇する部分もあったようです。

「家庭を持っていることもあり、日々深夜まで業務が続くような会社で働くのは難しいかもしれないと思っていました。要は勝手な先入観で、サイバーエージェントに激務だというイメージを持っていたんですね。しかし社内の事情を聞くと、自分のイメージとは違ってバランスが取れていそうな環境だったこともあり、入社を決意しました。逆にイメージどおりだったのは、風通しの良さや意志決定の速さです。社内には若いプロデューサーやエンジニアも多く、活気のある会社だと感じています」⁠渡辺氏)

モックプランコンテストの決勝プレゼンの様子
モックプランコンテストの決勝プレゼンの様子
単に企画内容を説明するのではなく、作成したモックアップを元にプレゼンを展開する

早い段階からプロジェクトに関わり積極的に改善点を議論

現在渡辺氏は、UI/UXの専門家として、サイバーエージェントが続々とリリースしているスマートフォン向けサービスの品質管理に携わっています。ただ、そのような役割を担うのは渡辺氏が初めてだと言います。

「これまでのサービスは、強いて言えば社長の藤田がチェックしていたのですが、当然ながら時間的な制約もあり細かなところまで見るのは難しいため、基本的な方向性を担当者に指示するといった程度にとどまっていたようです。私の業務は、それをもう少し具体的なレベルまで落とし、現実解を導き出すことになります」⁠渡辺氏)

それでは、具体的にどのように品質を管理し、サービスを改善しているのでしょうか。これについて伺ったところ、実際にサービスを開発している担当者と一緒になって、細かなところまで突き詰めてサービスを改善しているという答えが返ってきました。

「サービスの方向性を決める会議やミーティングから関わり、サービスの企画内容まで踏み込んで議論を重ねます。逆に言えば、そこまで関わらないと自分のバリューが出せないと思っています。私は結構数学的な考え方をするのですが、サービスについて検討するとき、いろいろなバランスを考えながら突き詰めていくと、1つか2つくらいの解に落ち着くことが多いんですね。つまり、しっかり考えれば落としどころが見えてくる。その結果をもとにUI/UXを改善していくという流れになります」⁠渡辺氏)

品質管理と言えば、サービスがリリースされる直前にチェックするというイメージがありますが、渡辺氏はプロジェクトの初期の段階から関わっていくことが重要だと説明します。

「私が入社したときは、スマートフォン向けサービスのリリースラッシュという状況でした図1⁠。それらのプロジェクトのうち、問題のあるものすべてについての改善会議に出席し、具体的な改善内容を考えるところからスタートしました。そこでわかったのは、できるだけ早い段階でチェックしなければならないということでした。最初のネガティブチェック[2]の段階から精査をしておかないと、問題があったときの作り直しのコストが余計にかかります。また、システム的にも柔軟性がなくなってしまい、そもそも改修が難しくなってしまうことも多いです。今は、私と近い仕事をしているグループと連携し、サービスの企画が固まってこれから画面仕様を作るといった段階から、プロジェクトに携わるようにしています」⁠渡辺氏)

図1 Amebaで展開されるスマートフォン向けコミュニティサービス
図1 Amebaで展開されるスマートフォン向けコミュニティサービス
Amebaのスマートフォンプラットフォームの特徴として、ゲーム以外にもさまざまなコミュニティサービスが充実している点が挙げられる。バリエーション豊かなプロジェクトの成功体験/失敗体験をノウハウとしてストックし、新規プロジェクトに還元している

当然ですが、やはり一度スタートしたサービスを改善するのは大変なようです。さらに渡辺氏は続けます。

「たしかに、実際にリリースしなければわからない問題もあります。ただ一方、リリース前にチェックできる改善点というのも確実にあるわけです。ですので、もっと風通し良く、何でも言える段階でチェックして、改善すべきポイントを考えていくことが絶対に必要だと考えています」⁠渡辺氏)

ただ、このような品質管理の重要性は、渡辺氏が入社する前からサイバーエージェント社内で認識されていました。その1つとして社内的に行われているのが、リリース前にマネージャー陣でサービスのリリース可否を判定する「K点越える君」と呼ばれる会議です。ただ、これでもまだ十分ではないと渡辺氏は話します。

「K点越えのチェックは各サービスで行っています。ただ、チェックするのはサービスリリースの直前なので、現実的に『もうリリースしなきゃいけない』という雰囲気があり、大幅な改善が必要だとわかってもなかなか実施できません。確かにK点越える君が導入されたことで、リリースされるサービスの品質は確実に向上したと思います。しかし、次のステージに行くためには、K点越えのチェックを行う前にも、第三者的視点で改善すべきポイントを洗い出す機会を設けることが大切だと思っています」⁠渡辺氏)

