SE稼業は忘己利他(もうこりた)─現場に転がる箴言集

第5回 目標なき開発

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はじめに

「目標なんてわかっている」という声が聞こえてきそうです。でも,あなたやチームの目標はずいぶん前から「動くソフトウェアを作ること」だけになってはいませんか。動作するソフトウェアを提供することなど当り前のことです。本当に目指すべき目標のことも知らずに,一体みんなはどこに向かって歩いて行こうというのでしょうか。前回より良い品質指標・コスト指標・生産性指標の目標は一体どこにいってしまったのでしょうか。

#29:仕事の最初にやるべきこと

仕事の最初にやるべきことは,最後の結果を具体的にイメージしておくことだ。

プロジェクト開始時に,最終的に自分が望む結果を描いておき,時間を逆に遡れば,何をいつまでに実行すべきかはっきりする。これができる人は成功の確率が高いが,できない人は失敗の確率が高い。また目標達成のためには,計画と成果の差異を常時チェックし,速やかにそのギャップを小さくする対策を行う必要がある。

何事でも,それを成し遂げようと思うならば,初めに,その終わりの姿がどうあるべきかを見定めておかなければならない。たとえば木を切る場合でも,切る前に,木の倒れるところをはっきりと決めておかなければ,倒れてしまった後ではどうすることもできない。

二宮尊徳,『二宮翁夜話』

#30:データドリブン~データに基づく仕事を

データに基づいて開発を遂行するということは,過去の自分ないしは自チームのQCD等のデータおよびそれらから導き出された次の目標データに基づいて仕事をするということである。データに基づかない仕事のやり方は,出たとこ勝負のやり方でプロの仕事とは言えない。

「指揮官は明確に目標を示せ」は,指導の原則であり,それを示し得ないものは指導者ではあり得ない。そしてこれだけは,過去も現在も変わりはない。

山本七平,『日本人的発想と政治文化』

#31:「なぜ?」の問いかけはコミュニケーションの質を深める

「なぜ?」の問いかけはコミュニケーションの質を深める。その結果,個人とその相互作用を活発にし,チームの自己組織化を促し,顧客との協調を深め,変化への俊敏な対応を可能にする。

自己組織化とはメンバーの自律性を確立するということであり,いちいちリーダーが細かいところまで指示することなくメンバー同士が各自の判断によって連携が可能となり,プロジェクトが遭遇するあらゆる問題を解決していくということである。

チームは要件と技術をプロダクトの機能に変換するように自己組織化する。このように地位やエゴがない開発チームは,柔軟性が高く,必要なあらゆる作業を行うことができる。

ケン・シュエイバー+マイク・ビードル,『アジャイルソフトウェア開発スクラム』

#32:喉元過ぎれば熱さを忘れる~失敗に学べない

客先にて大障害が発生した。開発チームは総がかりで原因の究明を徹夜で行い,幸いにも問題は終息した。翌日から何事もなかったように淡々と元の仕事に戻る。原因分析を記録したホワイトボードはすでに消されてしまい,皆でやりとりした情報もすでに散逸してしまっている。障害報告書には,××機能のプログラムミスについての簡単な説明および修正・評価済みの記述があるだけ。どのようにして問題を特定したのか,何が真因だったのか,再発防止策はどうするのかの記述もない。「喉元過ぎれば暑さを忘れる」とはこのようなことを言う。

自分自身の問題として考えないとどうなるか
今の日本には,ニヒリズムが蔓延しているのではなかろうか。ニヒリズムは,無力感の裏返しだ。これが嵩じると思考が停止する。(目の前に自分の問題が山積していても)自分の問題として考えない。いや,自分の問題として考えたくない。だから目をそらす。その問題に対して素朴な疑問を発しようとしない。自分自身の問題として考えないからである。こうして,無知な多重債務者の奈落への行進は続く。無知とは,知識がないことではない。無知とは問いを発することができない状態を指す。ロシアのことわざにもある。最後に死ぬのが希望だ,と。すべてを失っても希望は残る。希望まで失ったときが,ご臨終。

森巣博(作家)

ニヒリズム;既存の価値体系や権威をすべて否定する思想や態度。

#33:自分に対する評価を捨てるべし

他人からの評価で動くのではなく,自分の頭で考え,自分が仕事でなすべきことを自覚し,自分で目標を設定し,自ら行動すること。このような自律的な思考・行動によってのみ,人は他人への依存による束縛から自分を解放し,本当に自分が進みたい道を発見することができる。

行動を起こすためには動機づけしなければならない。だが,動機づけされていない人は多い。そういう人は哀れである。自分の人生を生きようという気があまりないのだ。私はいつも人が自分で思っている以上のものをその人の中に見出そうとしている。自分に対する評価を捨てるべし。たいていは,そうあるべきもの,そうでなければならないもの以下にしか自分を見ていないし,質が落ちているのはそのせいなのだ。自分のやっていることに専念し,自分自身を愛して欲しいと思う。 社会には手本となるような人がいて欲しいものだが,今日それは難しい。

ピータ・グレン,『それは私の担当ではありません』

#34:どこに向かって歩いているの?

目標の設定はプロジェクト活動の最初のもっとも重要な仕事だ。達成すべきあるいは達成したい目標が明確でなければ目標は達成できない。明確な目標はチームの力を結集させ,無駄な活動を防止し,プロジェクトの効率的な活動の原点となる。

何を目的としているかが把握できないから,どこに「当面の目標」を設定すべきかさえ不明だと言うだけである。

山本七平,『日本人的発想と政治文化』

実際に会社に利益をもたらしてくれるのは,現場で働いている人たちですから,そこにしっかりと思いが伝わらないと,改革は進みません。「壁」というのは物理的な壁,組織の壁…といろいろあるのですが,突き詰めていくと人の「心の壁」に行きあたると思います。これを壊すのが一番たいへんです。

吉川廣和(DOWAホールディングス 会長)

#35:塵も積もれば山となる

積小為大(せきしょういだい,二宮尊徳の言)とは,小さいものをこつこつと積み上げて大きな成果を生み出すということ。ひとが見向きもしないような小さなものでも有益なものを積み上げていけば社会全体を動かすような巨大な益を生み出す。塵も積もれば山となると言うが,積み上げるものは塵ではなく人の知恵だ。

途中であきらめてしまうから本当の失敗になる。あきらめずに挑戦し続ければ最後にはできる。「もうダメだ。やめた」これが本当の失敗。でも,やめないで続ける。いくつも材料を無駄にする。でも,そのうちできる。絶対できる。これは失敗ではない。

岡野雅行,岡野工業代表社員

おわりに

目標の設定および実行方法は次のとおりです。

  • 失敗の振り返りによりQCDの目標値を見つけること
  • 納期・コスト・品質に優先順位はないということ
  • スローガンではない具体的な数値で示される目標の設定をすること
  • 目標の条件は,
    • 現実的で達成可能であること
    • 測定可能な数値で示されること
  • 目標の立て方
    • 現状の問題点を洗い出し,その数値化を行うこと
    • 問題点の真因を明確にし,改善策を立案すること
    • 改善策の期待効果に見合った目標値を設定すること
  • 目標達成に向けて開発業務の中で改善活動を実行すること

目標の設定とはたとえで言えば,どこの山に登るのかを決め,それに必要な装備と体制を用意することに他なりません。エベレストに登るのと高尾山に登るのでは必要な装備もパーティの組み方も大幅に異なってきます。困難なプロジェクトを実行するに当たって必要な目標の設定をしないということは,エベレストにピクニック気分で行くのと同じことで必ず遭難することでしょう。目標の設定はリーダーの重要な職責のひとつです。

著者プロフィール

佐野洋(さのひろし)

現在,フリーコンサルタントとしてPMファクトリーを主宰。数十年にわたりPOSレジのファームウェア開発やプロマネ業務に従事。好きな言葉は「Boys be ambitious!」。信条は「弱き者も強き者も共に手を携えてその生涯を生き抜くこと」。

URL:http://www.geocities.jp/pmfactory_ambitious/

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