UI/UXの枠だけで考えず、企画の領域にまで踏み込む

それでは、渡辺氏がサービスの品質チェックを行ううえで重視していることは何でしょうか。これについて伺うと、まず「わかりやすい」ことの大切さが語られました。

「多くの人がイメージするUI/UXという領域で言えば、重視しているのはわかりやすさです。ただ、わかりやすいというのはいくつかの要素に分解できます。その1つは『シンプルにする』ことです。勇気を持って絞り込み、シンプルなサービスにするというわけです。ただし、シンプルにし過ぎると奥行きがなくなってしまう可能性があるので、⁠シンプルに見せる』ことも重要だと考えています。⁠メリハリ』を付けることも意識していますね。このサービスは何ができるのか、何がコンセプトなのか、サービスのどの部分を押していきたいのか。それによって、そのサービスの良さを打ち出していく。サービスをチェックするときは、このあたりを特に意識しています」⁠渡辺氏)

さらに渡辺氏が強調するのは、UI/UXを単に見た目だけで考えるわけではないということです。

「逆説的なのですが、⁠UI/UXをUI/UX単体で考えない』ということをポリシーにしています。実際にUI/UXに落とし込むためには、そのサービスのターゲットユーザや属性、さらにはユーザがどのような気持ちでそのサービスを使うのかといったマーケティング的視点が必要ですし、実現コストとインパクトのバランスが取れた現実解を提案するためには、ある程度システムサイドの知識が必要です。そうした前提条件とセットでUI/UXを考えていく、あるいはチェックしていくことが大切だと考えています」⁠渡辺氏)

そのうえで、場合によってはUI/UXの領域からは外れる部分について指摘することもあるようです。

「たとえば、⁠こういう機能が足りない』というのは、一般的にはUI/UXの領域外かもしれません。ただ、そこから見ていかないと、サービスのレベルを上げられない。つまり、UI/UX以外の部分を切り離してUI/UXを考えても、サービスの改善にはつながらないわけです。UI/UXというと、どうしてもデザイン的なところに意識が行ってしまいますが、その前段階からしっかり考えていくことが重要だと感じています」⁠渡辺氏)

これからの課題は柔軟性のあるノウハウの共有

このように厳しい視点でサイバーエージェントのサービスをチェックする渡辺氏は、今後の目標としてノウハウの体系化を挙げます。

「サイバーエージェントとしてのこれまでのサービス開発におけるさまざまな失敗事例や成功事例から得られたものを、ノウハウとして普及させていくことが会社として重要になってきています。ただ、共有するノウハウに柔軟性がなく、単に『こうすればいいんだ』みたいな形になってしまうと、プロダクトが均一化してしまっておもしろくない。それでうまくいく会社もあるのですが、当社には向いていないと思っています。なので、ちょっと難しいのですが、表層的なノウハウではなく、本質を突いていて柔軟性のあるノウハウを蓄積していくことがポイントだと考えています」⁠渡辺氏)

具体的な取り組みの1つとして進めているのがUI/UX関連のTipsの発信図2で、このような活動を通じて、サービスのレベルアップを図っているというわけです。さて、その渡辺氏に個人的な目標を聞いたところ、プロジェクトチームで自分の力量を試してみたいと話します。

「現在は、プロジェクトチームから少し引いた立場でサービスの品質改善を進める立場にいますが、いつかはプロジェクトチームの中に入り、温度感を持ってサービス開発に携わりたいと思っています。今培っているノウハウを当事者としてビッグプロジェクトへ全力投下できたらどんなものができるのか、想像するとワクワクします」⁠渡辺氏)

図2 社内メルマガ「ユーザビリティ通信」
図2 社内メルマガ「ユーザビリティ通信」
普段の仕事の中ではインプットすることが難しいUI/UX関連の細かなTipsを共有するため、⁠ユーザビリティ通信」と題した社内メルマガを週1回のペースで配信する試みも開始。新規プロジェクトを立ち上げる際のチェックリストしてアーカイブを機能させるねらいもある

最後に、サイバーエージェントで実際に働いてみた印象を訪ねたところ、次のような答えが返ってきました。

「思っていた以上にチャンスが多い会社だと感じました。それも特定の立場の人にだけチャンスがあるのではなく、誰にでもチャンスがあると思える会社だと思います。また会社として固まりきっていなくて、常に変化していく力があり、大きな可能性が感じられます。特にエンジニアの方は、何が作れるのか、どんなおもしろいことができるのかといったところに重きを置いていると思いますが、そういう意味では最高の環境ではないでしょうか」⁠渡辺氏)

このようにやりがいのある職場を作り上げたサイバーエージェントは、次にどのようなサービスで私たちを楽しませてくれるのでしょうか。大いに期待したいところです。

サイバーエージェント公式エンジニアブログ
URL:http://ameblo.jp/principia-ca
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